英語教育を公的機関のみに頼っていられない!?
文科省の「GIGAスクール構想」など、今の子どもを取り巻く教育環境は変化し続けているが、一つだけ確実なことがある―それは英語教育の重要性だ。
コロナ禍のせいで、人的交流の面ではグローバル化は一歩後退したように見えるが、これがそのまま続くと考えている人はいないだろう。
仮にリモートコミュニケーションが主流となっても、世界の主要言語が英語であることは変わらない。そして正直な話、英語教育を公的機関のみに頼っていられないのが、今の日本の実情だ。
■「自然な速さ」の英語を聴いてリスニング力をつける
グローバル化が進むこれからの時代、「すでに英語で何かができる人間と、これから英語を学ばなければならない人間の格差はますます開いていきます」と語るのは、(株)村上憲郎事務所・代表取締役の村上憲郎さん。
村上さんは、グーグル米国本社副社長・日本法人名誉会長を経て、子どもの英語力を向上させるための多数のプロジェクトに関わっている。
そして、著書『Googleが教えてくれた 英語が好きになる子の育てかた』(CCCメディアハウス)の中では、親自らが、子どもに英語力をつけさせるためのコツを様々提示している。そのコツの若干を今回紹介しよう。
ひとつ目は、「村上式リスニング学習法」。基本的には、次の3つのルールを守るというものだ。
1 自然な速さのものを聴く
2 読めばわかるが、聴き取れないものを聴く
3 自然な速さよりも早口のものを聴く
「自然な速さ(natural speed)」とは、ネイティブスピーカーが普段どおりの話し方をしているときの速度のこと。
日本人向けの英語教材の多くは、聴き取りやすいようあえてゆっくり話されているが、これではリスニング能力はなかなか鍛えられない。
そこで村上さんが、すすめている教材が「英絵辞典」、英検の『文で覚える単熟語』シリーズ、Z会の『テーマ別英単語 ACADEMIC』シリーズだ。
「英絵辞典」とは、ロングマン社の『Young Children’s Picture Dictionary Student Book with CD』といった絵入りの辞典のこと。
いずれも付録の音声データは自然な速さで話されていて、まずはここからスタート。ただし、文章を読んでもわからない難しい内容は避ける。それでは有効なトレーニングにならないからだ。
そして、次のステップとなるルール3の「早口のものを聴く」については、ネイティブスピーカー同士のディベート(討論)がベストだそうだ。
教材としては、YouTubeに国際的な討論の動画がたくさんアップされているので、そこからチョイスするのが早い。彼らのマシンガントークを聴き取るのは相当難しいが、やがて「自然な速さ」のものが聴きとれるようになるというかたちで、変化が現れ始める。
■英熟語の意味を丸暗記する必要はない
英語学習といえば、単語カードを作るなどして、英単語をたくさん記憶する方法が、真っ先に頭に浮かぶ。しかし村上さんは、そのやり方を「一切、勧めていません」と言う。理由は単純明快―「無理に頭に単語を詰め込んだところで、一定の時間が過ぎてしまえば忘れてしまう」から。
勧められているのは、「詰め込む」のではなく「繰り返す」。具体的には次の方法をとる。
1 毎日、教材を60分聞く
2 CD(音声データ)の音に自分の声を合わせて音読する
3 お経のように暗唱できるようになったら次へ
一見遠回りに思える、この繰り返し聞くことが、実は「いちばん効率のよい方法」なのだそうだ。
また、複数の単語を組み合わせて特定の意味を持つ「熟語」については、「意識する必要はあまりない」とも。
受験時代に英熟語に苦労した親世代からすれば、「熟語の意味を知らずにどうやって英文を理解するのか」と、疑問に思うかもしれない。
が、そもそも聞いた英語を頭の中で日本語に変換(翻訳)する意識が、いけないという。村上さんは、その理由を本書の中で次のように解説している。
「take off」は「取り除く」で、「take care of」は「世話をする」で……というふうに丸暗記しなくても、「take」という動詞が持つニュアンスさえ押さえておけば、英語を聴いたときにすぐ意味がわかります。
「offする」という行為を「takeする」んだな、「careする」という行為を「takeする」んだな、といった具合に。日常で英語を話していて、熟語の意味をいちいち思い返すようなことはほとんどありませんでした。
これも典型的な受験英語の弊害と言えるでしょう。英語のインプットは「日本語に置き換えること」とはまったく違うのです。繰り返し聴き、あるいは文章を読み、すべてを英語で受け取り、英語で理解していくということです。
■英会話は「お腹に力を込めて低音で話す」
次は、日本人にとって一番苦手なスピーキングについて。リスニングでは、「自然な速さ」で聴くことを推奨しているのは、すでに述べたとおりだが、話す場合は「ゆっくり丁寧に話す」のが肝心。発声にあたっては、「お腹に力を込めて低音で話す」ことを意識する。
それ以前の問題として、日本人の英語が通じにくいのは、「日本語に存在しない音が英語には含まれている」点を、村上さんは指摘している。
村上さん自身は、これを克服するため、1982年に刊行された『英会話革命』という本にあった、次のヴォイス・トレーニングを行っていたそうだ。
1 立った姿勢で、お腹に力を入れる
2 唇を硬くする(唇が口の中に巻き込まれて、薄くなっている状態にする)
3 口を大きく開け、喉の奥から声を出して「A!」「B!」「C!」「D!」……と「Z!」まで発声する。
4 これを10セット、連続で行なう。
タオルを握ってねじりながら声を出すと、お腹に力が入りやすい。村上さんは、アメリカで働いていたときは、毎朝このトレーニングをしたという。10セットといっても、トータル5分程度で終わり、意外とハードルの低いトレーニングでもある。
村上さんは本書のなかで、子ども世代の英語力の必要性を繰り返し説くのは、単に「グローバル企業に就職するのに有利」といったレベルの話ではない。
様々な面で、日本が世界の潮流から取り残されつつある現状を憂いてのものだ。それは、今の親世代がどうこうできる問題ではないだろう。
だから、「子どもたちの世代だけは、なんとか世界に伍していけるようにしなくてはいけない」―そういう思いが、英語学習のすすめへとつながっている。
親として、同じような思いを感じているのであれば、本書を土台にわが子の英語教育を始めてみてはいかがだろうか。
文/鈴木拓也(フリーライター)