家を買うよりずっと安いことも
キャンプをするために山を買う人が増えている。
「一体どこの富裕層の話やねん」とツッコまれそうだが、一般の人たちが山林を購入したという話をポツポツ聞くようになった。
「山を買う」といえば、億の金を積むようなイメージがあるが、実は数百万円程度で買える物件はいくつもあり、狭小区画なら数十万円というものも。
キャンプブームが続く中、「プライベートなキャンプ地を保有して、足しげく通いたい」というニーズを反映してのトレンドといえる。
もっとも、いくら安い物件はあるといっても、それなりの価格はするし、買った後も管理にともなう苦労がある。それを見越しても、自分だけの山を持つことの魅力は、どんなところにあるのだろうか?
ひとつのケーススタディとして、2020年月6月に山林を購入した、ジンヤさんにうかがった。
山林を購入したジンヤさんの近影
■放置山林の狭小区画からスタート
愛知県生まれのジンヤさんが、キャンプに目覚めたのは22歳の頃。休日のたびにキャンプ場へ出かけるほど、のめりこんだそうだ。そんなジンヤさんが、岐阜県の山の1区画を購入したのは2年前の27歳のとき。
きっかけは、キャンプ仲間が委託で山の管理をしていたと聞いたこと。興味がわいて調べてみると、父親が、実家からほど近い山中の小さなエリアを所有していることを知る。
ジンヤさんは、実際に現地に行ってみて一目ぼれ。隣接する区画も購入して、キャンプ地にしたいという願望がわき上がった。ジンヤさんは、土地購入のための具体的な行動に着手する。
「父に連れられて行った先には、放置山林ではありましたが、素晴らしいロケーションの山がありました。しかし、よく調べてみると6畳ほどのテントを張る事すら難しい、小さな区画で、周辺の区画も近隣の自治体や住民さんを頼り持ち主を調べて買わせていただきました」
さらっと語るジンヤさんだが、実際は、土地の所有者を探して説明・説得し、様々な書類作成を行なうなどハードルがあった。書類作成は専門家に依頼したが、それでもすべての手続きが完了するまで3か月かかったという。
購入した山林地区で倒木処理するジンヤさん
■やりたい事をするには責任が伴う
ジンヤさんが所有する山は、かつて畑として使われていたこともあり、30張ほどのテントが張れるほど平坦な土地が広がる。個人が楽しむだけではもったないと、年に2回ほどキャンプイベントを実施するなど、活用に意欲的だ。
「そうですね、僕は山を買った人の中たちの中では比較的、年齢も若い方だと思うんですけど、特にスローライフをおくりたいわけじゃなくて、シンプルに誰にも迷惑かけることなく、やりたい事をやりたいだけで、イベントもそのひとつです。
だけど、やりたい事だけをやっていてはいけなくて、やりたい事をするには、責任も果たす必要があります。イベントの一部には放置山林の現状を見て肌で感じてもらったり、SNSを通して社会問題であることを伝わるような内容も含めて発信を心がけてますね。」
キャンプイベントのひとコマ
■自然や仕事に対する向き合い方が変わる
ジンヤさんにとって山の所有は、単にキャンプ活動の場が広がるという点以上に大きな影響を、自然観や仕事観、さらには人生観にまで及ぼしたという。ジンヤさんは、これについて次のように語った。
「そうですね、明らかに自然というものに対する向き合いかたは変わりました。キャンプで自然に癒されたり、倒木を燃やして暖をとったり、湧き水を引っ張ってきて生活用水にしたりしていると、本当の意味で“自然に生かされているんだなあ”と感じます。
これってよく考えたら当たり前なんでしょうけど、なかなか街にいるとそんな事よりスマホや車の方が生活の基盤になってて感じにくくて……。そうしているうちに自然に感謝しなきゃいけないし、この自然を維持していかないといけないと思うんですよ。
だからイベントだったり何か楽しいコトと自然を守るようなムーブメントだったり孫の孫の代まで続くような、新しいアウトドアの生活様式みたいなもののロールモデルを作りたいなと思っています」
山林を購入したことは、ジンヤさんの仕事観にも大きな影響を及ぼしたようだ。昨年、勤務先を退職し、放置山林を運営管理しながら、アウトドア系の制作業をフリーランスで始めた。
ゆくゆくは、アウトドアアイテムを扱うアンティークショップも始める目標もあるという。キャンプのために山林を購入するというのは、究極の道楽と見るむきもあるかもしれないが、当事者の人生を変え、周囲の人たちに良い変化をもたらす機会ともなるのだ。
・ジンヤさん公式サイト:http://montagneavantgarde.com
・ジンヤさんInstagram(キャンプイベントなどの情報はこちら):@jinya_nn
文中写真提供/ジンヤさん
文/鈴木拓也(フリーライター)