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週刊誌記者の張り込み行為はどこまで法的に認められるのか?

2022.11.27

週刊誌による暴露記事の内容には、近年社会的な批判が多数集まっています。

政治家による汚職などの犯罪に関するものはともかく、芸能人の熱愛などはプライベートな事柄であり、週刊誌が土足で踏み込むべきではないとの意見も少なくありません。

週刊誌は伝統的に、スクープを取りたい対象者の自宅などへの張り込み取材を行っています。昔ほど過激ではありませんが、違法と判断すべき行き過ぎた張り込み行為も、一部では依然として行われているようです。

今回は、週刊誌記者による張り込み行為について、適法・違法の境界線を検討してみましょう。

1. 週刊誌記者による違法な張り込み行為の例

まずは週刊誌記者による張り込み行為のうち、明らかに違法であるもの、および違法である可能性が高いものの例を紹介します。

1-1. 対象者の住居に無断侵入する行為

取材対象者の住居に無断で侵入する行為は、「住居侵入罪」(刑法130条前段)によって処罰されます。隠しカメラを仕掛ける目的での侵入、取材対象者に無理やり取材を受けさせるための侵入などが考えられますが、いずれも犯罪行為です。

住居侵入罪の法定刑は「3年以下の懲役または10年以下の罰金」とされています。

なお、建物に侵入した場合だけでなく、建物の敷地に侵入した場合にも住居侵入罪が成立します。

1-2. 郵便物を勝手に開封する行為

取材対象者の郵便物を勝手に開封する行為は、「信書開封罪」(刑法133条)によって処罰されます。昔の張り込み取材ではよく行われていたようですが、れっきとした犯罪行為です。

信書開封罪の法定刑は「1年以下の懲役または20万円以下の罰金」とされています。

なお、郵便物をその場で開封するだけでなく、持ち去った場合には「窃盗罪」(刑法235条)が成立します。窃盗罪の法定刑は「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。

1-3. 望遠レンズで住居内の対象者を撮影する行為

望遠レンズなどを用いて、取材対象者の住居内における様子を撮影する行為は、「肖像権」の侵害に当たる可能性が高いです。

肖像権とは、容貌を勝手に撮影されたり、自分の写真などを勝手に商業利用されたりしない権利のことです。前者は「人格権」、後者は「パブリシティ権」と呼ばれています。

望遠レンズによる無断撮影の段階で問題となるのは、肖像権のうち人格権の侵害です。

肖像権(人格権)侵害の有無は、以下の事情を総合的に考慮して判断されます(最高裁平成17年11月10日判決)。

・被撮影者の社会的地位
・撮影された被撮影者の活動内容
・撮影の場所
・撮影の目的
・撮影の態様
・撮影の必要性
など

望遠レンズによって取材対象者の住居内における様子を撮影することは、上記のうち、特に「撮影の場所」「撮影の態様」の観点から大いに問題があります。

住居内というきわめてプライベートな場所における様子を、取材対象者本人に隠れて撮影している点で、人格的利益に対する侵害の程度が大きいと考えられるからです。

2. これは問題ない? 適法か違法かが微妙な張り込み行為の例

これまで挙げたような張り込み行為は、コンプライアンス上の問題から行われることが少なくなりました。

これに対して、以下に挙げるような張り込み行為は、週刊誌記者により依然として行われています。しかし、適法か違法かの判断が微妙なケースも多く、常に認められるわけではない点に注意が必要です。

2-1. 玄関から出てきた対象者を無断で撮影する行為

「公道から撮影すればOK」などという独自の基準に基づき、玄関から出てきた取材対象者を無断で撮影する週刊誌記者が多数存在します。しかし、公道からの撮影であっても、肖像権(人格権)の侵害が問題になることがあります。

前述のとおり、肖像権(人格権)侵害の有無は、以下の事情から総合的に判断されます。

・被撮影者の社会的地位
・撮影された被撮影者の活動内容
・撮影の場所
・撮影の目的
・撮影の態様
・撮影の必要性
など

たしかに公道からの撮影は、望遠レンズで居室内を撮影するようなケースに比べると、「撮影の場所」「撮影の態様」の要素については適法の方向に振れやすいです。

しかし、それ以外の事情を考慮して、取材対象者に対する権利侵害の程度が著しいと判断される場合には、公道からの撮影であっても違法と判断されることがあります。

特に、熱愛スクープのようにプライベート性の高い事項に関する場合や、取材対象者が著名人ではない場合などには、公道からの撮影でも違法と判断される可能性が高まります。

2-2. 対象者が退去を求めているのに、周辺道路での張り込みを続ける行為

取材拒否を受けているにもかかわらず、取材対象者の住居周辺においてずっと張り込みを続ける行為も、適法か違法かの判断が難しいケースがあります。

公道は原則として、誰でも通行できます。それなら、公道であればいくらでも張り込んでいてもよい……とは限りません。

公道での張り込みであっても、取材対象者に対して大きな精神的プレッシャーを与えているケースや、野次馬を呼び込んでしまっているケースなども想定されます。

このような場合、張り込みをしている記者や出版社は、取材対象者に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性があります(民法709条)。

取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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