2022年のノーベル賞授賞式は、3年ぶりに現地開催です。式典の開催日や開催される国・会場には、さまざまなエピソードが付随します。ノーベル賞授賞式にまつわる豆知識を知ることで、新たな視点で授賞式を楽しめるでしょう。
ノーベル賞授賞式は何のための式典?
ノーベル賞授賞式では、ノーベル賞の父であるアルフレッド・ノーベル(1833~1896年)の想いや設立の目的が随所に見て取れます。ノーベル賞授賞式がどのような目的で開催されるようになったのか、確認しましょう。
世界初の国際賞受賞式
ノーベル賞はノーベルの遺言に従い、受賞者の国籍に関係なく授与される、世界初の国際賞として誕生しました。
当時革新的とされた国際賞を設立するという構想には、ヨーロッパ各地で国家間・民族間の紛争が多発していた1800年代を生きた、ノーベルの実体験が深く関わっています。
幼い頃から多言語を操り、国々を渡り歩いたことで国際感覚が養われたノーベルは、度重なる紛争の影響で、たたえられるべき功績をあげている人が国籍を理由に評価されない現実を憂いたのです。
国際色豊かな授賞式は、目の前の国家間の軋轢を取り払い、グローバルな視点で人類が互いに貢献をたたえ合う場として、重要な役割を担っています。
授賞式からは、ノーベルが残した『国籍が一切考慮されることなく、最もふさわしい人物が受賞者となるように』という遺言が、現在まで脈々と受け継がれていることがわかるでしょう。
ノーベル賞授賞式はいつ?スケジュールは?
毎年9月頃から、その年のノーベル賞受賞者に関する話題が高まり始めます。受賞者決定から授賞式までは、どのようなスケジュールで進んでいくのでしょうか。
10月に各賞の受賞者が発表
ノーベル賞は、物理学賞、化学賞、生理学・医学賞、経済学賞、文学賞、平和賞の6分野において、受賞者を選出します。
受賞者の選定は受賞年の初春頃から開始され、分野ごとに300人程度集められた候補者は、4月頃には各分野20人程度までに絞られるようです。
その後さらなる選考を重ねた結果、例年10月に受賞者が発表されるという流れで進みます。
各分野の選考委員を務めるのは、以下の機関・団体です。
- 物理学賞・化学賞・経済学賞:スウェーデン王立科学アカデミー
- 生理学・医学賞:カロリンスカ研究所
- 文学賞:スウェーデン・アカデミー
- 平和賞:ノルウェー・ノーベル委員会
2022年は、10月3日に生理学・医学賞が発表されたのを皮切りに、4日に物理学賞、5日に化学賞、6日に文学賞、7日に平和賞、10日に経済学賞の受賞者が発表されました。
12月10日に授賞式
ノーベル賞授賞式は、毎年12月10日に開催されます。この日はノーベルの命日です。
授賞式では、スウェーデン国歌の演奏から始まり、各受賞者がスウェーデンのカール16世グスタフ国王よりメダルと賞状を受け取り、握手を交わすという流れで執り行われます。
授賞式の運営や賞金は、ノーベルがダイナマイトの発明によって築き上げた遺産がその資金源です。
遺産は、ノーベルの遺言に従い1901年に設立されたノーベル財団によって管理・運用され、その運用益からノーベル賞の費用が捻出されています。
晩餐会も授賞式と同日に開催
授賞式の後、受賞者や招待客たちは別会場に移動し、晩餐会に出席します。授賞式と同日に開催される晩餐会の様子がメディアで報じられる中で、毎年注目を集めるのが晩餐会のメニューです。
スウェーデンの有名シェフによって考案されるコースメニューは、地元の食材をふんだんに使用した、伝統的なスウェーデン料理をベースとしたもので構成されます。
メニュー内容の漏洩防止のため、情報規制は非常に厳しく、毎年晩餐会が始まる19時の公式発表まで、その内容を知ることはできません。
ノーベル賞授賞式の開催地はどこ?
