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カーボンニュートラルの取り組みとして注目を集める「未利用熱」の可能性

2022.11.01

■連載/阿部純子のトレンド探検隊

利用されないまま廃熱として放出されてしまう未利用熱を有効活用する取り組み

今年6月に、国連広報センターは国連とSDG メディア・コンパクト加盟社有志による、日本発の世界で初めてとなる共同キャンペーン「1.5℃の約束」を発表。深刻化する気候変動や気温上昇を止めるために、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5℃に抑えることを目標に掲げ、産業革命前と比べて1.1℃上昇している現在、目標を達成するためには 2050年頃までにCO2の排出量を実質ゼロに、また温室効果ガスも大幅に削減する必要があるとされている。

日本でも「2050年に温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすることを目指す」と政府が宣言し、目標の達成に向けて法整備などの動きも活発化しており、企業や経済活動でもカーボンニュートラルを目指す動きが広がっている。

カーボンニュートラルの取り組みのひとつとして注目されているのが、未利用熱の活用だ。

明るくしたり、動かしたり、温めたりする力であるエネルギーは、熱エネルギーや光エネルギー、電気エネルギー、運動エネルギーなどに変換されて、人々の日常生活を支えている。

私たちが使うエネルギーは、エネルギー資源である石油、天然ガス、太陽光などの1次エネルギーから、使いやすい形に変換された2次エネルギーで、発電、精製、乾留などさまざまな加工を行なうことで変換されている。

未利用熱は有効活用できる可能性があるにも関わらず、捨てられてしまうエネルギーのことで、国内で消費される1次エネルギーの約6割が未利用熱のまま捨てられていると言われている。利用されないまま廃熱として放出されてしまう未利用熱を、2次エネルギーに変換される過程で、有効的に再利用・変換利用することで、産業や運輸など様々な分野においてさらなる省エネ化を目指すことが可能となる。
(※下記画像はNEDO Web Magazine「工場に眠る未利用熱のさらなる有効活用へ 一重効用ダブルリフト吸収冷凍機の実用化」より引用)

このような実情から、NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は利用されることなく環境中に排出されている膨大な量の未利用熱に着目し、「削減(Reduce)・回収(Recycle)・利用(Reuse)」を可能とするための革新的な要素技術の開発と、システムの確立を目指した「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」を2015年度から実施している。

NEDOプロジェクトで、未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合(TherMAT)に参画していた日立ジョンソンコントロールズ空調は「一重効用ダブルリフト吸収冷凍機」を開発。今までは捨てられていた低温度域の廃熱も回収し、従来機比で約2倍の廃熱エネルギーを活用できる仕組みをコンパクトなボディーで実現、2017年に吸収冷凍機「DXSシリーズ」として製品化した。海外の複数の国で採用されるなど、カーボンニュートラル時代を見据えた低温未利用熱の活用手段として期待されている。

より多くの廃熱を回収、利用できるようになった一重効用ダブルリフト吸収冷凍機 「DXS」

吸収式冷凍機の研究開発に携わっている、ジョンソンコントロールズビルディングエフィシエンシージャパン エンジニアリング本部 設計部 主管技師 藤居達郎氏に、カーボンニュートラル時代における吸収式冷凍機の可能性について伺った。

【藤居達郎氏 プロフィール】
1991年日立製作所の研究所に入所後、1994年末に土浦工場に転勤し、吸収式冷凍機の研究開発に携わる。その後、空調機器や家電製品などの開発業務を経て2013年4月から 5年間、NEDOプロジェクトに従事。2018年4月にジョンソンコントロールズビルディングエフィシエンシージャパンに転籍し、現職。

出典:NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)

Q・吸収式冷凍機とはどのような役割を持つ機械でしょうか?

「冷蔵庫、エアコン、ビルなどの大型空調機器、スーパーマーケットのフリーザーなどが身近な冷凍機ですが、吸収冷凍機もその一種です。産業用途で使われ、地域冷暖房と呼ばれるエネルギーセンターや、食品関連などの工場、大型ビル、ショッピングモール、テーマパークなどで使われています。

冷凍機の大半は電気で動く機械で、これに対し吸収冷凍機は熱で動きます。熱は通常、熱いところから冷たいところに移動します。夏場のルームエアコンのように、室内の25℃の空気を吸い込んで35℃の外気に吐き出すことは、逆のことを行っているため、何かしらの力を途中で与えないといけなくなります。その力が電力であることが多いのですが、吸収冷凍機は中から熱を吸い取って熱の力で外に出す仕組みです。

