YouTubeなどの動画サイトでは、有名配信者の企画アイデアをマネして、似たような動画を公開するケースがよく見られます。
企画アイデアをマネすること自体は法律上問題ありませんが、動画における表現の内容・方法によっては、知的財産権の侵害に該当する可能性があるのでご注意ください。
今回は、有名配信者の動画における企画をマネすることについて、法律上の問題点をまとめました。
1. 企画アイデアをマネすることは、法律上問題ない
有名配信者の動画のうち、支持を集めているものの企画アイデアをマネすることは、再生回数を稼ぐ上で効果的と考えられます。
法律上も、他人の動画の企画アイデアをマネすること自体は、特に違法というわけではありません。
1-1. アイデアそのものは法的に保護されていない
著作権法をはじめとして、日本では知的財産権を保護するさまざまな法律が制定・施行されています。
しかし、知的財産権の保護に関する法律は、いずれもアイデアを具現化した表現行為・表現物についての権利を保護するものです。
これに対して「アイデアそのもの」を保護する法律は、営業秘密を保護する不正競争防止法などに限られています。
したがって、動画企画などに関するアイデアについては、ネタ元に無断でマネしたとしても、原則として法的な責任を問われることはありません。
1-2. アイデアのネタ元を明記することも不要
企画アイデアそのものが法的に保護されていない以上、マネする際にネタ元の承諾を得る必要はありません。
また、著作権法32条で定められている「引用」のように、企画アイデアのネタ元(出典)を明記することも不要です。
2. 有名YouTuberの企画をマネした動画が違法となるケースの例
有名配信者のアイデアをマネすることが違法ではないとしても、アイデアを基に作成・公開された動画における表現の内容・方法によっては、知的財産権の侵害に該当することがあるので注意が必要です。
具体的には、以下に挙げるような場合に知的財産権の侵害が成立します。
2-1. 動画全体が、元動画の「翻案」に当たる場合
元動画を「翻案」(パロディ化)することは、元動画の著作権者のみに認められた権利です(著作権法27条)。
「翻案」とは、以下の要件を満たす行為を意味します(最高裁平成13年6月28日判決(江差追分事件))。
①既存の著作物に依拠し
②その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ
③具体的表現に修正・増減・変更等を加えて、新たに思想または感情を創作的に表現することにより
④既存の著作物の表現上の本質的な特徴を、直接感得することのできる別の著作物を創作する行為
たとえば、元動画をベースに編集を加える形で、一目見ればベースの元動画がわかるような内容の新動画を作成・公開した場合、翻案権の侵害に該当する可能性が高いです。
翻案権侵害を犯した場合、著作権者による差止請求や損害賠償請求、さらに刑事罰の対象になります。
2-2. 動画内で使用されているコンテンツにつき、使用承諾を得ていない場合
有名配信者のアイデアをマネするだけでなく、元動画内で使用されている画像や動画などの素材もマネして使う場合には注意が必要です。
これらの画像等については、著作権者に権利が留保されている可能性が高いです。その場合、無断で使用すると著作権侵害に該当します。著作権侵害を犯した者は、著作権者による差止請求や損害賠償請求、さらに刑事罰の対象になります。
なお例外的に、著作権者が権利を放棄している素材や、権利を留保しつつも広く一般向けに使用を許諾している素材(いわゆる「フリー素材」)については、個別の承諾を得ることなく使用することが可能です。
有名配信者が元動画内で使用している素材をマネして使用したい場合には、フリー素材であることを確認してからにしましょう。
2-3. 登録商標等を無断で使用している場合
有名配信者の動画に付されたタイトルや、サムネイル画像に表示された文字・ロゴなどについては、稀に商標登録が行われているケースがあります。
登録商標である文字・ロゴなどについては、他人による以下の使用行為が禁止されます。
(1)登録商標を、登録時に指定された商品・サービス(指定商品・指定役務)について使用する行為
(2)登録商標に類似した商標を、指定商品・指定役務について使用する行為
(3)登録商標を、指定商品・指定役務に類似した商品・サービスについて使用する行為
(4)登録商標に類似した商標を、指定商品・指定役務に類似した商品・サービスについて使用する行為
上記のいずれかに該当する行為は商標権侵害に該当し、商標権者による差止請求や損害賠償請求、さらに刑事罰の対象になります。
有名配信者の動画に付されたタイトルやサムネイル画像をマネする場合は、念のため商標登録の有無を確認しましょう。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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