ノーベル賞の授賞式は、スウェーデンとノルウェーの2カ国で開催されます。それぞれの国での開催形式や会場に加え、2カ国に分かれて授賞式を執り行うことになった理由について確認しましょう。
平和賞の授賞式はノルウェー
各賞のうち、ノーベル平和賞の授賞式だけが、ノルウェーの首都オスロにて開催されます。
会場となるオスロ市庁舎は、ノルウェー出身の画家であるムンクの作品が展示されるアートギャラリーを併設しており、観光地としても人気のスポットです。
庁舎の2階にあるムンクの絵画『人生』が飾られた通称『ムンクの間』で、受賞者の記者会見や晩餐会が執り行われます。
その他の賞の授賞式はスウェーデン
平和賞以外の授賞式は、スウェーデンの首都ストックホルムで開催されます。
授賞式の会場は市内のコンサートホールで、ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団の本拠地です。
授賞式後の晩餐会は、市内のストックホルム市庁舎にて執り行われます。
2カ国での授賞式開催は平和への祈りから
ノーベル平和賞の授賞式のみがノルウェーで開催される理由は、ノーベルが生きていた当時のスウェーデンとノルウェーの関係が大きく影響しています。
当時、スウェーデン統治下からの独立を望むノルウェーとスウェーデンの関係は、長らく緊張状態にありました。
しかし1890年代に入り、ノルウェー側が軍縮や調停による平和的解決を望む姿勢を強く見せるようになったのです。
これにより、ノルウェー国家に対して『平和的で民主的な』イメージを抱いたノーベルは、今後も国際紛争の仲裁や平和的解決を主導する役割を担ってほしいと願い、平和賞の授賞式をノルウェーで行うこととしました。
平和賞に関しては、授賞式だけでなく選考もノルウェーで行われます。ここにも、主体的に平和の概念を追求し続けるノルウェーこそ、平和賞の選考役にふさわしいと考えたノーベルの意思が反映されているのです。
2022年ノーベル賞授賞式は開催される?
2022年のノーベル賞受賞者が出そろい、ノーベルウィークを目前にすると、授賞式開催国では歓迎の機運が高まります。
コロナ禍を経て授賞式がどのように執り行われるか、改めて世界から注目が集まる中、2022年のノーベル賞授賞式はどのような様相を呈するのでしょうか。
過去2年間はオンライン開催
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け、2020年、2021年の2年間は、ノーベル賞授賞式が初のオンライン開催にて執り行われました。
メダルと賞状の授与は受賞者の居住国で行われ、その様子はノーベル財団のYouTubeチャンネルにて配信されたのです。
また、ノーベル賞授賞式に先立って行われる、受賞者たちの記念講演『ノーベルレクチャー』や記念コンサートの様子も、YouTubeで配信されています。
2022年は例年通り開催予定
2022年のノーベル賞授賞式は、3年ぶりにストックホルムとオスロの両都市にて、例年通り12月10日に開催予定です。
2022年の受賞者に加えて、授賞式がオンライン開催となった2020年、2021年の受賞者も、現地で改めて受賞を祝うために招待されています。
招待客の選考基準は「国際平和」
ノーベル賞の授賞式では、招待客の顔ぶれにも注目が集まります。国籍にかかわらず人類に貢献した人物をたたえるノーベル賞は、数十年前からスウェーデンに外交使節を置くすべての国を授賞式に招待するとしてきました。
しかし22年は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が招待客の顔ぶれにも影響を及ぼしており、ロシアとベラルーシの大使は招待しない旨をノーベル財団が明かしています。
また『反移民』を掲げるスウェーデンの極右政党の党首や、抗議デモ弾圧が激化するイランの大使も招待を見送る予定です。
これらの措置に対しノーベル財団は、ノーベル賞が科学、文化、人文主義、国際主義の尊重に基づいている賞であることから招待を見送ったという旨の声明を出しています。
人権侵害や国際紛争など『反平和的』な行為に対しては同調しかねるというノーベル財団の姿勢は、今後も招待客の顔ぶれを決めるにあたって、重要な判断基準となっていくでしょう。
構成/編集部