紙自着テープとは、テープを重ねて指で抑えると、テープの糊面同士のみしかくっつかないという不思議なテープだ。和紙やティッシュといった少しでも糊が付着すると破れそうな素材でさえもくっつかない。
コードをまとたり、食品や花といったものをまとめたり、丸くまとめた習字を留める際にも使え、ビジネスから生活の中でのちょっとしたものをまとめる際にも大活躍だ。
いったいこの紙自着テープはどうやって世に生まれたのか。紙自着テープの開発プロジェクトに所属していた営業部ニュービジネス推進担当の城處剛(きどころ・つよし)さんに話を聞いた。
「紙自着テープ」っていったいどんな便利グッズなの?
物をまとめるために使うことができるというが、ゴムや紐など物をまとめられる製品は多数存在する。紙自着テープならではの魅力はいったいなんなのだろうか。
「ぱっと見マスキングテープのようにも見えますが、マスキングテープとの違いは接着面です。物に巻き付けてぎゅっと圧をかけることで、テープ同士はしっかりとくっつきますが、巻き付いている素材には付着しません。この特殊な糊の特性が紙自着テープの一番のポイントです。他の素材にくっつかないということは、接着剤が物質に残って汚くなることもなく、食品衛生法もパスしているので食べ物や植物に巻いてもOKです。ちょっとした一時的な結束や、放置自転車の警告札のような目印としても活用できます」
使用用途に合わせて印刷の柄を変えたり、サイズを変えたり、切り取り線を入れたりして、商品は展開しているという。しかも、糊は天然ゴム系で環境負荷が低く、使い終われば燃えるゴミで捨てられるというのも、エコが叫ばれる時代にとってもぴったりのアイテムとなっている。
【ヒットのヒント!】“面白いから作ってみたい!”ものづくりへの愛が実用化に導いた
ビジネス的な用途だけではなく、スーパーマーケットや農家、かわいらしい文房具のひとつとしてなど、幅広く商品展開をする紙自着テープ。しかし、最初からこういうニーズがあると狙って開発された商品ではないという。
「この紙自着テープを作るきっかけは先代の社長です。ある日“こんな面白いテープがあった! 一部でしか使われていないなんてもったいないから、弊社ならではのやり方で、応用して商品が作れないかな “と社員に共有してくれたんです。それが、紙自着テープの元でもある自動車の部品をまとめる紙のテープでした。そのテープを作っている会社の担当者から先代の社長がこのテープのことを聞いてきたんです。
自動車というのは部品ごとにまとめる必要がありますが、ビニールテープで結束すると外すことが面倒くさかったりベタベタしてしまったりする。かといって、ひもなどを使うとハサミを使う必要が生じ、電飾コードなどを傷つけかねません。紙ならば簡単にまとめられ、安全にはがせるために重宝されていたんです」
新しい製品開発のためならばと、テープ会社から詳細についても教えてもらえたそうだ。
「先代の社長は面白いものを見つけると“へぇー”と感心するだけで終わらず、なにか真似できないか、応用できないかと常に考え、その考えを社員に共有してくれていました。根っからの職人肌でモノづくりが大好きな人。とても楽しそうにプレゼンをしてくれたのを覚えています。私たち自身もこんな面白いテープが自分たちの手によって、使用用途を広げ、いろいろな形で作れたら面白いだろうなということで、楽しみながら取り組んでいました」
取り組み始めたのが2017年。2018年には最初の製品である無地の紙自着テープが完成した。
「製品を作ることはそこまで大変ではなかったんです。当時、私たちの会社は紙加工技術はあるものの、粘着するものは取り扱ったことはありませんでした。一瞬大丈夫かなとは思ったのですが、そもそも糊の特性上、お互いにしかくっつかないため、私たちがもっている機械でも作れることがわかりました。
しかし、最初の製品が完成したときに、今更ながら不安になったのが“どう売り込めばいいんだろうか……”ということ。我々のメインの仕事はレシートやIDカードなどBtoBの仕事が多く、一般向けというのはあまりやってきていませんでした。しかも、こういう留めるものは、輪ゴムや紐など、代替できるものは存在していて、無くて困る物ではない。どのニーズに攻めていけばいいのか、そこを考えるのが一番大変だったように思います。紙自着テープは課題があって作ったものではなく、面白そう、これを世に出してみたいという想いで突き進んできたので、作ったあとに認知してもらうまでがとっても大変でしたね(笑)」
デスクなどでケーブルなどをまとめる際にぴったりな、シンプルな色合いの紙自着テープ
色や形などを変え、ニーズを探りながら細々と世に届けていくなかで、少しずつ認知度が高まっていった。その中で“こういう悩みを解消できるのでは!?”という新しい声も次々生まれ、どんどん使用用途が広がり、それに合わせた製品が展開されていったという。
「例えば、コロナ禍で自分の買い物かごを持って買い物にいく人が増えました。買い物後の籠には会計済みの印をつける必要がありますが、最初はホッチキスなどで紙を留めていたんです。手間もかかるしレジ係の人の腕への負担も大きい。しかし、この紙自着テープの技術を使えば、ロールから引っ張って取り出して、端をくっつければそれで終わりです。こういう風に、一時的な目印という使い方にも活躍しています」
買い物済みのテープには、1枚1枚が同じサイズで簡単に切り離せるようにキリトリ線の工夫もして、より働く人の負担を軽減した。
「広がっていく中で、先代の社長の夢だった100円均一への展開も叶いました。実は紙自着テープが少しずつ世に広まっている最中の2020年に亡くなったので、夢が叶ったことを直接伝えられなかったのは残念です。自社の製品を我が子のように愛していた人でしたが、この紙自着テープは最後の子ども。販路の開拓にはすごく苦労はしましたが、今こうやって便利グッズとして多くの方に取り上げていただいていることを、先代も喜んでくれていると思います」
取材・文/田村菜津季