■連載/石野純也のガチレビュー
折りたたみ可能なフォルダブルスマートフォンの代名詞とも言えるサムスンのGalaxy Z Foldシリーズに、新モデルが登場した。それが、「Galaxy Z Fold4」だ。おサイフケータイや防水・防じん、Sペンに対応した前モデルの「Galaxy Z Fold3 5G」で好評だった機能は受け継ぎつつ、使い勝手が向上。ヒンジ(蝶つがい)の構造を見直して小型化するとともに、ディスプレイの比率を正方形に近づけ、コンテンツがより大画面で楽しみやすくなった。
この仕様の変更に伴い、閉じた時のカバーディスプレイも横の比率が上がり、一般的なスマホの形状に近づいた。また、Foldシリーズの“弱点”とも言われていたカメラ性能が大きく進化。センサーや画像処理エンジン、レンズの構成が2022年に発売されたフラッグシップモデルの「Galaxy S22」と同じ仕様になった。フォルダブルだからと言って、カメラが他モデルより劣らなくなったというわけだ。
一方で、フォルダブルという機構そのものインパクトが強すぎるためもあってか、ぱっと見ではGalaxy Z Fold3 5Gからあまり進化していないようにも見える。使い勝手が向上したかどうかは、実際手に取って使い込んでみないとわかりづらいだけに、うたい文句だけでは伝わりづらいところがある。そこで、筆者はGalaxy Z Fold4を実際に購入。約3週間、じっくり使い倒した。ここでは、そのレビューをお届けしよう。
2022年9月29日に発売されたGalaxy Z Fold4。写真はドコモ版
アスペクト比の変化がもたらす操作性の違い
Galaxy Z Fold4を使ってみて、すぐに気づくのがディスプレイ比率の変化による使い勝手の違いだ。正方形に近づいたと言っても、あくまで開いた時に縦長であることに変わりはなく、この点では差分が少ない。縦のままでも、「ちょっと見やすくなったかな?」と思う程度。じっくり使い比べてみないと、新しい画面比率の恩恵はわかりづらいかもしれない。
一方で、閉じた時に利用するカバーディスプレイは、明らかに操作がしやすくなっている。Galaxy Z Fold3 5Gまでのカバーディスプレイは、縦長すぎたからだ。これに対し、Galaxy Z Fold4の比率は一般的なスマホに近い。横幅が広がったことで、アプリに表示される文字などのレイアウトが変に崩れてしまうことも減った。それ以上にわかりやすいのが、キーボードの操作性だ。
ディスプレイの横幅がやや拡大し、より一般的なスマホのアスペクト比に近づいた
ヒンジ部がコンパクトになり、そのぶんがディスプレイの表示領域になっていることがわかる
横のピクセル数は832ドットから904ドットへと拡大。横幅が広がり、キー1つ1つのサイズがわずかながら大きくなっている。数字にするとわずか72ドットぶんと、とても小さな違いのようにも思えてしまうが、体感での違いは大きい。そのため、筆者はGalaxy Z Fold3 5Gで断念してしまったQWERTYキーボードでもギリギリ文字を打てる。普通のスマホとして使いやすくなったのは、表面的なスペックを見ているだけではわかりづらい進化点と言えるだろう。
横幅が広がったおかげで、QWERTYキーのような細かなキーを間違えずにタップしやすくなった
カバーディスプレイは、あくまでサブディスプレイという位置づけだが、サイズは6.2インチと大きい。2世代目の「Galaxy Z Fold2 5G」から、ディスプレイが本体いっぱいに広がる仕様になったため、閉じたまま利用することも可能だ。スマホ向けに作られた縦長のコンテンツは、むしろメインディスプレイより見やすいことが多い。例えば、スマホ用のWebサイトはその1つ。縦読みマンガも、カバーディスプレイ向きのコンテンツだ。
スマホ用に最適化されたコンテンツを表示する際には、カバーディスプレイが見やすい
逆にPC用のサイトは、メインディスプレイで表示した方が一覧性が増して見やすい。アプリによっては、広いディスプレイを生かしたレイアウトを採用していることも。画面の端にツールバーが表示されたり、左右に分割されて階層を行ったり来たりする必要がなくなったりと、操作の効率化につながる。ただし、Gmailのように、標準アプリの中にも一部、本体を横向きにしなければ画面が分割されないアプリが存在する。電子書籍アプリも、縦のままだと見開きにならない。ソフトウエアについては、まだ改善の余地がある。
PCブラウザ用にレイアウトされたサイトを見る時は、メインディスプレイが便利。一覧性が向上する
初のAndroid 12L搭載、その使い勝手は?
