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【深層心理の謎】コロナ禍前と比べて人々の外向性、開放性、協調性、誠実性が顕著に低下している理由

2022.11.15

 時間を返してくれ、と言いたくなることがあったりもするだろう。たとえわずかな時間でも後悔するような過ごし方はしたくないものだが――。

本や映画を確実に楽しむためには?

 古書店の前を通り過ぎる。歩きながら店の奥を覗き見ると、数人の本好きが熱心の書棚の本をチェックしていた。羨ましい限りだ。個人的には古本屋めぐりはすっかりご無沙汰している。

※筆者撮影

 神保町駅界隈の靖国通り沿いを歩いていた。夕方6時半になろうとしている。部屋に戻ってからまだ作業があるので、地下鉄に乗る前にどこかで何か食べてから帰りたい。

 ご存知の通りここ神保町はカレーの街とも呼ばれていることから、素直にカレーを食べてみたい。かつて何度か入って気に入っているカレー店の方向に自然と足が向く。

 もちろんカレーの街であるよりも先に古書店街として有名な街だけに、古本屋にも入ってみたいとは思うが今は無理だ。そもそも相変わらずまとまった時間がとれずに読みたい本が読めてはいない……。

 読みたい本の中には実はもう一度読み返したい本も多い。むしろ充実した読書の時間を楽しみたいと思えば、昔読んで感銘を受けた本をもう一度読んだ方が確実だ。興味本位で手に取った本が期待外れだったらまさに「時間を返してくれ」ということにもなる。

 そういえば今年の初め頃の仕事状況に余裕があった時期に、かつて読んだ長編小説を読み返すことができて、なかなか充実した時間を過ごすことができてよかった。もう年内はそういう時間はとれないだろう。

 そうしたことは本だけでなく映画や音楽についてもいえそうだ。

 先日、仕事にひと段落つき寝る前にネット配信サービスの映画を観ようと思い立ったのだが、何にするか迷っているうちに結局は観たことがあるけっこう昔の邦画を観てしまった。もちろん再びその作品を堪能できたことはいうまでもない。

 当初はまだ観ていない最近の映画にするつもりだったのだが、もう一度感動を味わいたいという気持ちが勝ってしまったのだ。

 2時間ほどは費やしてしまう映画であるだけに、納得できないものを観た時には思わず「時間を返してくれ」と叫びたくもなるだろう。その意味では一度観て感銘を受けた作品は記憶があいまいになってきた頃に再び観れば確実に充実した時間を過ごせる。本と同じく、新しい映画を観たいとは思っていても、もう一度見たい映画にも抗しがたい魅力があるのだ。

“過去の人”になってはいないか?

 靖国通りを進む。頭に浮かんでいるカレー店はもう少し先だ。歩みがわずかにスピートアップしてくる。

※筆者撮影

 昔に読んだ本を読み返し、懐メロを聴き、好きな映画を再び観ることで確かに生活に充足感が得られるだろう。しかし今を生きる我々にとって、そればかりでいいとはどうしても思えない。慣れ親しんだ居心地のいい過去にどっぷり浸っていては、身も心も“過去の人”になってしまう。

 どうも今の我々のメンタルは新しいことへの開放性に乏しくなっているのかもしれない。最新の研究では、今回のコロナ禍を通じて人々の性格特性に変化が生じていることを報告している。コロナ禍前に比べて人々の外向性、開放性、協調性、誠実性が顕著に低下しているというのだ。


 5因子モデルの性格特性 (神経症的傾向、外向性、開放性、協調性、誠実性) は、成人期の環境要求に対して比較的影響を受けにくいと考えられています。

 コロナウイルスのパンデミックは、ストレスの多い世界的な出来事の間に人格が変化したかどうかを調べる前例のない機会です。

 驚くべきことに以前の2つの研究ではパンデミックの初期に神経症的傾向が減少したことが判明しましたが、この期間中の他の4つの性格特性の変化に関する証拠はあまりありませんでした。

