ラオスで活躍するハーフアイドル~知られざる国の芸能ビジネス
東南アジアの小国ラオス。国土の面積は23.7万平方キロメートル、日本の本土と同じくらいです。ところが対する人口はたった約738万人!2021年の一人当たりの名目GDPは2,621ドル(約39万円)となっています。
例えば隣国のタイの同じ年のGDPが7,233ドル(約107万円)などでやはりまだまだ貧しい国と言えるでしょう。
*ジェトロ(日本貿易振興機構)ホームページによる。
そんなラオスで、日本人とラオス人を両親に持つアイドルが活躍しています。彼を通じてこの国の芸能事情について紹介したいと思います。
世界で一番静かな首都
ラオスの首都ビエンチャン。世界で一番静かな首都とも呼ばれています。ノンビリと落ち着いた場所で、私の住む隣国タイの首都バンコクの喧噪と比べると気が安らぎます。
「これでも20年前と比べたら全然発展していますよ。高い建物がほとんどなくて見晴らし抜群(笑)。最近は中国やベトナムの資本が入って大型ショッピングモールもオープンしたりしていますよ」と言うのは池田雄介さん(54歳)。
4.5か国が堪能なイケメン!
その池田さんの息子さんの陽さん(ラオス名&芸名:ヨー・セーントーン君、19歳)が、今、ラオスでアイドルとしてブレーク中です。16年前からラオスでお好み焼き屋を経営している父親とラオス人の母親との間に生まれたハーフ。
身長175センチ、スリムで色白のイケメンです。ルックスが良いだけではありません。何と4.5か国が話せるのです!
https://www.facebook.com/yoyoikeda
「日本語、ラオス語、英語、タイ語、少し中国語が話せます」と陽さん。アメリカの大学への留学経験がある父親の考えから幼少期に池田さんが「中国語を学んでいて損はない」と中国系幼稚園に通い、その後も、インターナショナル・スクールに通ったり、日本で公立中学に通っていたりしたからです。
陽さんは学生時代から芸能活動をスタートします。現地テレビ局の恋愛ドラマ『One Love』に出演したり、女性デュオのミュージッックビデオでラップを担当したり、ラオス有数の企業であるLBC(ラオス・ビア・カンパニー)のCMや広告にも近日登場します。
すでに撮影は終えているそうで、街中に陽さんの姿があふれることになります。
デビューのきっかけは大型タレント事務所のA-List Tarent Agencyにスカウトされたこと。同事務所の社長はアレクソン・シティソーさんという有名ミュージシャンです。
陽さんがストリードダンスの大会に出場した際、その司会をしていたアレクソンさんに才能を見出されたのです。
https://www.facebook.com/a.list.agencylaos/
「ヨーのパフォーマンスに対する真摯な態度がアレクソンさんの目を惹いたそうです。日系ハーフという点もアピールの対象になると考えたようです」と同事務所のPR担当者は言います。
父親の池田さんも10代後半にロックバンドに加入していて地元で人気を博していました。ですから、陽さんがタレントとして現在活躍しているのも自然の流れかもしれません。
公務員兼業のタレント多数!
さて、ここでラオスの芸能事情について説明しましょう。実はラオスの人たちが視聴する映画やドラマ、音楽のほとんどはメイド・イン・タイ。ラオス語とタイ語は姉妹言語で似ているので、映画のセリフや歌の歌詞を理解することができるのです。
それに加えて、先述のように人口が少ないこと、経済的ハンディから文化方面に資金が回らなかったことなどでラオス発信のエンターテインメントはなかなか進歩しませんでした。
しかし、経済が首都ビエンチャンを中心に次第に上がる中、エンターテインメント文化も発展していきます。
「いやあ、10年くらい前までははひどかったですよ。正直、ミュージックビデオは誰が観ても学生が作ったようなレベル。でも、今は垢ぬけた作品を作るようになっていますね」と池田さん。
それでも、まだラオスのエンターテインメント業界自体は大きくはありません。業界全体でタレントの数は500人ほど。TV局や音楽事務所などの裏方さんも含め、ほとんどが知り合いな感じだそうです。
TV局の数は国営放送を含めて3チャンネル、年間に制作される映画はゼロから3、4本程度だそうです。
そして、業界が小さければ収入も多くはない……なので、タレントのほとんどが富裕層の子弟でまだ学生だったり、地元の有力企業や役所などに勤務しているとか。
つまり、芸能活動は副業なのです。女性のタレントの場合はソーシャルメディアを通じて化粧品などの販売をしていることが多いとか。
売り出し中の陽さんの場合も事情は同じ。彼は仮想通貨を使った投資をしていて、1日に約3000ドル(約44万円)を稼いだこともあるそうです。
ところ変われば品変わる、芸能事情も国によってそれぞれですね。
梅本昌男
フリーライター。タイや東南アジア諸国の記事をJAL機内誌などの媒体に書く。単行本『タイとビジネスをするための鉄則55(アルク)』。NHKラジオへの出演や写真ACのモデルの仕事なども行っている。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員