OSに、フォルダブルスマホやタブレットへの最適化を行ったAndroid 12Lが採用されているのも、Galaxy Z Fold4の見どころだ。Android 12Lならではの機能として挙げられるのが、画面下に表示されるタスクバー。アプリ起動時に常時表示されるため、アプリをワンタップで簡単に切り替えられて便利だ。また、ここからアプリのアイコンをドラッグしていくと、画面分割が可能。中央部分にドロップすると、ウィンドウとして表示される。表示領域を増やしたい時には、画面下部を長押しすれば、タスクバーを消すことも可能だ。
このタスクバーに配置されるアプリは、画面最下段のドックと共有される。ここには、閉じた時に最大5つ、開いた時に最大8つまでアイコンを置ける。ドックからタスクバーになるとアイコンが縮小され、さらに最近使ったアプリが2つ表示される仕様だ。これによって、使ったばかりのアプリを再度呼び出しやすくなった。
タスクバーからアプリをドラッグ&ドロップすると、画面を分割して表示できる。ウィンドウとしてアプリを起動することも可能だ
一方で、2つ目に呼び出したいアプリが、常にドックやタスクバーの中にあるとは限らない。例えば筆者の場合、カレンダーはホーム画面にアイコンを置いているが、ドックには入っていない。そのため、メールを見ながらカレンダーに入力したい時には、ドックからワンタップで呼び出すことができない。アプリ一覧を表示することは可能だが、そこから目的のアプリを探し出すのは少々手間がかかる。
タスクバーの設定メニューはまだまだ少ない。Android 12Lで始まったばかりの機能だが、拡充に期待したい
タスクバーの履歴をもう少し増やせたり、起動中のアプリに基づいたリコメンドがあったりすると、この部分の使い勝手は上がる可能性がある。現状では、単にドックに並べたアプリと2つまでの履歴しか表示されないため、できることが限定されている印象を受けた。Galaxy Z Fold3 5Gまで対応していたサイドから引き出すランチャーの「エッジパネル」もそのまま残っているため、タスクバーだけに頼らず、こちらを併用した方がいいだろう。フォルダブルに完全対応したOSとしては初モノなだけに、今後の改善に期待したいところだ。
OSとは直接的に関係ないが、ディスプレイを半開きの状態にしたまま使用する「フレックスモード」に対応したアプリが増えているのはうれしいアップデートと言える。Netflixアプリは、その1つだ。この状態にすると、画面上部にだけ映像が表示されるため、机やテーブルの上に置いたまま視聴できる。YouTubeやカメラアプリもこのモードに対応する。非対応のアプリも、ラボ機能でフレックスモードに切り替えることが可能。表示領域は狭くなってしまうが、スタンドなどの必要なく、立てかけられるのは便利だ。
Netflixがフレックスモードに対応した。非対応アプリでも、半強制的にフレックスモードを使用することが可能。その際は、画面下半分に操作パネルが表示される
カメラの画質が向上、処理能力も高い
撮影機能はどうだろうか。メインカメラは画素数が5000万画素にアップし、ピクセルビニングによって画素サイズを上げられるようになった。結果として、暗所での撮影性能が向上している。Galaxyらしい派手な仕上がりは好みが分かれるところだが、人肌の描写は自然で解像感も高い。また、望遠カメラの倍率が2倍から3倍に上がり、使い勝手が増している。2倍ズームは切り出しになるが、元々が5000万画素と高画素なため、画質の劣化が少なく実用的だ。
Galaxy Z Fold4で撮影した写真。人肌は自然だが、料理などの彩度が高めだ
