映画には、暴力や性描写の有無などを基準とした年齢制限マークが付されているケースが多いです。また、風営法(風適法)に基づいて営業している性風俗店の広告物には、18歳未満の者の立ち入りを禁止するマークが貼られていることがあります。
これらの年齢制限マークには、利用者や客に対して何らかの効力があるのでしょうか? 年齢制限マークを無視して店舗やサービスを利用した場合、ペナルティを受けてしまうのでしょうか?
今回は、映画や風俗営業店の年齢制限マークについて、位置づけや法的効力、無視した場合の取扱いなどをまとめました。
1. 映画倫理機構(映倫)の年齢制限マーク
映画界では、自主規制機関である「映画倫理機構(映倫)」が、毎年たくさんの映画について倫理面からの審査を行っています。
映画倫理機構は、特に青少年に対して与える影響を重点的に審査したうえで、主題・題材や表現の仕方に応じて、映画を4段階に区分しています。区分の指定を受けた映画については、広告物やDVD・BDのパッケージなどに、区分を示すマークが付されています。
①G(General Audience)
年齢にかかわらず、誰でも観覧できます。
小学生以下の年少者が観覧しても、動揺やショックを受けることがないように抑制的な表現がなされています。性・暴力・麻薬・犯罪などの描写が多少含まれるとしても、ストーリー展開上必要な描写に限られています。
②PG12(Parental Guidance)
12歳未満の年少者が観覧する際には、親または保護者の助言・指導が必要とされます。
刺激的な内容が一部含まれているため、一般的に幼児・小学校低学年の観覧には不向きです。小学校高学年でも、成長過程・知識・成熟度には個人差があるため、親や保護者の助言・指導が期待されます。
③R15+(Restricted)
15歳未満の観覧が禁止されます。
主題や題材の描写の刺激が強く、15歳未満の年少者には、理解力や判断力の面で不向きな内容が含まれています。
④R18+(Restricted)
18歳未満の観覧が禁止されます。
主題または題材とその取扱いにつき、極めて刺激が強い内容が含まれています。
参考:映画4区分の概要|映画倫理委員会
過去に審査対象となった映画の区分は、映画倫理機構のウェブサイトから検索できます。
参考:一般財団法人映画倫理機構HP
2. 風営法(風適法)に基づく18歳未満立ち入り禁止マーク
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法・風適法)では、青少年への悪影響を防ぐ目的で、いわゆる性風俗店の営業について厳格な規制を設けています。
店舗型性風俗特殊営業※を営む者が広告・宣伝をするときは、原則として、18歳未満の者が営業所に立ち入ってはならない旨を公衆に見やすいように表示するか、または公衆のわかりやすいように音声で告げなければなりません(同法28条9項、同法施行規則47条1項)。
※店舗型性風俗特殊営業に当たるもの
・ソープランド
・店舗型ヘルス
・ストリップ劇場
・個室ビデオ店
・ラブホテル
・アダルトビデオショップ、アダルトグッズショップ
・出会い系喫茶
など
ただし、営業所周辺に表示する広告物のうち、営業所の名称または営業の種別のみを表示するものについては、例外的に国家公安委員会告示により定めるマークを表示すれば良いとされています(同法施行規則47条2項)。
3. 年齢制限マークを無視してサービス・性風俗店を利用したらどうなる?
映画倫理機構の区分表示(年齢制限マーク)や、風営法に基づく18歳未満立ち入り禁止マークが表示されているのは、事業者側が自主規制や法令の規制を遵守するためです。
映画倫理機構の年齢制限マークは、映画界全体として青少年を守るための自主規制として機能しています。適切に自主規制を機能させることは、映画表現に対する法規制の厳格化を防ぎ、表現の自由を守る観点から非常に重要です。
また、店舗型性風俗特殊営業において18歳未満立ち入り禁止の表示を行うことは、風営法に基づく義務です。当然ながら、18歳未満の者を客として立ち入らせることも禁止されています(同法28条12項4号)。
これらの規制を遵守しない店舗は、公安委員会による営業停止処分などの対象となるため(同法30条)、厳格に規制を遵守することが求められます。
一方、これらの年齢制限マークは、それ自体が利用者(客)に対する法的効力を持つわけではありません。
したがって、対象年齢に満たない方が、マークを無視して映画を鑑賞したり、性風俗店を利用したりしても、直ちに罪に問われることはありません。
ただし理論的には、店舗側に対して年齢を偽って入店する行為は、建造物侵入罪(刑法130条前段)に該当し得る点に注意が必要です。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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