吸収式冷凍機は、フロンガスなどを用いずに主に水を冷媒として冷水を作り出し、それを冷房などに利用する装置です。『蒸発』、『吸収』、『再生』、『凝縮』、再び『蒸発』というサイクルを繰り返して冷水を作ります。

私たちはエネルギーを、熱や光などのさまざまな力に変換して利用しており、エネルギーが変換される過程で利用されないまま廃熱として放出されてしまう未利用熱を回収して、有効的に再利用するのが吸収冷凍機で、再生器の熱源として、温水の形で廃熱が利用できます。通常は電気で冷やしている部分を、吸収冷凍機を使うことで未使用熱に置き換えることができるため、電力式の冷凍機に比べ、消費電力が10分の1程度、大規模な吸収冷凍機だと20分の1、50分の1に抑えられます」(藤居氏)

Q・従来の吸収式冷凍機と「DXS」が異なる点は?

「従来の吸収式冷凍機では、約90℃程度の排熱(入口)を約70 ℃(出口)までにして使うことしかできず、未利用熱の活用にロスが生まれていましたが、DXSは95℃の入口温度を出口温度約55℃まで低減して使えるようになりました。

90℃から70℃で20℃分のエネルギーを使っていたものが、95℃から55℃になると40℃分になり、20℃から40℃に上がるので使えるエネルギーが増え、出てくる冷却の力も比例して増えていきます。従来の約2倍の温度差で熱回収が可能になり、熱量回収に要する温水流量の低減も可能になったことで、従来機に比べ温水搬送動力を約45%削減できます。

吸収式冷凍機を用いてより低温の廃熱を活用する技術については、これまで多くの方が試み、その礎を築いてきましたが、本格的な実用化には至っていませんでした。先人の方々がこれまで作ってきた冷凍機の熱交換器などの技術、要素が進歩して、DXSにもそうした技術を取り込めるようになったのが実用化できた理由です」(藤居氏)

Q・DXSは今後どのような展開をしていくのでしょうか?

「低温の排熱はいろいろなところでまだ眠っていて使われていない状況です。今まで排熱を回収して冷凍するということがコスト的に実現できなかった食品工場や、清掃工場などでもゼロカーボン化を実現していく必要があるため、そうした工場にも注目してもらっています。最近はウッドチップなどのバイオマスエネルギーを使った企業からの引き合いも来ています。

DXSは従来の冷凍機に取って代わるものではないですが、産業排熱の利用可能温度を低温域まで拡大することで、いろいろな温度帯の排熱が使えるようになり、今まで廃棄されていた未使用排熱を減らし有効活用できるようになります。

熱を使って冷凍することで、電動式の冷凍機の負担を減らし省電力になります。火力発電が主流の日本では、そうした取り組みがカーボンニュートラルにつながっていきます。

吸収冷凍機は一般にはなじみがないですが、商業ビルやショッピングモール、テーマパークなどで使われており、実はみなさんの身近にあり恩恵を受けているということを、ぜひ知っていただければと思います」(藤居氏)

【AJの読み】企業、社会が環境問題に真剣に取り組む時代が来て「DXS」が再評価

「DXS シリーズ」が誕生したのは2017年で、その年の「コージェネ大賞2017特別賞」を受賞した。DXSが実用化された2017年は、今ほど環境対策に重点が置かれていなかったこともあり、爆発的な販売数とまではいかなかったが、年月を経て環境対策が企業の最重要項のひとつになり、海外での導入事例が出てきたこともあって、じわじわと注目されるようになってきたという。

経済産業省 資源エネルギー庁によると、「コージェネレーション(熱電併給)」とは、天然ガス、石油、LPガス等を燃料として、エンジン、タービン、燃料電池などの方式により発電し、その際に生じる廃熱も同時に回収するシステム。回収した廃熱は、蒸気や温水として、工場の熱源、冷暖房・給湯などに利用でき、熱と電気を無駄なく利用できれば、燃料が本来持っているエネルギーの約75~80%と、高い総合エネルギー効率が実現可能となる。

熱を有効利用することができるコージェネレーションの導入は、企業としても省エネやCO2の削減、経済的にも大きな効果が期待されている。欧州では温水などの熱エネルギーの共有ネットワークや、コージェネレーションが発達しており、日本でもカーボンニュートラルの取り組みのひとつとして、未利用熱の需要が今後拡大すると予測され、DXSの活躍の場がますます広がっていくと思われる。

文/阿部純子

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