「アクチュエーションポイント」という言葉をご存知だろうか?
キーボードのキーを押した際、「どれだけ深く押せるか」ということを表す単語は「キーストローク」である。
一方、「キーをどれだけ押したらその機能が反応するか」ということは「アクチュエーションポイント」と呼ばれる。
たとえば、キーストロークが4mmでアクチュエーションポイントも4mmだとすると(そんなキーボードはあり得ないが)、キーを最大限まで押し込まないと反応しないということなので、これほど使いづらい代物はない。
従って一般的なキーボードは、キーストローク4mmに対してアクチュエーションポイントは2.2~2.3mmあたりに設定されている。
が、ここは敢えてアクチュエーションポイントの短い「ゲーミングキーボード」なるものを使ってみよう。
ゲーミングキーボードと「キーストローク」
筆者の自宅に『Apex 9 TKL』という製品がやって来た。メーカーはデンマークのゲーミングデバイス企業SteelSeriesである。
『Apex 9 TKL』はゲーミングキーボードだ。今回は、この製品をレビューしてみたい。
が、その前に「ゲーミングキーボードと一般的なキーボードはどう違うのか?」を解説しよう。
ゲーミングキーボードはLEDの電飾が施され、スイッチを入れるとそれが一斉に発光する製品が多い……というのはあくまでもビジュアルの話。
機能面に触れると、上述のようにキーストロークが短めに設定されている点が特徴に挙げられる。
そして高価格帯の製品になると、キーストローク自体を細かく設定できるのだ。
たとえば、割り振られた操作によって「迅速に反応しなければならないキー」と「多少鈍感であるべきキー」が存在する。
しかもどの操作をどのキーに割り振るかということは個々のプレイヤーによって異なったりするから、高価格帯製品には「世界でひとつだけのキーボード」にできるだけのカスタマイズ性が与えられている。
それを踏まえた上で、『Apex 9 TKL』を使ってみよう。
アルミニウム合金の頑丈ボディ
今まで使ってきた外付けキーボードから『Apex 9 TKL』に交換し、まずは適当にいじってみる。
キーストロークの短さは、すぐに理解できた。これを一度経験すると、従来型の外付けキーボードがまるでスポンジのようだ。
キーがぐっと沈み込んでしまい、本当に反応しているのかどうか不安になってしまう。
一方、『Apex 9 TKL』のキーは極めてクイックかつ軽快だ。
「カン、カン、カン」という具合に、まるで打楽器を叩いているかのような感覚にすら陥ってしまう。
『Apex 9 TKL』の本体にはアルミニウム合金を使用し、高い耐久性と共に見た目の高級感も帯びている。
が、本体重量は635g。それほど重い代物というわけでもない。
接続はゲーミングデバイスらしく有線方式。「ゲーミングデバイスらしく」というのは、eスポーツの世界では反応遅延は許されないため、今でも各デバイスは有線接続が主流だからだ。
そして、『Apex 9 TKL』のキーストロークは1.0mmと1.5mmのどちらかに調整できる仕組み。
このあたりは本格的なeスポーツ選手から見れば少々残念な部分ではある。
繰り返すが、高価格帯のゲーミングキーボードはもっと細かいキーストロークの調整が可能だ。
しかし、@DIMEはゲームメディアではない。
水の流れるような打鍵
この『Apex 9 TKL』をゲームではなく仕事に用いれば、どのような効果が得られるのか。
まず断っておかなければならないのは、この製品を導入したからといってすぐさまタイピングが速くなるわけではないことだ。
むしろ、今までのキーボードとの違いが大きいせいで頻繁につっかえてしまうだろう。
筆者自身、『Apex 9 TKL』の慣熟には2日ほど要した。
毎日キーボードを叩いている筆者がこれだけかかったのだから、そうでない人はもう少し時間が必要かもしれない。
が、それを過ぎれば『Apex 9 TKL』を手放すことはできなくなる。
このキーボードを用いれば、文章の執筆をより直感的に実行できることは間違いない。
筆者がブラインドタッチを覚えたのは高校生の頃だが、「水の流れるような打鍵」とは恐らくこのことを指すのか……と、ひとりでいい気になってしまうほどだ。
これは仕事でも十分使えるぞ!
この製品の肝は「音量調整ホイール」だ!
『Apex 9 TKL』の細かい操作機構にも、筆者は感心している。
右上についている小さな音量調整ホイールは、思い立ったら即座に触ることができる位置に身を潜めている。
これは本当に便利で、筆者の文章力でどう伝えればいいのか……と悩んでしまうほどだ。
ゲーミングデバイスの設計は「地味な部分に労力を費やす仕事」ということを聞いたことがある。
殆どの人が空気の如く「あって当たり前」と認識する部分は、実は設計者が昼夜問わず頭を絞って生み出したもの……という話をメーカーの社員に教えてもらったのだ。
『Apex 9 TKL』の音量調整ホイールも、きっとそのような経緯で設計されたのだろう。それだけこの部分は、使い勝手がいい!
そんな『Apex 9 TKL』は、Amazonでは2万3,980円という値段がついている。
外国メーカーのキーボードだから英語配列のみ……というわけではなく、日本語配列版も用意されている。
【参考】
Apex 9 TKL-SteelSeries
Apex 9 TKL-Amazon
取材・文/澤田真一