2020年4月に発足した一般社団法人LIVING TECH協会。「人々の暮らしを、テクノロジーで豊かにする。」の実現を目指して住宅関連事業者やメーカー、流通・小売りに携わる企業が集い、まずは、ユーザーに心地良いスマートホームを段階的に進めていこうとしています。
10月29日にはカンファレンス「LIVING TECH Conference 2020」を開催。全13セッションの中から、セッション6を3回にわたって紹介します。
登壇者は、左より林篤志さん(Next Commons Labファウンダー)、藤井保文さん(株式会社ビービット)、少路政彦さん(パナソニック株式会社 ブランド戦略本部)、青山周平さん(B.L.U.E.建築設計事務所 代表、中国よりオンライン参加)
※Session 6後編※ 海外のデジタル先進国・中国から学ぶ建築の観点とアフターデジタルの捉え方
【前編】アフターコロナへと移行した中国、その背景は?
【中編】変わろうとしている日本の街づくり。OMO時代に日本の勝ち筋はどこにあるのか?
巨額の富が中国社会を変えつつある
林(モデレーター):日本的なポスト資本主義と中国がこれから向かっていくその社会のあり方、経済のあり方など、青山さんからご説明いただきたいと思います。
青山:日本のポスト資本主義は、資本主義が行き詰まった後に生まれつつあるポスト資本主義だと思います。それは伝統的な経済モデルを基礎とした資本主義、例えば製造業であったり、伝統的なサービス業だったりとか、そういう伝統的な経済モデルが行き詰まった末に生まれつつあるポスト資本主義の話だと思うのです。
逆に中国で生まれつつあるのは、デジタル資本主義を加速してドライブした末のポスト資本主義ということになりつつある。どういうことかというと、今、中国では圧倒的な富を手にした企業や個人が生まれつつあって、それはエジプトの王権が造ったピラミッドが今も残っていたりとか、ヨーロッパの中世メディチ家がフィレンツェを作って今もその文化が残っていたりとか、それに近いと感じています。
各時代において、富が集中する場所と個人というのがやはりあると思います。それが今の中国においてはデジタルということと、大規模な人口というのが重なり合って、圧倒的な富がアリババやテンセントなどに集まります。例えばそのライブコマースで何億円売り上げるような個人やKOL(※1)、アントフィナンシャル(※2)の幹部が巨額の富を手にするといったこと。
※1 KOL:Key Opinion Leaderの略。知識が豊富で影響力のあるインフルエンサー
※2 アントフィナンシャル:中国アリババグループの金融関連会社
こういうことが起こりつつある中で、彼らがかつてのエジプトの王であったり、メディチ家であったり、その富をかつての資本主義のところに投資するだけではなくて、枠に留まらないところに投資して、社会を変えつつあります。
例えばジャック・マー(※3)は教育を作ったり、都市を作ったり、村を作ったりという話が今出てきています。彼らにとっては、それは伝統的資本主義の車輪を回すより違うところに有り余るお金を使いつつあって、もしかするとかつてのピラミッドのように中国の今後の文化とか今後の資本主義とは一つ違うような部分で新しいものが生まれるのではないかと。それが中国的なデジタル資本主義がドライブした末のポスト資本主義の話です。
※3 ジャック・マー:中国アリババグループの創業
中国のデジタルエコノミーが生んだ巨額の富
青山:今、僕たちが取り組んでいるシェアハウスのプロジェクトです。ひとりひとりの若者が箱に住んで、箱は2、3人で動かすことができます。
今後40個の箱が生まれて、40人が一緒に住む場所になりますが、ここに住んでいるのは、いわゆるお金がない学生だけではありません。そもそもこのプロジェクトをやっているのもお金持ちの息子です。彼は別にお金に困っていなくて、お金儲けしようとしているわけではない。彼はこういうことやるのが好きで、僕にデザインを頼んで今一緒に若者のコミュニティーをこの街に作ろうとしているのです。
面白いのは、彼がお金のためにやっているわけではなく、ここに住んでいる人も別荘を持ってるようなお金持ちの若者もいます。
中国の泉州市という地方の都市プロジェクトですが、人口はよく見ると870万人ほどで、地方都市といえど東京23区とあまり変わらない人口がいるので、日本ではできないようなちょっと奇抜な面白いシェアハウスみたいのができていて。中国のデジタルエコノミーが生んだ巨額の富や人口規模とか、そういういろんな生態系が絡み合ってできつつあるようなことですね。
林:非常に興味深いですね。
藤井:めちゃくちゃ面白いですね。
少路:すごく面白い。
林:ジャック・マーとか巨額の富を持った人たちの出現による、こういう「面白い何か」っていうのは確かにあると思います。今、実際に僕らがやっているNext Commoms Labで各地方を展開してると、先ほど話した自治体のシュリンクの話だけでなく、この1、 2年で企業さんからのご相談が増えてるんです。
街全体をDXする面白味や可能性は?
