過去最大の円買い為替介入を行った日本。為替介入の仕組みやどのような資金で介入しているのだろう。
円安の問題点
円安とは、海外通貨に対して円の価値が下がることだ。
日本企業は輸出企業が多いため、円安になれば国内で作ったものを円では高い金額で売ることができ、また、海外の人は割安に購入できるため、円安になれば多くの企業の利益が上がる。そして、現地生産されているドル建ての利益も円に交換または会計上円換算で計算されるため、円安で大きな利益押上げ効果がある。円が安ければ、海外の人は割安に日本への旅行を楽しむことができるため、海外からのインバウンドも増える。
しかしながら、今回の円安はそう単純に良いことばかりではない。
例えば、トヨタ自動車の2022年3月期決算では円安の効果で1兆850円の利益押上効果があったが、新型コロナ感染症、ロシアのウクライナ侵攻のよる原油高、鉄、銅、樹脂価格上昇などで原材料が上がっており円安を打ち消す1兆6,500円の利益下げ効果があった。
また、ロシアのウクライナ侵攻のよる原油高、小麦価格などが上がっているうえに、輸入価格を上げてしまう円安で、生活に直結する食品、電気代などが高騰している。2022年9月の消費者物価指数は前年同月比3%上昇しており、マイナス金利政策が続いていることから預貯金の金利は0.001%で預けていてもほとんど増えないことから、3%の物価上昇が続くと現金預金の価値は3%目減りしていくことになる。例えば、100万円持っていたらその価値は1年後97万円になるということである。このような円安などによる物価高は家計を直撃し、負担が重くなる。
さらには、新型コロナ感染症の拡大防止のための水際対策でインバウンドを呼び込むことができなかった。
円安になっている原因の主は、日米の金利差である。米国は2021年末から消費者物価指数が7~9%まで(直近10月は7.7%)まで上昇していることから、これまで2021年11月まで続いていた金融緩和を解除し、利上げして現在政策金利は4%。一方、日本は米国やヨーロッパほどの物価上昇もなく利上げしてしまうと住宅ローンや企業の借入金利が上がりデフレ体質の日本には悪影響が大きいとの判断のためか金融緩和は継続されており、金利の低い円を売って金利の高いドルを買う動きとなっている。
為替介入とは?
前述の通り、急激な円安は物価を上昇させ、国民生活に急激な負担を強いることになる。
そこで、そういった急激な円安、または円高に対し、為替介入をすることがある。
為替介入は、行き過ぎた円高または円安を緩和するために、外国為替市場で円売りまたは円買いをすることだ。
日本銀行(以下日銀という)は財務省に日々為替に関する情報を報告し、財務大臣の指示のもと日銀は為替介入をする。
資金源は、円売り介入のときは政府短期証券(国庫短期証券)を発行して円資金を調達し、円買いのときは売るための財務省「外国為替資金特別会計(以下外為特会)」のドルを使う。
為替介入はムダだったのか?
兆円単位の莫大な資金を投入して行われた為替介入後、すぐに円安に戻っている。
ただ、150円の為替介入が入ると考えられるラインでは為替介入への警戒から一定程度の抑制がある。
また、10月の大きな為替介入後その後たまたま米国の消費者物価指数が予想ほど上昇しなかったため、直近(11月16日現在)は139円近辺で落ち着いている。
円安時のドル売り円買い為替介入時は、外為特会のドル資金を使う。過去80円前後などの急激な円高時に円売りドル買いの為替介入で貯まっているドル資金も入っている。その資金はドル預金やドル建債券で運用されており、その金利収入も貯まることになる。
今回の10月の為替介入で、ドルを1ドルあたり150円で売ったと考えられる。またその資金はドル預金だけでなく債券を売却した資金も入っているようだ。
その結果、80円で買ったドル資金は1ドルあたり60円の円安が進み40%超の利益で、数兆円の為替差益を得ている可能性もある。
また、米国は利上げを進めており、過去に購入した米ドル建債券の債券価格は下がってしまう可能性がある。今後の米ドル金利の上昇により債券価格が下がることを考えると、生命保険会社でも外債運用において米ドル建債券の売却をすすめている。
為替介入はあくまでも国民生活に大きな影響を与えるような為替を安定させるためのものであるが、上記のような運用面で考えるとこの円安で大きな運用益を得られこれは国民の利益にも繋がる。また、過去最大規模だった10月の為替介入では150円を超えて円安が進むのを結果として防いだため、ムダではなかったと考えられる。
(参考)
為替介入(外国為替市場介入)とは何ですか? 誰が為替介入の実施を決定し、誰が為替介入を行うのですか? : 日本銀行 Bank of Japan (boj.or.jp)
統計表一覧(外国為替平衡操作の実施状況) : 財務省 (mof.go.jp)
日経新聞 2022年11月9日 「外貨準備ピーク比16%減、10月末 円買い介入響く」
文/大堀貴子