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退職金や家のローンはどうなる?決断する前におさえておきたい熟年離婚のリスク

2022.11.19

長年、夫婦として連れ添った夫婦が離婚に至る「熟年離婚」が増加中だ。厚生労働省の統計によると、20年以上同居した夫婦が離婚した割合は、1950年以降、上昇し続けており、2020年は21.5%と過去最高になった。定年退職後、妻や夫から離婚を言い渡されないよう、早めに対策を講じておきたいものだ。

また、万が一のことも考えて、財産分与のノウハウやローンが残っていた場合の対処法、退職金はどうなるのかなどお金についての知識も備えておきたい。

そこで今回は、弁護士の解説のもと、離婚の財産分与について紹介する。

離婚の財産分与の基本

まずは離婚の財産分与の基本を押さえておこう。Authense法律事務所の弁護士で、離婚や相続といった家事事件の実績の多い白谷英恵氏に話を聞いた。

【取材協力】

弁護士 白谷 英恵(しらたに・はなえ)氏
神奈川県弁護士会所属。同志社大学商学部卒業、創価大学法科大学院法学研究科修了。
不動産法務およびスタートアップ支援を中心とした企業法務分野の実績を豊富に有する。また、離婚や相続といった家事事件の実績も多数。離婚分野のマネージャーを務め、自治体の女性向け法律相談、弁護士会の子ども人権相談、相続セミナーの講師などにも積極的に取り組む。
Authense法律事務所プロフィール
https://www.authense.jp/lawyers/lawyer_shiratani/

「夫婦が婚姻中に協力して取得した財産を離婚に伴って分けることを『財産分与』と言います。そして、婚姻中の夫婦間の収入の差に関わらず、資産形成に対する夫婦の貢献度は同等と考えられていますので、財産分与の割合は、2分の1とすることが原則です」

白谷氏によると、財産分与の対象となるのは、次のような「共有財産」となり得るという。

●預貯金
●家や土地などの不動産
●自動車
●保険
●有価証券
●家財道具
●貴金属・絵画・骨董品、高価なブランド品など
●住宅ローンなどの負債

「共有財産とは、夫婦の協力によって築き上げられた財産のことです。名義は問いません。つまり、夫名義の生命保険であっても、妻名義の預金口座であっても共有財産となり、財産分与の対象になります」

「婚姻後に購入した有価証券(株券、社債など)などは、婚姻後に得た給与等から支出したものであれば、他方に秘して購入していても、原則として夫婦の共有財産となります。また、婚姻後に得た給与等から購入した時計なども、ブランド品などの高価なものであれば、離婚時の時価額が財産分与の対象となる場合があります。

結婚後の負債については、使途が学費や生活費といった教育や家計のためのものであれば、夫婦の共有財産総額から負債額を控除して、その残額を財産分与の対象とする場合があります」

熟年離婚で退職金の財産分与はどうなる?

ところで熟年離婚は、夫の退職後もしくは退職前後にすることが多いといわれる。実際に白谷氏も「最近は、夫の退職があと数年に迫ったころに、妻が弁護士へ離婚相談に来られる方が増えた印象です」と述べる。

夫の退職金は財産分与の対象となるのだろうか? 退職金が財産分与の対象になるかどうかは、離婚日から退職予定日までの期間や退職金支給の確実性によって変わってくるようだ。

●退職金を受給したあとに離婚する場合

→婚姻期間中に構築された退職金は、財産分与の対象となる。

「退職金は賃金の後払いの性格があるため、婚姻期間中に構築された退職金は、財産分与の対象となります」

●退職金を受給する前に離婚する場合

→近い将来に受給が見込まれ、かつ婚姻期間中に構築された退職金は財産分与の対象となる。ただし、退職金の支給が確実でない場合は、財産分与の対象とならない。

「退職時期が迫っているときに離婚する場合は、婚姻期間中に構築された退職金は、基本的に財産分与の対象となります。ただし、離婚から退職予定日までに長期間あるときなど、退職金の支給が確実でない場合には、財産分与の対象となりません。

退職金が財産分与の対象となり、退職金の受給前に離婚をする場合には、勤務先の退職金規程に基づき、現時点で支払われる退職金を試算することになります。勤務先に開示を求めることもあります」

ところで、退職金が財産分与の対象になる場合に、夫婦どちらか一方が得して、どちらか一方が損するといった事態は起こるのだろうか。白谷氏は2つの点を挙げる。

「将来に受給が見込まれる退職金であっても、財産分与対象財産に含め、一方から他方に対する財産分与を合意した後になって、勤務先が倒産してしまい、退職金が支払われなくなるといったことも起こり得ます。また、定年退職前に解雇される事態もあり得ます。

しかしそのように何らかの事情で退職金が支払われなかったとしても、試算よりも実際に受給した退職金が低額であったとしても、基本的に夫婦間で合意した支払義務を免れることはできません。その意味では、将来に受給が見込まれる退職金の財産分与の合意の方法によっては、『損得』が発生する場合もあり得ると言えます」