撮影後に、AIで影の映り込みや反射を消す「オブジェクト消去」も健在。標準のギャラリーとGoogleフォトの両方がプリインストールされているため、どちらをメインで使っていくかは少々悩ましい一面はあるが、用途に合わせて選択するといいだろう。撮って、見て、編集してという一連の流れは、7.6インチの大画面と相性がすこぶるいい。処理能力も高いため、Lightroomのようなサードパーティアプリもスムーズに動く。
チップセットには、クアルコムの「Snapdragon 8 Gen 1」が採用されている。上記のとおり、比較的重めのアプリもスムーズに動き、レスポンスに不満を感じることは少ない。最大120Hzまでリフレッシュレートが上がるディスプレイも、その快適さに貢献していると言えるだろう。ちなみに、ベンチマークアプリの『Geekbench 5』で計測したスコアは以下のとおり。ハイエンドモデルとしては一般的な数値だが、パフォーマンスはトップクラスに位置している。
チップセットは、Snapdragon 8 Gen 1。他のハイエンドモデルと比べてもそん色ない性能だ
通信機能には、大きな進化があった。eSIMやデュアルSIMへの対応がそれだ。Galaxyシリーズはそのほとんどがキャリアモデルで、これまでデュアルSIMに対応したモデルは非常に少なかった。Galaxy Z Fold4は、物理SIMとeSIMのデュアルSIM仕様で、1回線目が物理SIM、2回線目がeSIMになる。iPhone 13シリーズ以降のモデルが対応するデュアルeSIMとは異なり、それぞれ有効にできるのは1回線まで。物理SIMと物理SIMやeSIMとeSIMといった形でのデュアルSIMには対応していない。
eSIMに対応し、物理SIMと合わせてデュアルSIMとして利用できる
とは言え、2つの回線を同時に利用できるようになったのは、大きな進化だ。筆者もGalaxy Z Fold4を購入したドコモの回線とは別に、ソフトバンクの回線を入れ、電波状況に応じて2枚のSIMカードを使い分けている。どちらでデータ通信するかは、クイック設定パネルの上にあるボタンで簡単に切り替え可能。対応周波数も増え、ソフトバンク回線でも問題なく5Gが利用できており、通信環境は大きく改善した。通信料が安価なプランも増え、以前より予備回線を持ちやすくなった。こうした環境を生かさない手はないだろう。
設定画面を開くことなく、データ通信に使うSIMを変更できるのは便利だ
パッと見では先代からのマイナーチェンジに見えるGalaxy Z Fold4だが、アスペクト比の変化や新しいOS、デュアルSIMなどは、使えば使うほど、そのよさがわかる。新機能として打ち出すにはやや地味なことは否めないが、スマホは毎日肌身離さず持ち歩くだけに、完成度は重要な要素だ。
フォルダブルスマホとしての原型はGalaxy Z Fold3 5Gである程度完成していたが、その完成度に磨きをかけたのがGalaxy Z Fold4と言えるだろう。その意味で、より幅広いユーザーにお勧めしやすくなった。ハイエンドモデルの価格が全般的に上がり、相対的にではあるがお得感も感じるようになった。今がまさに買い時と言えるだろう。
【石野’s ジャッジメント】
質感 ★★★★★
持ちやすさ ★★★★
ディスプレイ性能 ★★★★★
UI ★★★★
撮影性能 ★★★★
音楽性能 ★★★★★
連携&ネットワーク ★★★★★
生体認証 ★★★★★
決済機能 ★★★★★
バッテリーもち ★★★★
*採点は各項目5点満点で判定
取材・文/石野純也
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。