世界を熱狂させる柴犬がいる。
ブログ「かぼすちゃんとおさんぽ。」より
名前はかぼすちゃんだ。ブログ「かぼすちゃんとおさんぽ。」に掲載された写真がコラ画像としてネット上で急速に広まっていき、やがて社会現象となった。
ネットで「doge」と検索すると無数のかぼすちゃんのコラ画像が出てくる
暗号資産「ドージコイン」のモデルにもなり、イーロン・マスクがTwitterやTV番組で言及したことで一時価格が急騰するなど注目を集めた。
2021年にはNFTオークションでかぼすちゃんの写真が4億7000万円で落札された。今度は有志によってかぼすちゃんの誕生を記念した銅像を作ろうという動きまであるそうだ。
飼い主はどう思っている?
この一連の出来事について、飼い主の「かぼすママ」はこう振り返る。
「そもそも1年くらい遅れて(コラ画像になって広まっているのを)知りました。記事になっているのをたまたま読んだんです」
コラ画像について特別な感想はないという。
「かぼちゃんが食パンやドーナツになったところまではかわいく見ていたけれど、その後は全然理解できなくて見ていないですね(笑)」
商品化や暗号資産化も飼い主の知らないところで進んでいた。
「勝手に商品が作られて誰かのお金儲けのために使われていることには少しがっかりしている思いもありました。ただ、ドージコインはすごくうれしかったんです。あれはいいことに使われているから(※)」
※ドージコインはチャリティでの使われ方が目立つ。例えば、2014年のソチオリンピックでは、資金不足で出場が危ぶまれていたジャマイカのボブスレーチームに約3万ドルのドージコインが寄付された。
NFTオークションをはじめた理由
NFTが話題になり始めた頃、かぼすママの元に「一緒にやらないか」というメールが何件も届いた。NFTのことをまったく知らなかったかぼすママは、暗号資産の業界で働く友人に相談する。
「(友人が)私にその気があれば手伝うよ、と言ってくれたんです。今まで散々かぼちゃんの写真が他人のお金儲けに使われてきたけれど、今度は私の使いたいように使おうと提案してくれました」
そこで、友人が集めてくれたチームとともにNFTチャリティオークションをはじめた。保育士として働くかぼすママは、恵まれない環境にいる子どもたちを救いたいと思った。
「かぼちゃんが保護犬だったこともあり、これまでも動物保護団体のためにチャリティはやっていました。でも次は人間の子どもたちのためにお金を使おうと思ったんです」
そして、写真は予想外の高値で落札されることになる。
Doge NFT Auction
コラ画像になった写真を含め計8枚の写真が出品された
「1億はいくんじゃないかと言われていたんです。でも蓋を開けてみたら合計で5億300万円でした。頭が真っ白になりましたね」
オークションの売上は、国内外の子どもの人権を守る団体に寄付をした。残ったお金で国際NPOプラン・インターナショナルとワールド・ビジョンを通してベトナムやイラク・南スーダンに学校を建設中だという。
かぼすちゃんと出会って
かぼすママは、前の愛犬「ケン」を突然死で失った。以来、日課の散歩がなくなり、秋の紅葉や桜の季節を感じることもなくなった。
ケンの死から2年後、保護犬の里親募集ブログでかぼすちゃんを見つけた。近所に住んでいるのを知り、運命だと思った。家族に迎え入れるまで時間はかからなかった。
ブログ「かぼすちゃんとおさんぽ。」より
かぼすちゃんと出会い、日常が再び輝きだす。久しぶりの散歩に心が踊った。
「散歩をしながら鳥の声や季節を毎日感じられるのがすごくうれしくて。『桜のつぼみがこんなに膨らんだよ』『かぼちゃんとのお散歩がこんなに楽しいんだよ』って、誰かに伝えずにはいられなくなったんです」
抑えきれない気持ちをブログに書きはじめた。「かぼすちゃんとおさんぽ。」の始まりである。
ブログ「かぼすちゃんとおさんぽ。」より
そしてブログをはじめて数年後、かぼすちゃんは世界的に有名になる。その後は冒頭のとおりだ。
有名になってよかったことを挙げるとすれば、保護犬を知ってもらうきっかけになったことだという。
「ブログをみて『保護犬を飼いました』『次飼うときは絶対保護犬にします』と言ってくださる方がたくさんいるんです。それが一番うれしいです」
かぼすちゃんは、今年11月に17歳の誕生日をむかえた。かぼすママが今思うこととは――。
「とにかくかぼちゃんには長生きしてほしいですね。毎日2回のお散歩を楽しんで、昨日と同じ今日、今日と同じ明日を過ごせますように。それだけです」
取材・文/阿部慶次郎