水力発電、風力発電に並び、未来の電力を担う再生可能エネルギー利用技術として注目されている太陽光発電。環境省は『2050年カーボンニュートラルのグリーン成長戦略』において、2018年時点で国内電力の17.4%を占めていた再生可能エネルギーによる電力量の割合を50~60%まで引き上げることを目指しており、太陽光発電へのさらなる期待が高まっている。
だが一方で、太陽光発電の課題も浮き彫りになってきたのも事実だ。10年前の2012年に導入された国の「固定価格買取制度」をきっかけに、日本のシリコン系太陽光パネルが急速に拡大。いまや世界第3位の規模を誇るも、その寿命は15~20年程度。そのため、数年〜十数年後には大量廃棄の時代を迎えると指摘されており、実際に3万枚もの廃棄パネルが運び込まれた処理場もあるという。
そんななか、新たな太陽光発電のタイプとして「ペロブスカイト太陽電池」が注目されている。今回は、ペロブスカイト太陽電池を開発する東芝の高須勲フェローに話を聞いた。
従来の太陽光パネルよりも軽くて曲げやすいフィルム型の太陽電池
ペロブスカイト太陽電池とは、2009年に桐蔭横浜大学の宮坂教授の研究グループが発明した、ペロブスカイトと呼ばれる結晶構造の材料を用いて太陽の光エネルギーを電気に変換する、新しいタイプの太陽電池のことだ。
2012年には世界の研究施設にてペロブスカイト太陽電池のエネルギー変換効率が10%を超えたという結果が発表され、2012年前後から日本企業でも開発の動きが目立つようになった。現在、東芝が開発中のペロブスカイト太陽電池の変換効率は、大面積型では世界最高レベルの16.6%を更新しているという。
「シリコン系太陽電池のエネルギー変換効率の理論限界値が29%だったのに対し、ペロブスカイト太陽電池は30%。今後開発が進めば、性能面でも申し分ないものになるはずです」(高須勲フェロー、以下同)
現在開発されているペロブスカイト太陽電池には、フィルム型、ガラス型などいくつかのタイプが存在するという。
「東芝では、より軽く、曲げやすい形で設計可能なフィルム型の開発に注力しています。平地が少なく、山地の多い日本では、従来のシリコン型太陽電池によるメガソーラーの設置場所が限られており、また山の斜面に置いてしまうと土砂崩れの要因になるとの指摘もあり、太陽光パネルの設置場所をこれ以上増やすことは難しくなりつつあります。薄型軽量のフィルム型であれば、大型の太陽光パネルを設置できなかった軽量屋根の工場や住宅、高層ビルや、東京ドームの屋根などに代表される膜建築への設置も可能になります」
東芝が開発をすすめるフィルム型ペロブスカイト太陽電池のイメージ図(提供:東芝エネルギーシステムズ株式会社)。
東芝のフィルム型のペロブスカイト太陽電池は、必要な材料を溶液化し、メニスカス方式と呼ばれる塗布方法で膜を形成することで製造される。この際、ペロブスカイト層、電子輸送層、正孔輸送層などを含めた発電層の厚みはトータルでわずか1μm(マイクロメートル=1mmの1000分の1)以下におさまるとされる。
「ペロブスカイト太陽電池の一般的な製造方法では溶液を2回塗りするところ、当社では1回塗りで製造することで、コストや製造時間の短縮にも取り組んでいます。また、世界ではより高効率のペロブスカイト太陽電池も開発されていますが、それらの多くは小規模な面積のものが多い。日本の各関連企業では、国が提示する再生可能エネルギー比率の達成に向けて、大面積のペロブスカイト発電電池の開発に注力しています」
2025年度にもペロブスカイト太陽電池の事業化がスタート
日本国内では、2025年度を目処に事業化が目指されているというペロブスカイト太陽電池。東芝でも、RE100(※)に参加する大企業などから活用を始め、流通量を増やすことを目標としているそうだ。
※事業活動で消費するエネルギーの100%を再生可能エネルギーで調達することを目標とする国際イニシアチブ
「最終的には薄くて軽い形状を活かし、電力が求められる発展途上国へ大量に輸送したり、災害時に備えて日頃から丸めて備蓄しておけるようなかたちにできたらと考えています。また、従来の太陽パネルでは廃棄物の多さやリサイクルの難しさが問題となっていますが、フィルム型ペロブスカイト太陽電池であれば、廃棄物の質量を抑えることができる。今後はさらに、リサイクルしやすい仕組みも検討していきたいと考えています」
国内市場の9割以上を占めるシリコン系太陽光パネルは、重厚なだけにかさばりやすく、リサイクルしづらいという課題を抱えている。画像:写真ACより
一方で、実用化にたどり着くまでには解決すべき課題も残っているという。
「フィルム型のペロブスカイト太陽電池の場合、熱や水、酸素に触れると壊れやすい材料も一部存在するため、いかに耐久力を上げていくかが目下の課題です。従来のシリコン系太陽電池と同様に、15年以上の耐久年数を達成することを目指しています」
より環境への負担が少なく循環しやすい太陽電池が普及し、日本の電力を支えるようになる日も近いようだ。
取材・文/清談社・田中慧