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【深層心理の謎】童話やおとぎ話は現代の小学生に社会正義、感情的知性、批判的思考を伝えられるのか

2022.11.03

 まだたいした冷え込みにはなっていないが今年も冬がやってきた。季節の変わり目には「アリとキリギリス」のアリがむしろ羨ましくもなってくる。夏に一所懸命働いていれば、冬の間は巣の中で休めるのだから——。

「アリとキリギリス」について考えながら護国寺を歩く

 街にコート姿が目立つようになってきた。今年は早くも6月末から猛暑が続きうんざりだったが、それでも季節はめぐってくる。まだたいした寒さではないが、あと2週間もすれば冬らしい冷え込みになってくるのだろう。となればいよいよ師走も意識されてくるというものだ。今年もあっという間だ。

※筆者撮影

 所用を終えて護国寺界隈を歩いていた。夜7時になろうとしている。少し歩いて頭を冷やし、どこかで何か食べてから帰ろう。音羽通りを江戸川橋方面に進む。

 右側には小さな書店がある。最近はこうした小ぢんまりした町の書店を見かけることも少なくなった。ウィンドウ越しに見える店内には親子の姿があり、小学校1、2年生くらいの小さな子どもに母親が本を選ばせているようだった。

 あの子どもはどんな本を買うのだろう。あるいは母親が何らかの本を勧めたりするのだろうか。あのくらいの歳の子どもなら童話の本が相応しいのかもしれない。

 通りを進み親子の姿が視界から消える。ジャケットに薄手のセーターという今の格好ではやや寒いともいえた。少し前まで猛暑が続いていたが、今まさに季節は移り変わっている。

 仕事は季節に関係なく続いていくが、童話の「アリとキリギリス」のアリのように、猛暑の中を働き続けたら冬はひと休みしてもいいのはないかとも思えてくるのだが、しかしそいうわけにもいきそうにない。

 童話の中では夏の間に歌を唄って呑気に過ごすキリギリスとは逆に、アリは日々コツコツと餌を集める努力家として描かれているが、それが報われて冬は巣の中で休めるとすれば、そんなに悪い暮らしぶりではなさそうにも思える。

 休めるアリが羨ましくなるというのに、遊びほうけて暮らしているキリギリスのほうは何をかいわんやということで、冬に食糧難に陥っても同情の余地はまったくないようにも思える。まさに「働かざる者食うべからず」だ。

 さっきの親子の子どもに「アリとキリギリス」が収められたイソップ童話の本を与えるのはいいのかもしれない。童話の“教訓”をよく理解できれば、きっと将来は勤勉な働き者になるだろう。

童話は幼い子どもの“考える力”を育む

 通りを進む。誰もが知っている大手出版社の歴史的建築物ともいえそうな立派な外観の社屋の前を通り過ぎる。そういえばかつて何度か仕事関係で訪れたことはあったが、最近はすっかり縁遠くなっている。

※筆者撮影

 まぁ今はあまり仕事のことは考えたくないが、子ども時代に「アリとキリギリス」の入ったイソップ童話を読み、深く感銘を受ければ将来働き者になってもおかしくない。

 童話をベースにしたディズニー映画については昨今、主にジェンダー論の観点から否定的な見解が多いのだが、最新の研究では童話やおとぎ話は幼い子どもたちに社会正義、感情的知性、および批判的思考を教える上で重要な役割を果たしていることが報告されている。


 重要な文献のレビューに基づいてこの論文は、21世紀の小学校の教室でおとぎ話を教えることの意味を判断することを目的としています。

 調査によると、カリキュラムのすべての教科分野を改善するためのツールとしておとぎ話を含めることの利点が指摘されています。

 おとぎ話は社会正義の教えと心の知能指数の発達を通じて、生徒を積極的に関与させる機会を提供します。

 物語のレビューでは、しばしば時代遅れでジェンダーに無知な社会の表現となる伝統的なおとぎ話を教えるとき、教師は慎重かつ批判的である必要があり、生徒がこれらの考えに立ち向かう機会を与える必要があることがわかりました。

※「Springer」より


 南オーストラリア大学のグレン・サクスビー氏が2022年8月に「The Australian Journal of Language and Literacy」で発表した研究では、おとぎ話が社会正義と感情的知性について小学生に教える際の有効なリソースであり、依然としておとぎ話が初等教育において重要な位置を占めていることを示している。

 特に初期のディズニー映画は、古典的なジェンダー観を強化するものであるとして一部から批判を浴びており、そうしたおとぎ話や童話をそのまま子どもに読ませることを問題視する声があがっている。

 しかし今回の研究では、おとぎ話や童話が批判的かつ包括的な方法で使用される場合、現代の教室で小学生を教える効果的なリソースになる可能性があることを報告している。童話は幼い子どもの“考える力”を育むのに今なお効果的な学習ツールであるというのだ。

