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なぜ、日本人は歯周病予防のために歯科医院に通うという意識が低いのか?

2022.10.31

歯周病は日本人の歯を失う原因の第1位で、35歳以上の8割以上が罹患しているといわれている国民病の一つだ。今年6月には政府の骨太方針で「国民皆歯科健診」が打ち出され、歯周病についてますます注目が集まっている。

歯周病治療の聖地ともいわれるスウェーデンへの留学の経験持ち、歯周病のスペシャリストであり、DUOデンタルクリニック院長の大月基弘医師に、新たな治療法と共にスウェーデンと日本の歯科検診や受診実態の違いを聞いた。

歯周病予防と治療の重要性

先日、科研製薬のセミナーで歯周病のスペシャリストであるDUOデンタルクリニック院長の大月基弘氏が歯周病の予防や治療について講演を行った。

【取材協力】

大月基弘氏
DUOデンタルクリニック 院長
ヨーロッパ歯周病学会 (European Federation of Periodontology) 認定歯周病/インプラント専門医、日本歯周病学会専門医、日本臨床歯周病学会認定医、歯周インプラント認定医、日本臨床歯周病学会、日本歯周病学会、日本口腔インプラント学会に所属し、ITIメンバーであり、歯周病治療の聖地ともいわれるスウェーデンへの留学経験もある、歯周病のスペシャリスト

大月氏は、冒頭で「国民皆歯科健診」について触れた。国民皆歯科健診とは今年6月に閣議決定した経済財政運営の指針「骨太の方針」に盛り込まれ、国民が年代問わず歯科健診を受けられる制度の実現を目指す方針のこと。全世代での歯科健診を生涯に渡って制度化することで、お口の健康を守ることを目的としている。

その背景として、日本人の歯科受診率が著しく低いといわれていることがある。その原因は、いわゆる保険制度が充実しており、治療費が諸外国先進国と比べて極端に安いことで身近になりすぎてしまい、「痛くなったら行けばいい」「歯の調子は特に悪くないので定期健診には行く必要がない」という感覚になってしまっているからではないかと大月氏は話す。

歯茎だけが腫れている状態の「歯肉炎」は比較的軽度な炎症だが、「歯肉炎」が悪化し歯を支える骨にまで腫れが広がってしまうと「歯周炎」となり、元に戻すのは難しくなる。重度になると歯が抜け、取り返しがつかない状態になる。身体の病気を引き起こす可能性があり、とくに重度の歯周病は糖尿病のリスクが悪化するという研究結果も出ているそうだ。

歯が抜けるほど重度の「歯周炎」は6番目に世界中に蔓延している病気であり、有病率は10人に1人の割合、7億4,300万人が罹患しているという統計(Tonetti 2017)もあるという。

歯周病予防の基本は「プラークコントロール」

講演中の大月医師

では歯周病はどう予防すればいいか。歯周病の原因は「歯垢(プラーク)」であると大月氏。プラークがなければ基本的には歯周病にならない。つまり歯周病予防の一番の基本はプラークコントロールである。

しかし、普通の歯ブラシだけで取れるプラークは大体60%程度といわれる。「歯科医がどんなに頑張っても、患者自身がしっかり歯ブラシで磨かないと絶対に治らないため、毎日のセルフケアが重要」と大月氏。

●歯周病予防のセルフケア

・歯ブラシによる歯みがき習慣 2~3回/日
・歯間部の清掃(歯間ブラシ、フロス等使用)
・マウスリンスの使用

「日々の歯ブラシによる歯みがきは最低2回、できれば朝と夜寝る前に行いましょう。また、セルフケアでは取り切れないプラークを歯科医院で定期的に除去することも必要です。仕事が忙しく歯科医院に行く時間がないという方もいますが、歯は待ってくれないので、なんとか時間をつくってぜひ、歯医者に行っていただきたい。理想の頻度は3~4か月に1回が目安です」

●歯科医院で行う治療とは?

