長崎、佐賀、福岡、熊本の4県に接する有明海は、最奥部まで約100㎞の細長い形状の内海が広がっている。ここには多くの河川が流れ込み、約6mという日本一の干満差があることから、複数の広大な干潟を見ることができる。
3か所のラムサール条約湿地とその特徴
日本の干潟の90%以上は千葉県以南の本州太平洋側や四国、九州に分布している。中でも有明海は全体の約40%を占め、肥前鹿島干潟(佐賀県鹿島市)、東よか干潟(佐賀県佐賀市)、荒尾干潟(熊本県荒尾市)は、「とくに水鳥の生息地として国際的に重要な湿地」(ラムサール条約湿地)に登録されている。
これらは谷津干潟(千葉県習志野市)や藤前干潟(愛知県名古屋市)、与那覇湾(沖縄県宮古島市)などと共に、開発により消失しつつある日本の干潟の中で、とても貴重な存在だ。高度成長期から日本の沿岸部は埋立事業が進み、1945年から1998年までの50年あまりで、日本の干潟面積は約40%も減少した経緯があるからだ。
同じ海の干潟でも異なる性質
ところで、干潟というとみなさんはどのようなものを想像されるだろうか? 簡単に言うと、干潮時に干上がり、満潮時には海面下に沈む浅場の海岸や河口部を指す。そして一般的な分類では、
・河川などから運ばれた砂泥が堆積し、目の前の海(前浜)にできる前浜干潟
・河口部の潮の満ち引きの影響を受け感潮部にできる河口干潟
・河口部や海岸近くの浅海が砂州などにより外海から隔てられた閉鎖度の高い潟湖干潟
に分類される。
有明海の3つの干潟はいずれも前浜干潟になり、肥前鹿島と東よかは複数の河川から流入する粒子の細かな泥が深く堆積する泥干潟。一方の荒尾は、潮流により土砂や貝殻が運ばれ堆積する砂質干潟に分けられる。
泥と砂の違いは大きい
泥と砂の違いは生態系にも影響を与え、飛来する水鳥や生息する魚介類なども微妙に異なる。以下、その特徴をご紹介すると、
東よか干潟
面積は218ha。渡り鳥のシギ、チドリ類の渡来数日本一を誇り、ムツゴロウやワラスボなど、泥干潟を代表的な底生生物が生息する。
干潟を臨む東与賀海岸には観察用の双眼鏡が設置されているほか、隣接する東よかビジターセンター「ひがさす」では、干潟に生息する生き物たちの詳細な情報を得ることができる。
肥前鹿島干潟
鹿島川と塩田川の河口に面する干潟で面積は57ha。こちらも渡り鳥のシギ・チドリ類の重要な中継地・越冬地であり、泥干潟ならではのムツゴロウ、ワラスボなどが生息する。
干潟の詳しい情報は、少し離れた場所にある鹿島市干潟交流館なな海(道の駅鹿島内)で知ることができる。
【参考】鹿島市干潟交流館なな海
佐賀の泥干潟を全国に知らしめているガタリンピックは、この交流館周辺で開催されている。*2022年は新型コロナの影響で中止しています。
荒尾干潟
3つの干潟の中では最も広く、面積は1656ha。そのうち、754haがラムサール条約登録湿地になっている。水鳥は他と同様、シギ、チドリ類を見ることができるほか、春から初秋は海水を飲みにアオバトがやってくることでも知られている。
こちらは古くから海苔養殖やアサリ漁が営まれてきた歴史があり、ゴカイ類、貝類、小型の甲殻類も多い。夏のマジャク(アナジャコ)釣りも人気。詳しい情報は、隣接する荒尾干潟水鳥・湿地センターで得ることができる。
【参考】荒尾干潟水鳥・湿地センター
干潟で見られる珍しい光景
荒尾干潟のアサリやマジャク漁はちょっと変わっていて、干潮時に自転車やオートバイで沖に出て行く姿をあちこちで見かける。
またテーラーと呼ばれる耕運機に荷台を付けた乗り物で沖に出て行くこともあり、春から秋にかけてなら、荒尾干潟水鳥・湿地センターで乗車体験も可能だ。
干潟を次の世代に残していくことは、SDGsの重要な活動のひとつです。青さだけでない海の魅力として、多くの人に干潟の魅力を知ってもらいたいものですね。
取材・文/西内義雄