2022年11月17日午前、北朝鮮が日本海に向けて弾道ミサイルを発射した。今年で33回目の発射だ。11月9日にも1発発射され、11月2日には1日で23発以上の弾道ミサイルを発射した。
異例のペースでミサイル発射を繰り返している北朝鮮。ニュースを耳にするたびに不安を覚えるが、いったいなぜ北朝鮮はミサイルを日本海に発射するのか。コリア・レポート編集長の辺真一さんに話を聞いた。
北朝鮮最大の敵はアメリカ
北朝鮮がなぜ日本海にミサイル発射を繰り返すのか、その理由を理解するには、まず北朝鮮にとっての敵が誰かを知ることが大事だという。
「北朝鮮にとって、一番の敵はアメリカです。アメリカは世界最強で、軍事力も持っています。対する北朝鮮は核ミサイルを持っているとはいえ小国です。1950年から起こった朝鮮戦争が正式にはまだ終わっておらず、停戦状態ということもあり、北朝鮮はアメリカという大国に攻め込まれて生存権を奪われてしまうのではないかと怯えている。北朝鮮がミサイルを作り、発射を行うのも、アメリカを攻撃するためのものです。実験を重ね、より遠く飛ばせるように、より早く飛ばせるように、そして確実に狙ったところに落とせるようにするために、性能を高めようとしている」
「日本海に撃って何が悪い」
ここで疑問になるのが、それではアメリカに届くミサイルを積極的に実験すればいいのに、ここ最近では日本海にたくさん発射しているのはなぜなのかということだ。
「北朝鮮の発射は、ミサイルの性能を磨くための訓練という側面もありますが、アメリカに対して、手を出してきたらそれ相応の仕返しをする力は持っているぞというパフォーマンスでもあります。特に、ここ最近立て続けに起こっている日本海付近へのミサイル発射は、アメリカと韓国が5年ぶりに大規模な合同軍事練習をしていることに対してです。アメリカや韓国も北朝鮮がミサイルを乱射すればするほど合同軍事練習の回数を増やして圧力をかけています。お互い軍事的なデモンストレーションをして、これ以上寄ってきたら攻撃するぞと牽制し合っているのです」
しかも、アメリカへ向けてのパフォーマンスをしつつ、自分たちの軍事力の成長を見せつけているともとれるという。
「最近は発射台だけではなく、トラックに載せて発射したり、貯水池から発射したりして、発射の探知も難しくなっています。しかも、昼間だけではなく深夜に発射することも。アメリカと北朝鮮は軍事力に大きな差があるとはいえ、核の保有と、北朝鮮の攻撃能力の向上を見せつけることで、撃ち落とすのは一苦労だという印象を更に与えることにも繋がります」
アメリカや韓国に向けての発射だとわかっても、やはり日本海に落ちたと聞くと不安になる。
「北朝鮮からすると、日本の領海も領空も侵しておらず、日本を狙っていないのに何が悪いんだと思っているわけです。北朝鮮からすると自国の領海や排他的経済水域や、公海にミサイルを落しているだけ。以前太平洋に発射したときも、高度1000キロを通過させました。日本の領空である高度100キロには入っていない。実際、国際社会から問題視されているのは、日本の領海領空を侵したからではなく、弾道ミサイルを発射していることです」
北朝鮮は、弾道ミサイルの頭の部分に核爆弾を装着して核ミサイルとして使用する恐れがあるため、国連安全保障理事会の決議で弾道技術を使ってはいけないと釘を刺されているのだ。
「アメリカと北朝鮮もお互い直接手を出したら終わりというのは当然わかっています。あくまで周辺で牽制をかけあって、にらみ合った状態で、なにかあったら動くぞというのを示し合っている。今は落としどころもなく、平行線が続いているという状態の中なのです」
【教えてくれた人】
辺 真一(ピョン・ジンイル)/東京生まれ。明治学院大学英文科卒。在日コリアン二世ジャーナリスト。新聞記者を経て、朝鮮半島問題専門誌『コリア・レポート』を創刊。同誌編集長でもある。有限会社コリア・エンタープライズ代表。日本外国特派員協会会員、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」など著書25冊。
取材・文/田村菜津季