小学館IDをお持ちの方はこちらから
ログイン
初めてご利用の方
小学館IDにご登録いただくと限定イベントへの参加や読者プレゼントにお申し込み頂くことができます。また、定期にメールマガジンでお気に入りジャンルの最新情報をお届け致します。
新規登録
人気のタグ
おすすめのサイト
企業ニュース

耳障りな音を出し続ける「音ハラ」が違法行為と見なされるラインは?

2022.10.28

さまざまな形のハラスメントが問題視されている昨今、耳障りな音を鳴らし続けることが一部で「音ハラ」と呼ばれているようです。

近隣トラブルとしてよくある騒音問題というよりは、会社で隣の席の人がうるさいといったケースなどが主に想定されています。

何でもかんでも「ハラスメント」と称して非難するのは……と思いますが、「音ハラ」は非難すべきハラスメントに当たるのでしょうか? 法律上問題のある行為なのでしょうか?

今回は「音ハラ」の問題点につき、法的な観点からまとめました。

1. 「音ハラ」と呼ばれる行為の例

「音ハラ」とは、耳障りな音を出し続ける行為全般を意味するようです。

音ハラは、職場で席が近い人同士の間で問題になることがあります。たとえば、以下のような行為が音ハラとされることが多いようです。

・頻繁に咳や舌打ちをする
・目立つ音を出しながら鼻をすする、呼吸をする
・クチャクチャと音を出しながら食べる
・貧乏ゆすりをする
・独り言を言う
・大きな音を出しながらキーボードを打つ
など

2. 「音ハラ」が違法となる場合の例

音ハラが違法になるとすれば、騒音により被害者が健康被害を受けた場合や、精神的ダメージを受けた場合などです。これらの場合、被害者は行為者に対して、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償を請求できる可能性があります。

ただし、仕事をしている、あるいは生活をしている中では、一定の騒音が発生してしまうことはやむを得ません。

また、騒音を不快に感じたとしても、その場を立ち去ることができるのであれば、早めに立ち去って自衛に努めるべきといえるでしょう。

そのため、音ハラが不法行為(=違法)とまで言えるケースは稀と考えられます。ただし、以下のいずれかに該当する場合には、音ハラについて不法行為が成立する可能性があります。

2-1. つきまとい行為を伴う場合

音ハラの行為者が、被害者に精神的ダメージを与えることを意図している場合には、不法行為が成立する可能性が高いです。

たとえば、被害者が行為者から離れようとしているのに、執拗につきまとって不快な音を出し続けた場合は、不法行為に基づく損害賠償が認められると考えられます。

(ただしこのようなケースでは、不快な音を出したことよりも、つきまとい行為そのものの方が悪質であるため、「音ハラ」と言うべきかどうか……)

2-2. 被害者が移動できない場合|受忍限度が問題になる

被害者が立ち去ることのできない状態で、近隣で不快な音を出し続けた場合は、不法行為が成立する可能性があります。

たとえば、席が固定されている会社で隣の人がうるさい場合や、住んでいる家の隣人がうるさい場合などです。

ただし前述のとおり、仕事や生活をする中で、一定の騒音が生じることは避けられません。そのため、「我慢すべき範囲内の騒音かどうか」(=受忍限度)という観点から、騒音(音ハラ)の違法性が判断されることになります。

3. 騒音被害に関する「受忍限度」の問題

騒音被害が問題となった裁判例では、「受忍限度を超えているかどうか」という観点から、不法行為の成否が判断されています。

最近問題となっている音ハラとの関係でも参考になるため、受忍限度論の概要と裁判例を紹介します。

3-1. 「受忍限度」はどのように決まるのか

「受忍限度」とは、被害者が我慢すべき被害のボーダーラインのことです。騒音に関するトラブルでは、被害者の受忍限度をどのラインに設定するかが問題となります。

受忍限度は、たとえば「○dBを超えたら違法」というように、客観的な数値によって一律に決められるものではありません。あくまでもさまざまな事情を総合的に考慮して、被害者が我慢すべきボーダーラインが個別に決定されます。

騒音の受忍限度を定めるに当たって、考慮される主な事情は以下のとおりです。音ハラの違法性が問題となる場合、以下の事情などが考慮されることになるでしょう。

・騒音の音量
・騒音の発生源と被害者の間の距離
・騒音の時間帯、時間の長さ
・行為者が騒音を防止するために講じた措置
・実際に被害者が受けた健康被害の内容
など

3-2. 騒音の違法性が問題となった裁判例

神戸地裁平成29年2月9日判決の事案では、保育園の園児が遊ぶ声がうるさいとして、近隣住民(原告)が慰謝料の支払いと騒音の差止めを求めました。

神戸地裁は以下の理由を挙げ、園児の遊ぶ声は受忍限度を超えていないと判示し、原告の請求を棄却しました。

・昼間の時間区分(午前6時~午後10時)の敷地境界線における等価騒音レベルは、基準値を上回っていない
・敷地境界線から原告の自宅までは一定の距離があり、保育園の騒音は原告の自宅にとどくまでに17~18dB減衰している
・騒音が発生している時間帯は、1日のうち約3時間にとどまる
・保育園の設置に先立ち、被告は近隣住民に対する説明会を1年ほどかけて行い、近隣住民からの要望等に応じて、防音壁の設置や近隣住民宅の窓の二重サッシ化などを被告の費用負担で行っている

取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
https://abeyura.com/
https://twitter.com/abeyuralaw

@DIMEのSNSアカウントをフォローしよう!

DIME最新号

最新号
2024年11月15日(金) 発売

DIME最新号は「2024年ヒットの新法則!」、永尾柚乃、小田凱人、こっちのけんと他豪華インタビュー満載!

人気のタグ

おすすめのサイト

ページトップへ

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号 第6091713号)です。詳しくは[ABJマーク]または[電子出版制作・流通協議会]で検索してください。