未来の乗り物はどんな形をして、どんな車窓の風景を、私たちに見せてくれるのだろう。乗り物系YouTuberで交通の神と呼ばれるスーツさんが考えた未来の乗り物、70種類を紹介した「未来の乗り物図鑑」が面白い。
乗り物の最新イノベーションが満載
未来の鉄道・自動車・飛行機&船、パーソナルモビリティ・働く乗り物・宇宙の乗り物、の6分野に分けて解説されている一冊で、特に乗り物好きな人でなくても、楽しく読むことができる。技術革新に興味のある大人だけでなく、子ども達でも理解しやすい様に、漢字にフリガナを加えているのも親切な印象を与えてくれる。
特に乗り物ファンでなくてもぜひ読んで欲しいのが「未来の乗り物年表」である。それによると、来年2023年には、
・列車の自動改札機が顔パス化
・路面電車LRTが開業
・スターシップの有人飛行が開始
・ヘリコプター型タクシーが営業開始
・走るスイートルーム「スペーシア」が登場
・フランス高速鉄道TGVで自動運転が開始
2023年後半には、
・空飛ぶ車が登場
・iPhoneと連携した電気自動車の生産開始
という夢のような乗り物のイノベーションを予想している。来年の今頃にはこんな素晴らしい世界が待っているかと思うと、何か楽しい気持ちにさせてくれる。
近い未来であっても、こんなにも新しい乗り物が出現する。見たこともない新しい乗り物の登場の背景には、多くの人々の汗と苦労が存在することを考えると、何やら感謝したい気持ちになってくる。スーツさんの解説には、そんな不思議な魅力を感じさせるパワーがあった。
スーツさんはスーツだった!?説得力ある名前の由来
こんな魅力的な乗り物図鑑を書いた著者のスーツさんとは、いったいどんな人なのか。昨年、横浜国立大学を卒業したスーツさんは、交通・観光業界と協業するために株式会社ASを立ち上げた。その紹介文にはこんな解説が入っていた。
“少しでも多く旅費を確保するために、学生時代は制服で鉄道旅行を続け、大学生になってからは入学式のために購入したスーツで生活をしていた。YouTuberとしての名前も、スーツくらいしか着るものがなかったことが由来している。鉄道や交通、旅行に関する圧倒的な知識と独特の語り口で多くのファンを獲得した”
自分のお金を使って体験する姿勢が、愛称に表れていたのだった。ファンが多いのも当然かもしれない。交通系で「神」と呼ばれるのも納得の、交通・旅行への情熱あふれる人物紹介だった。
新会社のASではスマートフォン向けアプリ『スーツ旅行』も提供している。位置情報を利用したアプリで、訪れた駅に“チェックイン”すると、その駅の情報や動画をユーザーに発信してくれる。記録が残るので、旅の思い出をいつまでも楽しめるアプリとなっている。
リニアモーターカーは新幹線の延長線上にはない乗り物
新刊書「未来の乗り物図鑑」では魅力的な乗り物が登場するが、その中で最もスーツさんが魅力的な乗り物について語ってもらおう!
「最も魅力的、と聞かれればやはりリニアモーターカーですね。これは書籍で紹介したもののなかでも、実現可能性が高い、というより確定している未来の乗り物です。すでに技術的にも確立していますし車両も存在しますが、リニアモーターカーが普及することは約60年ぶりの進化になります。
1964年に国鉄0系の新幹線が走りはじめたものの、以降、国内で登場する高速列車はすべてその技術の延長線上のものでした。リニアモーターカーはそれとは違う技術で、より高速な乗り物です。
時代が変わったので新幹線が登場した当時ほどの熱狂で受け入れられるかはわかりませんが、個人的にはそれほどの交通革命になってほしいと期待しています。
一方で、リニアモーターカーが実現したその裏側には、実現できなかった多くの技術があったはずです。
本書で紹介した未来の乗り物に関しても、おそらくそのすべてが実現するわけではないでしょう。自動運転をはじめ、現代は交通技術に革新が起きている時代です。もしかしたら、今開発されている技術が次世代の交通の根幹になるかもしれませんし、来年あたり、急にまったく新しい技術が登場する可能性もあります。そういう意味では5年後、10年後に読み返してみて“答え合わせ”をするときが今から楽しみです」
乗り物図鑑に掲載されている「未来の宇宙の乗り物」の最後に紹介されたのは宇宙へのエレベーターだった。これはまさに、SF作家のアーサー・C. クラークが書いた「楽園の泉」に登場する宇宙へのエレベーターである。
クラークのロマンチックな文章と、小説に登場する金の蝶がふわりと浮かんでくるようなセレクトに、読者はノックアウトされるはず。スーツさんの魅力を存分に感じられる一冊となっている。
●スーツ:本名:藤田裕人さん
1997年12月、東京都生まれ。横浜国立大学経営学部卒業。幼少期より鉄道に目覚め、鉄道高校として名高い岩倉高等学校に進学。鉄道員を目指し就職試験に臨むも不採用となったため、大学進学を志す。大学在学中の2017年、「最長往復切符の旅」を機にYouTube配信を開始。独特の流暢な語り口と奥深い知識が瞬く間に話題となり、交通系YouTuberとして唯一無二の存在に。以降、海外の鉄道や航空機、船舶、車などモビリティ全般へとテリトリーを拡げ、メインCH「スーツ 交通」は登録者数98万人を突破。
「未来の乗り物図鑑」
文/柿川鮎子
編集/inox.