 経験豊富な教師であり研究者であるグレン・サクスビー氏は、おとぎ話や童話は複雑な問題を子どもたちに説明するのに役立つとし、おとぎ話や童話は子どもたちが共感、優しさ、倫理、協力について学ぶための多くの前向きな機会を提供し、その話が時代遅れだったりジェンダーに無知な表現で描かれている場合、教師はそれらのケースを生徒に議論させることで考える力を醸成することができると説明している。

 たとえば「アリとキリギリス」の話を議題にして生徒同士に話合わせてみればいろいろと議論が広がりそうだ。その教訓は必ずしも「働かざる者は食うべからず」でなくともよいのだろうし、むしろもっといろんな解釈があったほうが議論は面白くなるのだろう。

ラーメン店でサバの塩焼き定食を注文する

 音羽通りを進み大塚警察署の前を通り過ぎる。少し先のほうにラーメン店などが見えるのだが、反対側に渡ったほうが店が多そうにも思える。近くの横断歩道で信号を待つことにする。

※筆者撮影

 信号が青になり通りを渡る。通りの先には某ファミレスが見えるのだが、その手前にも飲食店があるようだ。店の前には「定食」と記されたのぼりが立っている。

 マンションの1階にある店に近づいてみると、意外なことに昔からあるフランチャイズのラーメン店であった。いつのことだったが完全に忘却の彼方にあるが、ここではないどこかの店に1度くらいは入ったことがあったようにも思う。ラーメン店ではあるのだが、店先の2本ののぼり旗は「ラーメン」と「定食」であることから、ご飯モノも売りになっているのだろう。ドア横に貼られたメニューを見ると確かに麺類と同じくらいご飯モノのメニューもある。入ってみよう。

 店内は奥に向かって細長く、長いカウンターが伸びている。カウンターの向こうは調理場で、男性2人で店を切り盛りされているようだ。

 カウンターの中ほどの席に着き、頭上に貼られているメニューを見上げる。それにしても驚くのは価格である。昭和の頃からメニューの価格が変わっていないのではないと思うほどお得だ。

 この種のお店ではめずらしい刺身定食があったのでお願いしてみると生憎売り切れてしまったという。それならばと「サバの塩焼き定食」に「野菜炒め」を注文する。ビールをはじめアルコールメニューもあったが、今はやめておこう。

 こうして食事にありつけているのは働いているからこそであることは間違いない。その意味では「働かざる者は食うべからず」に則しているということになるのだが、100%それが正しいのかといえば微妙なことになってくるだろう。

「アリとキリギリス」の解釈にもいろいろあっていいわけであって、「働かざる者は食うべからず」はその中の1つにすぎない。身体を壊して働けなかったり、仕事が見つからなくて失業中の人々がご飯を食べるのを禁じられていいはずはない。そもそも定年退職後の方々も多い。そして満足な食事なくしては「健康で文化的な生活」は実現しない。

※筆者撮影

 サバ塩焼きがやってきた。野菜炒めもほぼ同じタイミングで届けられた。素朴な見た目だが美味しそうだ。さっそくいただこう。

 先にミニサラダを食べる。定食メニューにこうした惣菜がついているのは単純にありがたい。どんどん食べ進めていこう。

 もし働いていなかったとしてもご飯はこうして毎日食べなければならないのは言うまでもないことだ。とすれば働いていないキリギリスもまた、エサの乏しい冬場でも何らかの手段で糧を得なければならない。アリが夏場に集めたエサをキリギリスに分け与えた場合、いったいどれほどの批判を浴びるのだろうか。逆にアリの優しさと心の広さが称賛される場合もあるのかもしれない。

 塩焼きの一片に大根おろしを乗せて口に運ぶ。味噌煮とはまた違う美味しさでご飯もすすむ。

「働かざる者は食うべからず」ではあるが、行き着く先は“働き方”ということだろうか。一般的には週5日働いて2日休むということになるが、人によってはひと月働きづめで翌月は休むという働き方もあるかもしれないし、半年働いて半年休むという人だっているだろう。そして当然だがその休みの期間中に“食うべからず”と言われる筋合いはどこにもない。

 それで思い出したが、普通の人が働いている平日の真っ昼間に飲むビールが実は美味しかったりもする。ややもすれば“背徳の味”とも呼べそうで、いわゆる“昼飲み”が一部で楽しまれている最大の理由もそこにあるのだろう。

 久しぶりに“昼飲み”を楽しんでみたい気もするが、とりあえず目先の仕事を片付けなければならない。近いうちに昼間っから飲むビールを楽しみにしつつ、今はこのサバの塩焼きをじっくり味わうことにしよう。

文/仲田しんじ

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