ここで、歯科医院でどんな治療が受けられるのかを一通り確認しておこう。

重症度によって変わってくる。まず歯科衛生士が行う口腔衛生指導のほか、基本的に歯の周囲及び歯茎の下、歯周ポケット内の歯石とプラーク除去を行う。

この基本治療で取りきれなかったプラークや歯石をしっかり取り除くために、歯周外科治療が歯科医師のもとで行われることもある。歯肉を切開し、深いところに残っている歯石や感染している組織を取り除く。近年はさらに進化しており、プラークや歯石を取り除いた後、欠損部に歯周組織再生剤を塗ることで、歯周組織が再生されるのを促す治療も行われるようになった。

大月氏によると、上手な歯周病専門医に手術を行ってもらうと、「痛くなく、治りやすく、歯が以前よりも良い状況になる」という。実際、歯を抜かなければならない重度の歯でも治せる可能性があるという。この「歯周組織再生療法」は、今後も期待がされている。

日本で予防歯科が当たり前になるには? スウェーデンとの違い

歯周病治療は確かに進んではいるものの、歯周病予防と治療の基本はセルフケアと通院だ。日頃から気をつけて重症化を防ぎたい。しかし先述の通り、歯科医院に予防のために通うという意識は低いのが日本の現状だ。

そこで大月氏に予防歯科の意識の高いスウェーデンとの違いについてインタビューを行った。

――スウェーデンでは、30~40代の働き盛りはどのように歯周病予防に取り組んでいますか?

「基本的にオーラルケアに対する意識は高い方が多いです。小さい頃から、大人になっても歯科健診にかかることが当たり前となっており、多くの方が歯科を定期的に受診しています。また、仕事を休んで歯科を受診するということが社会的に認められているので、受診しやすい環境も整っているといえるでしょう。社会保障もそれをサポートしています。歯磨きの頻度は一日2回が通常ですが、歯間部清掃をしっかりと行っている方が多いといえます。

また通常、住んでいる地域にかかりつけ医を持っているため、多くの方に予防意識は根付いています。歯が悪くなると、歯の治療費は日本よりもかなり高額となるため、治療を受けるよりも普段から予防して、無駄な出費を抑えようという考えも多くの方が持っています。予防先進国に共通する点として、歯科治療費が高額であるということが、人々の予防行動につながっている側面も認められます」

――日本ではスウェーデンほど予防歯科の意識は高くないと思われます。日本で予防歯科に通うことが当たり前になるには何が必要でしょうか。

「社会制度やシステムの構築が大切だと考えます。『国民皆歯科健診』の具体案は提示されていませんが、早い制度の実現を望みます。痛くなったら歯科医院に行く方が多くいますが、歯や歯茎は痛みが出る頃には重症になっていることが多いです。疾病の早期発見、早期治療を行うことができれば、さらに多くの歯を健康に救うことができると考えます」

――日本のビジネスパーソンに向けて、歯周病予防のテクニックや予防歯科通院についてアドバイスください。

「歯周病予防には正しい口腔衛生の知識が必要です。セルフケアと呼ばれる、ご自身による正しいブラッシング、歯間ブラシやフロスによる歯間部の清掃ならびに洗口液の適切な使用などが挙げられます。毎日の歯磨きは、皆様にとっては当たり前のことになっているでしょうが、正しくできている方は少ないものです。“毎日磨いている”から“毎日磨けている”へ成長することが大切です。そのために、歯周病予防に力を入れている歯科医院で、正しいオーラルケアの知識と技術をぜひ学んでいただきたいと思います」

「国民皆歯科健診」が検討されるほど、日本の予防歯科意識はいま、底上げが期待されている。忙しい合間を縫って、いかに予防歯科を意識できるかは今後の課題であると共に、一人一人のビジネスパーソンにとって歯の健康レベルが上がる見込みもありそうだ。ぜひ検討しよう。

取材・文/石原亜香利

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