「また、実際に退職金を受給したあとに離婚する場合には、婚姻期間中に構築された退職金は財産分与の対象となりますが、退職から離婚までの間に、退職金を受給したほうが一方的に退職金を散財や隠匿するおそれもあります。つまり、他方が退職金から財産分与を受ける権利があることと、現に財産分与を受けられるかということは別であると言えるので、これらの場合にも『損得』が発生する場合があり得ると言えます」

自宅のローンの財産分与方法

自宅のローンが残っていた場合には、基本的に財産分与の対象になるというが、どのような分与になるのだろうか。

「自宅の財産分与については、不動産業者へ査定書の作成を依頼するなどして、まず自宅の実勢価格を調査する必要があります。住宅ローンが残っている場合には、【実勢価格-ローン残高=自宅の評価額】となり、自宅の評価額がプラスであれば、そのプラス部分が財産分与の対象となります。自宅の評価額がマイナスであれば、他の預貯金などを併せて夫婦共有財産の総額がプラスにならない限り、原則として財産分与の対象となりません」

自宅の評価額がプラスの場合を『アンダーローン』と呼び、マイナスの場合を『オーバーローン』と呼ぶという。それぞれの対応方法について白谷氏は次のように述べる。

「アンダーローンであれば、(1)自宅を売却の上で、売却金から残ローンを返済し、余剰金を夫婦で分割する方法や、(2)夫婦のいずれかが自宅を取得し、他方へ代償金を支払う方法により財産分与することなどができます。

一方、オーバーローンであれば、不動産を売却してもローンが残ることになるので、夫婦の一方が離婚後も自宅に住み続け、住宅ローンの支払いを続けることが多いかと思われます」

またその他にも、次のようなローンにまつわる課題も起きることがあるという。

「ペアローンを夫婦で組んでいる場合や、夫婦の一方が他方の連帯債務者や連帯保証人となっている場合などは、各人の金融機関に対する責任は免れることはできません。一方が離婚後に住宅ローンに対する債務を免れるためには、金融機関と交渉をしたり、他方が住宅ローンの借り換えをすることによって、債務者や連帯保証人などから外れる方法の検討も必要となります」

財産分与の対象にならないもの

ところで、離婚時には財産分与の対象にならないものもある。どんなものがあるのだろうか?

「財産分与では、夫婦の協力なくして得た財産は『特有財産』といわれ、特有財産は財産分与の対象外となります。特有財産の例としては、次のものがあります」

●結婚前の預貯金、結婚前に取得した有価証券(株や社債など)
●結婚前に購入した財産(車、土地など)
●結婚時に実家から持ってきた家具家電
●自分の親から相続した財産(現金、不動産など)

「結婚後に不動産の購入代金の一部を特有財産(結婚前の預貯金等)から支出した場合、その支出額に応じた不動産の一部が特有財産となります。

特有財産については、特有財産を主張する側が、自己の特有財産であることを立証することが原則です。特有財産か共有財産か不明な場合や、特有財産の証明ができなかった場合は、共有財産と推定され財産分与の対象となりますので、自己の特有財産を示す書類を残しておくことが必要です」

熟年離婚の財産分与のよくあるトラブル

熟年離婚をする夫婦が、財産分与の面でよく直面するトラブルにはどんなものがあるのだろうか。その予防法についてもアドバイスしてもらった。

「長年、夫婦の一方のみが家計を管理している場合、家計の詳細を把握していない他方は、『今、うちには数千万円の財産があるはずだ』と算段することになりますが、実際には、想像よりはるかに低い金額の財産しか残っていない場合が少なくありません。また、家の財産について、今どこにいくらあるかがまったく不明であるという方も一定数いらっしゃいます。また退職金を老後資金にしようと思っていたところ、一方が、株や浪費などでほとんど使い果たしていた場合もあります。これらの場合、自身が想定していた離婚した後の生活を維持するだけに十分な財産分与がされないことになります。

また、相手が財産を隠し持っている疑いがある場合は、財産分与の方法や財産の評価額の協議以前に、財産分与の対象財産の特定から争いが生じ、結果として、弁護士に依頼して調停離婚や裁判離婚となり、離婚までに時間と労力と費用がかかる場合が多いと言えます。

いざ離婚を検討する段になれば、お互いの財産の開示はスムーズ行われないことが多いですし、別居した後は、他方の管理する財産を把握することは困難です。そのため、離婚を検討するかしないに関わらず、家計や家の財産については、定期的に互いに話し合うこと、そして退職金については支給される前に、使途や管理方法を話し合い、双方で管理していくこと、さらに、日ごろから郵便物などで他方の財産を把握しておくことなどをおすすめします」

熟年離婚の場合は、婚姻期間が長期間であるため、財産が多額かつ多岐にわたることが多い。そのため白谷氏は「熟年離婚を検討する場合には、夫であれ妻であれ、事前に弁護士へご相談することをおすすめします」と述べた。

熟年離婚の不安がある場合は、それを予防する考えも必要だが、財産の把握や管理方法の明確化など、将来起きるかもしれない財産分与を見据えて夫婦共に準備しておくことも、今後は必要なのかもしれない。

【出典】厚生労働省「令和4年度 離婚に関する統計の概況」

取材・文/石原亜香利

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