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消滅可能性都市が挑む新しい地方創生「デジタル田園都市構想」とは?

2022.11.30

地方が抱える様々な課題に対して、デジタル技術を活用した手法で人々の暮らしを変えている町がある。富山県朝日町。人口11,030人、高齢化率は45%を超え、14年に元総務大臣の増田寛也氏などが発表し話題となった通称「増田レポート」では、富山県内唯一の「消滅可能性都市」として名指しされた町だ。そんな町はいま、デジタル技術による様々な取り組みで、“新しい地方創生”に挑もうとしている。

デジタル技術で地方と都市の差を縮める『デジタル田園都市構想』

朝日町は11月2日、博報堂と共同で『デジタル田園都市構想』の社会実装をすると発表した。岸田政権の看板政策として始まった『デジタル田園都市構想』では、デジタル技術の活用で「地方と都市の差を縮め、都市の活力と地方のゆとりの両方を享受できる社会」を目指している。具体的には産業の空洞化、交通インフラの衰退、教育機会の減少など、地方が抱える課題に対して、デジタル技術を実装することで、これらの課題を解決することを目的としている。

実は朝日町の取り組みは、この構想が発表される以前から動き出していた。20年8月には、博報堂、スズキなどと共同で「ノッカルあさひまち」という新たな地域公共交通サービスの実証実験を開始。当初は町の職員がスズキの自動車で送迎するという形だったが、21年10月からは博報堂が開発した、自家用車を活用したMaaS(Mobility as a Service)システムに移行。自家用車を持つ住民がドライバーとして登録し、利用者はLINEで予約するサービスで、地元のタクシー会社が運行管理を担った。料金は距離に関係なく1人で乗る場合は600円、相乗りは400円で、支払いには朝日町のバス回数券が使われる。売上はドライバー、町、運行管理を担うタクシー会社の3者に配分される仕組みだ。

このサービスの背景には地方が抱える課題とともに、地方ならではの利点も活かされている。交通インフラが衰退している地方では、もっぱら交通手段は自家用車になる。朝日町で言えば約1.1万人の人口に対して、8000台以上の自家用車がある。高齢化が進む地域では免許返納の課題も絡んで、“=ドライバー数”とはならないが、間違いなくこれは多くの地方に共通する“モビリティ資産”と言えるものだ。

また生活インフラが一部地域に集中しているという地方ならではの事情も影響している。朝日町のサービスでは、行き先自由の完全なタクシーとは異なり、ドライバーが暮らす地区と町の中心部を繋ぐ、基本的な“コース”が設定されているが、スーパーや役場など生活インフラが中心部に集中しているため、利用者のニーズとズレが少なく済んでいるのだ。ドライバー側からしても、自分の普段の生活パターンから町の中心部と行き来する時間を“運行ダイヤ”として設定し、そこに利用者を相乗りさせる仕組みのため、参加する負担を軽減できているのも特徴の一つだ。もちろん利用者の多くがお互い顔見知りで安心だという、地域ならではのコミュニティも背景にある。

朝日町が取り組む新たなサービス

今回『デジタル田園都市構想』の実装に伴い発表された新たなサービスには、既存の「あさひまちノッカル」を子供向けスイミングスクールの送迎に特化させた新サービス「こどもノッカル」も含まれている。従来ならスクール生の親同士でこまめに連携して送り迎えを担当するなどしていたものが、DXにより簡略化されたサービスだ。スクール側からすればスクールバスなどの整備も不要になるメリットもある。

そのほか朝日町は、今回「こどもノッカル」に加えて、地域教育サービス「みんまなび」など、計3つの新サービスを開始すると発表した。「みんまなび」では、アプリ上で住民などが教室を開設し、生徒を募集。利用者はそこから自由に興味のあるものを選ぶことができる。基本的に教室自体はリアルな場をベースとするのは、こちらも参加者同士の物理的な距離の近さやコミュニティなどの特徴をベースにしているからだ。内容も自然体験教室など、多岐に渡っている。都市部の人間からすると、学習塾の有無など、地方とでは教育面での格差ばかり目につくかもしれないが、「学校が遠いためスクールバスが整備されている分、ドアtoドアで通学が完結してしまい、実は自然と触れ合う機会が少ない」など、意外な課題もあるという。こうした課題に対して、地域だからこそ応えられるリソースを活用し、DXで結びつける。そんな取り組みが始まっているのだ。

地方創生だけではない、様々な分野における“DX”の指標に

地域創生や地域活性というと、よく目にするのは観光施策の数々だが、一過性のものも多く、どれだけ地域の活性に繋がるのか疑問を感じるものも多い。一方で今回の朝日町の取り組みは、徹底して住民の暮らしに向き合っていると感じられる仕掛けが多くある。多くを地域ならではの既存のリソース、コミュニティをベースにすることで、コストを低く抑えているのも特徴的だ。今回『デジタル田園都市構想』のなかで、「先進的な取り組みを、早期に実装できる」ことが条件のType3に選ばれたのは、全国でわずか6自治体だけということからも、朝日町の取組みへの注目度の高さが伺える。地方ならではの極めて“アナログ”なベースがあり、それをデジタルの力で有機的に結びつける。そんな朝日町の取り組みは、デジタルで全てを変えようとするのではなく、適切な分野で適切な部分をデジタル化するという、いま様々な分野で盛んに叫ばれている“DX”にとっても、一つのロールモデルを示していると言えるのではないだろうか。他地域はもちろん、多くの分野にとっても指標となる朝日町のこれからの取り組みに、注目したい。

文/末光次郎

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