林:あと5年、10年で自分たちのビジネスモデルが成り立たなくなるとわかっているので、Next Commoms Labに来てゼロから街を作りたいという大企業からのご相談。つまり、本体でごちゃごちゃやっていてもしょうがないんで、まるっと自分たちの新しいビジネスシーズになり得るようなソリューションパッケージを街という範囲で実装したいっていうご相談がすごく増えてきているんですね。
一つはマスマーケティングで物がたくさん売れるっていう時代ではなくなっていて、よりミクロな方向にアプローチしていくとなったときに、「街を面で取る」ということの可能性を感じてらっしゃるのかな、と思っています。
実際作るってなるとちょっと難しいっていうか、既存の住民の人たちとどう折衝していくか? 自治体とどうコラボしていくかという課題はあるんですけど、街っていう単位で今回のスマートシティだったり、街全体をDX(※4)する、社会の最小単位としたような街を手掛けることって、今までのプロダクトを作るとか1サービスを作るとかっていう範囲ではないじゃないですか。この可能性、面白味について、お聞きしていきたいと思います。
※4 DX:デジタルトランスフォーメーション。ITの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させるという概念
少路:実は、パナソニックもスマートシティをいろいろやっていますが、「スマート」っていう形容詞をメーカー視点でやってしまうことが多くて、結果としてエネルギーマネジメントシステムに結構寄ってしまうことがあったんです。
省エネとかHEMS(※5)をどう展開するか? でもいろいろやってみて思うことは、リビングテック協会の趣旨と合致すると思いますが、やはり「お客様志向」でやっていかなきゃいけないよね、だから今のスマートシティの「スマート」っていう形容詞には、「健康」や「安全」、「安心」が必要だよね、という発想が必要になると感じています。
あるいは蓄電池を買ってください、ではなくて、リビングを司るものはみんな電気を必要とするので、蓄電池があるとCCP(※6)ができますよ、っていうと、ユーザさんにわかりやすくなるんですよね。「ユーザー視点」でのスマートシティってのが今要求されているし、我々もまだできてないんだけどそういうのを思考していきたいなと今考えています。
※5 HEMS:Home Energy Management Systemの略。家庭で使うエネルギーを節約するための管理システム
※6 CCP:Community Continuity Planの略。コミュニティ継続計画
林:なるほど。藤井さんどうですか?
藤井:私はずっとUX(※7)をやっているので、本当におっしゃる通りと思います。もう一個のっけられるとすると、今も街の価値や地価みたいなものは、その街の特性だったり文化で決まってくるところが強く、先程の林さんのお話のように、「企業がじゃあ何か作ろう」という時にも、結局どんな文化を作っていくのかがないと長続きしないと思います。
まさにそれがその街の特色になっていく、テクノロジーと文化の掛け算の可能性みたいなものを模索できると、街や土地という単位では、面白味が増すし可能性があるところだと思っています。
※7 UX:ユーザーエクスペリエンス、ユーザー体験
林:それは今の動きでできそうな感じですか?
藤井:私は実は結構できるんじゃないかと思っていて、メタバース(※8)って今ちょっと波があるじゃないですか。『あつまれ どうぶつの森』や『フォートナイト』のようなゲーム空間の中、もしくは『Pokémon GO』のようなAR空間の中、そういった形でデジタルをかぶせることによって別の世界を表出させることができるようになっているなと。
完全に行ききるとデジタル空間上のメタバースになりますし、手前なると『Pokémon GO』のようになる、と考えていくと、それを街への実装という形で実行できれば、かなりリアリティーのあるものになるんじゃないかなと思っています。
※8 メタバース:meta(超越した)とuniverse(世界)の合成語。仮想の三次元空間
林:なるほど。だからそのリアルな空間が持っていた特性とか固有性みたいなものをよりコントラストはっきりさせるというか、際立たせるような機能としてバーチャルが作用すると。それは面白いですね。
最後にまとめになりますが、今回、青山さんと少路さん、藤井さんのお三方にご参加いただいて、それぞれ全然違う視点でお話をしていただきました。ただ共通項を持っていろいろ活動されている方のお話だったのかなと感じています。
中国の事例を持って日本にどう活かしていけるかというテーマだったのですが、学ぶところは学びながら、日本の場合は少子高齢化や人口減少という観点、国土の北から南までほんとに多様な特性を持った地域がありますので、そのポテンシャルをどう活かして、多種多様な固有性のある街のあり方とか、そこに住む人たちの暮らしの多様性みたいなものをテクノロジーで担保していくか。そのためのDXに、勝負の鍵が隠されているんじゃないかなっていうことを感じられるセッションだったと思っております。みなさま、有り難うございました。
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取材・文/堀田成敏(nh+)