旅行でお城や武家屋敷などの古い建物を見学した際、案内板などに「雪隠」と書いてある表示を見かけたことはないだろうか。
古くからある日本語には、読み方や意味などがわかりにくい言葉も多い。特に仏教や中国文化が発祥になっている言葉は、もとの文化を知らないと意味をつかみにくいケースがある。
そこで本記事では、一見、馴染みのない語句に見えるものの、実は私達の生活に欠かすことのできない「雪隠」の意味と言葉の由来について解説する。
「雪隠」の読み方と正しい意味
雪隠の読み方は「せっちん」。便所やトイレ・厠(かわや)を指す言葉だ。 漢字の読みである「せついん」が言いやすい形に変化したもので、ほかに「せちん」「せんち」と読む場合もある。
禅宗で便所を意味する「西浄」が言葉の由来
雪隠の語源については諸説あるが、もとは禅宗で便所を指す言葉として使われていた「西浄(せいじょう・せいちん)」が由来であるとする説が有力だ。
禅宗では法要儀礼の際に法堂・仏殿の西側に並ぶ人々を「西序(せいじょ)」と呼び、西序たちの使用する便所を「西浄」と呼んだ。西序の中国語読みである「せいちん」が、「せついん(雪隠)」に変わり、「せっちん」として定着したと言われている。
他にも、中国では便所の近くにツバキの木を植えて隠したことから、ツバキを指す言葉「青椿(せいちん)」が便所を意味する言葉となり、時代とともに「せついん」から「せっちん」へ変化したとする説もある。
雪隠のことわざや使い方
雪隠は歴史の古い言葉だけに、ことわざ・慣用句に登場するケースも多い。日常で使う機会は少ないかもしれないが、教養の一貫としてチェックしておくと良いだろう。
・雪隠で饅頭(せっちんでまんじゅう)
便所で饅頭を食べること、すなわち、隠れて自分だけ良い思いをすることのたとえ。また、空腹を満たすのに場所を問わない、という意味で使われる場合もある。
・雪隠の火事(せっちんのかじ)
やけくそ・自暴自棄の状態をしゃれて言ったもの。
・考えは雪隠(かんがえはせっちん)
良い考えを得るためには、人に邪魔をされない便所にこもるのが良い、という意味。
知っていると役に立つ?「雪隠」を使った語句・用語
人間が生活する上でなくてはならない雪隠だが、その身近さゆえに便所やトイレ以外の意味で使われるケースもある。 雪隠を使った言葉は、将棋・建築・茶の湯など日本文化とも関わりが深い場合が多いので、知っておくと教養の幅を広げられるはずだ。
雪隠詰め(せっちんづめ)
将棋において王将を盤のすみに追い込むこと。転じて、相手を窮地に追い詰めることを指す。
雪隠大工(せっちんだいく)
技術のない大工をからかっていう言葉。便所の工事以外には使えない大工の意。
鬼の雪隠(おにのせっちん)
奈良県高市郡明日香村平田にある梅山古墳の一部で、花崗岩による石造物。数十メートルほど離れて存在する「鬼の俎(おにのまないた)」と併せて、欽明天皇の墓の史跡として宮内庁により管理されている。
砂雪隠(すなせっちん)
茶道において、内露地に設けた便所を指す。中には自然石を置き、川砂を敷き詰め、砂をかけるための杖を添えてある。実際に使われることはほぼない装飾用の雪隠で、常にきれいにしておくことで主人がもてなしの心を客に伝える。
「雪隠」を英語で言うと?
時代劇や時代小説などの内容を外国人に説明する際、「雪隠」とはどういう意味かと聞かれることもあるだろう。雪隠を英訳する際は、一般名詞か固有名詞かを見極めることがポイント。雪隠の英語表現をチェックしてみよう。
トイレならば「toilet」「lavatory」、固有名詞はそのままでOK
「雪隠」を便所・トイレの意味で使用するのであれば、「toilet」「lavatory」「bathroom」などの単語で意味が通じる。 一方、「鬼の雪隠」のように固有名詞として使う場合は、そのまま「Oni no Setchin」と日本語の読み方で伝えよう。
文/編集部