【カブガールが行く】で普段お送りしているツーリングは、山の中を走ることが多めです。
それはそれで面白いのですが、たまには観光やお買い物を楽しみたい!…なんて思っていたところ、バイク仲間からツーリングのお誘いがきました。
行先は岐阜県郡上市。郡上市といえば、古くからの街並みが残る城下町である郡上八幡が有名です。ということで、女性2名による日帰りツーリングに出発だ~!
久々の再会ツーリング
今回一緒にツーリングをしたのは、筆者のバイク仲間であるYちゃん。ヤマハのバイク、セローのオーナーです。
コロナ禍ということもあって2年ぶりに再会をしたところ、昨年娘さんが生まれ、お母さんになったのだそう。普段はバイクに乗る時間がとりにくいため、今回が数年ぶりのツーリングということでした。
そんな事情があって、二人ともはじめは「大丈夫かな?」とちょっとソワソワ。スタートしてしばらくの間は、前を走っていた筆者もミラーを確認し、問題なくついて来ているかチェックをしていました。
ところが驚くべきことに、いったん走り始めるとスムーズそのもの。Yちゃん曰く「操作が体に染みついているから、体が勝手に動くんだよね」とのこと。
考えてみれば、彼女は日本一周の経験もあるベテランライダー。おまけに産後は子供を背負って登山をするなど、信じられないぐらいパワフルに暮らしています。さすがに出産前とまったく同じとまではいかなくても、経験と体力に関しては心配無用だったのでした。
郡上八幡のレトロな街並みを楽しむ
国道156号線を北上して到着したのは、岐阜県 郡上八幡。古い町屋が多く残る城下町です。
街中は幅員が狭く、紅葉シーズンの週末ということもあって多くの観光客が訪れていました。
車体が軽いセローとクロスカブの取り扱いやすさは、バイクの中でも抜群です。ウッカリ道を間違えるシーンもありましたが、スイスイと人の流れを避けて進むことができました。
お目当ては、人気の蕎麦屋 平甚(ひらじん)さん。週末のお昼時は並んで待つと聞いていたのですが、開店時間である11時を狙ったおかげでスムーズに入店することができました。
注文したのは自然薯蕎麦。滑らかにすり下ろされた自然薯がたっぷりとお蕎麦にかかっています。
自然薯はヤマノイモ科に属するトロトロ食感の芋で、郡上の季節野菜のひとつです。箸で持ち上がるほどの粘り気の強さと独特な風味が美味しく、飲むように食べました。
お蕎麦は驚くほどモチモチとした食感。最初届いたときは「少ないかな?」なんて思ったのですが、たくさん噛むからか満足感が高く、お腹いっぱいになって店を出たのでした。
食後は平甚さんの近くにある、元酒造の建物を利用した古道具屋 gugulab(ググラボ)さんで食器をゲット。昭和レトロを感じさせてくれる、味のあるアイテムがたくさん並んでいました。
ちなみにバイクで割れ物を運ぶときは、1枚ずつをこれでもか!というほどに緩衝材で包むのがポイントです。
工場見学でハムをゲット
郡上八幡を出発した二人は、国道472号線を進みさらに北上します。周囲はちょうど紅葉の真っただ中で、針葉樹と広葉樹とで山がパッキリと色わけされているのが見えます。
「秋やな!」「風が気持ちいい!」「バイクって最高~!」
信号のない快走路を走りながら口々に言います。季節相応に空気は冷たいのですが、背中に日光をたっぷりと受けているおかげでポカポカ。お昼寝ができちゃいそうなほど暖かいのです。
明宝ハムとは、60年近くの歴史を持つプレスハム(細かく切った肉を固めて作られる加工食品のこと)。2004年に郡上市と合併するまでは、本社がある地域に明宝村という名前がついたほどの人気商品です。
工場近くの道の駅 明宝には明宝ハム直売ショップもあるのですが、わざわざ本社まで来たのは工場を見学するためでした。
さっそく建物に入ってみると、ガラス窓の向こうで大勢の人が大きな肉の塊をさばいているのが見えます。
隣の部屋ではゆでる前のハムを袋詰めしていたのですが、驚くべきことにすべてが手作業。熟練の職人の手によって、袋内の空気を抜いてぴっちりと、1本ずつ丁寧に製造されているのだそうです。
工場見学をすると、不思議とその企業のことが好きになりますよね。筆者もハムが食べたくなってきて、悩んだ末に明宝ハムと明宝フランクフルトを1つずつ購入して帰りました。
山道で出会ったまさかの生き物
ツーリングの締めに選んだのは、急傾斜のワインディングが続く山道です。普段はほとんど車が通らない区間らしく、道路の八割方を落ち葉が覆うスリリングな道が続きました。
はじめは恐る恐る走っていたのですが、よく見てみると、交通量が少ないおかげか舗装はきれいに保たれているのです。葉っぱに埋まった小石に注意しつつ、安心して落ち葉を踏むサクサクという音と感触を楽しみながら進みます。
見慣れないグレーの毛玉を見つけたのは、山道がそろそろ終わりに近づいていた頃でした。
「今なにか動いたよね」「タヌキじゃない?」「いや、カモシカに見えた」
「タヌキだって」「カモシカだって」「いやタヌキ」…お互いまったく引きません。それなら実際に戻って見るのが早いということで、Uターンをして引き返すことになりました。
そして戻った先にいたのは、なんとカモシカの子どもです!鳴くこともなく、逃げることもなく、その場に立っていたのです。
思わずそろって「かっわいいい~!」なんて声が出ましたが、周りに親がいる気配がありません。はぐれてしまったのでしょうか。
詳細はわかりませんが、おそらく生後数か月ほど。まだ一頭で生きていけるだけの力はありません。このまま放っておいてしまうと死んでしまうかもしれない…。
そう思うと連れて帰って保護してあげたい気持ちが湧きましたが、なんの知識も持たない素人が無責任に手を出すわけにはいきません。なにより、筆者からは見えない位置で母カモシカが待っている可能性もあるのです。
そのまま手を触れず、山を下ることにしました。
岐阜県下呂市に入り、岐阜県道86号線を走って帰路につきます。ふとYちゃんが言いました。
「やっぱりバイクっていいよね。この2年以上、まったく乗れない中で手放すべきかと思ったこともあったけど、残しておいてよかったな」
ヤマハのセローは、2020年に製造が終了している車種です。数に限りがあることから多くのファンが求めており、手に入りにくいバイクのひとつとなりました。また、バイクというのはライダーの相棒そのもの。たとえ同じ車種だったとしても、手放した車両と再購入した車両では、きっと愛情が大きく変わってしまうでしょう。
「私も。なにがあっても、カブはずっと手元に置いておきたいな」
86号線の道はおだやかな直線が続きます。すっかり体に染みついた動作で加速をしながらも、2台のカブたちが寿命を迎えるまで乗り続けることを誓ったのでした。
文/高木はるか
アウトドア系ライター。つよく、しぶとく、たくましくをモットーにバイクとキャンプしてます。 愛車はversys650、クロスカブ110、スーパーカブ90。
高木はるかの記事は下記のサイトから
https://riding-camping-haruka.com
編集/inox.