 しかし2021年から2022年の性格特性を測定したところ、パンデミック前のレベルと比較して神経症的傾向に大きな変化はありませんでしたが、外向性、開放性、協調性、および誠実性に有意な小さな低下が見られました。

※「PLOS ONE」より引用


 フロリダ州立大学をはじめとする合同研究チームが2022年9月に「PLOS ONE」で発表した研究では、今回のコロナ禍が人々のメンタルヘルスや行動に及ぼした影響について分析している。

 これまでにも各種の研究が行なわれているが、コロナ禍の初期に神経症的傾向が減少し、ロックダウン下の生活でむしろ生活の満足度(well-being)が向上したという調査結果も報告されているが、気分の問題を超えた性格特性への影響は詳しく検証されていなかった。

 心理学的に信頼性の高い性格診断である5つの性格特性(神経症的傾向、外向性、開放性、協調性、誠実性)は「ビッグファイブ」と呼ばれているが、研究チームは7000人以上のアメリカ人のビッグファイブのコロナ禍前とコロナ禍を経験後の2021~2022年のデータを比較検証した。

 研究チームがデータを分析したところ、コロナ禍前と2020年のコロナ禍初期における性格特性にはあまり差がみられなかった一方、コロナ禍前とコロナ禍後の2021年~2022年のビッグファイブを比較したところ、コロナ禍後は外向性、開放性、協調性、誠実性が顕著に低下していることが明らかになったのだ。

 居心地の良い過去に浸ってばかりいないで、同時代に生きる人間としては折に触れて新しい刺激的な体験をしたいものだが、どうやら今回のコロナ禍によって我々の開放性が低下し、慣れ親しんだ安心感のある対象へ誘われてしまいがちになっているのかもしれない。

 もちろんかつて読んだ本を読み返したり、過去に感動した映画をもう一度観賞したりすることも有意義な体験ではあるが、自分が“過去の人”になっていないかどうか、時折チェックしてみるべきなのだろう。

初めて味わうスマトラカレーを存分に堪能

 通りを進む。目的の店はまだもう少し先なのだが、通りに面したビルのカレー店の看板が目に入る。地下1階にある店のようだが、テレビか雑誌で見かけたことがあったのを思い出す。神保町の老舗のお店であることは間違いない。

※筆者撮影

 店名の一部になっている「スマトラカレー」がどんなカレーであるのかも気になる。予定を変更して入ってみることにしよう。慣れ親しんだ味よりも、ここは新しい体験を選んでみることにしたい。

 カーブした階段を降りてガラス張りのお店に入る。テーブル席のみの店内で、8割はお客で埋まっていた。

 テーブル席が2つほど空いていて、お店の人にその1つに案内される。4人掛けの席に1人で座ることになるが、混んできたら相席になるのだろう。

 メニューをザッと眺めていると、すぐにお店の人がコップのお水を持ってきた。メニューの中で最も定番的だと思われるポークカレーを注文した。ソース(カレールー)が大盛りにできるようなのでそれもお願いする。

※筆者撮影

 カレーがやってきた。大盛りではないのだが、皿に盛られたライスはけっこうな量で食べ応えがありそうだ。さっそくいただこう。

 ルーは黒っぽい見た目からは意外なほどにサラっとしていてすぐにライスに染み込んでいく。「スマトラカレー」というだけに、広い意味でのアジア系のカレーということになるのだろう。

 サラっとしてはいるものの味のほうはスパイスが効いていてコクがあって美味しい。柔らかい豚肉もゴロゴロと入っていて食べ応えじゅうぶんだ。

 当初行こうと思っていたお店のカレーもまたぜひ味わいたいものだが、こうして自分にとって新しい味に出会うことも貴重な体験であることは間違いない。ただでさえコロナ禍で新たな体験への「開放性」が低下しているのだ。かつて感動した映画を再び観賞するのも悪いことではないが、次にネットで映画を観る時はまだ観たことのない映画を選びたい。過去に浸ってばかりはいられないのだ。

文/仲田しんじ

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