誰の中にも積み上げられてきた偏見というものがある。
「ストリッパーの女性が殺害された事件」とだけ説明を受けたとき、あなたの心の中にはどんな感想が浮かぶだろうか?よくある事件の一つだと思うだろうか。
今回紹介するのは、ひとつの悲しい事件を丁寧に掘り下げることにより、偏見を打ち砕いてくれる映画だ。
2022年7月6日よりNetflixで独占配信中の『ガール・イン・ザ・ピクチャー: 写真はその闇を語る』は、アメリカで製作されたドキュメンタリー映画。
監督は『白昼の誘拐劇』のスカイ・ボーグマン。
あらすじ
1990年4月末の深夜、アメリカ・オクラホマシティの道路脇で瀕死の若い女性が発見された。
ドライブ中だった若者グループの通報を受けて病院に救急搬送されたが、女性は結局亡くなってしまった。
病院に駆けつけた夫のクラレンスによると、女性は20歳のストリッパー、トーニャ・ヒューズ。幼い息子マイケルと一緒に親子3人で暮らしているとクラレンスは説明した。
クラレンスはトーニャよりもかなり歳上で、異様な雰囲気の男性だった。
さらにトーニャの体が全身アザと傷だらけであったことも、救命措置を担当した医師や看護師らが記録していた。
トーニャが勤務していたストリップ・クラブ“パッション”の同僚たちは、彼女の実家を調べて連絡するが、トーニャという女性は20年前に1歳半で亡くなっていたことを知る。
つまりトーニャは偽名であり、亡くなった女性には全く別の本名があったのだ。
さらに事件後、クラレンスはマイケルの実父でないことが鑑定で判明した。
福祉局によって保護施設に入れられたマイケルは、里親や社会福祉士によって数年間守られていた。
しかしマイケルに対して異常な執着を示していたクラレンスは、ある日小学校に白昼堂々押し入り、銃を突き付けてマイケルと校長を誘拐した。
その後の捜査で、クラレンスは前科前歴が多数あり、17年間行方不明になっていた犯罪者であることが判明。
クラレンスも偽名で、本名はフランクリン・デラノ・フロイドであることがわかった。
見どころ
ストリップ・クラブの同僚や高校時代の同級生が語る被害者女性の人物像は、「賢くて読書家で常に知識を得ようとしていた」「成績優秀者で、弱者の味方だった」など、非常に人望が厚い女性であったことが伺える。
宇宙開発技術者になるのが夢であり、ジョージア工科大学の航空宇宙工学部に特待生で合格できるほどの知性の持ち主でもあった。
過酷な運命を受け入れながら、それでも決して諦めることなく、前向きに自分の人生を切り開こうとしていた。
賢さと優しさと強さ、全てを兼ね備えていた聖人君子のような被害者女性が、なぜこんなに酷い目に遭わなければならなかったのだろうか。
いや、あまりにも光輝いていたからこそ、フロイドのような卑劣な怪物に狙われてしまったのかもしれない。
フロイドの生い立ちも辛いものなのだが、だからこそ被害者女性との人間性の差が歴然としている。
不幸を言い訳に腐ってしまい他人を攻撃するしかできない人もいれば、不幸の真っ只中でも感謝や思いやりや希望を失わず清らかな心を保ち続ける人もいる。
世の中の不条理を凝縮したような本作を観終わった後は、やるせない気持ちになってしまうだろう。
同じくNetflixのドキュメンタリー『キープ・スイート: 祈りと服従』も、閉ざされた環境で大勢の人々が洗脳されていた事件について取材している。
暴力と恐怖に長年支配されてきた被害者にとって、“逃げること”がどれだけ難しいのかがわかる作品だ。
Netflix映画『ガール・イン・ザ・ピクチャー: 写真はその闇を語る』独占配信中
文/吉野潤子