■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は、秋冬の新作スマートフォンについて話し合っていきます。
4年ぶりのHTCスマホはVRビギナー向け?
房野氏:2022年9月はiPhone 14シリーズが注目されましたが、Androidスマホ、タブレットもいくつか新しいモデルが発表されています。
石川氏:やっぱり、みんな円安に苦しんでるなっていうのはすごく感じます。HTCももうちょっとスペック的にがんばってほしかったけれど、あれが限界なんだろうなと。AQUOS sense7も、指紋センサーを側面に外付けにしましたとか、カメラを1つ減らしましたとか、涙ぐましい努力をしている。
法林氏:指紋センサーを電源ボタン内蔵にするとコスト高になるので、別の外付けにした。
石野氏:HTCは、本当はVIVE Flowとセットで10万円以下にして、お買い得だと見せたかったみたいですけど(メーカー直販のセット価格は11万4900円)、急激に円安が進んでしまい……。まぁ、HTCのスマホは日本で久しぶりですけど、アプローチ、VRグラスをセットにしていたのは面白いと思いました。
石川氏:あれしかないよね。
石野氏:今のHTCがやるとしたら、もうVRグラスしかない。
石川氏:HTCとしては、本当はKDDIに扱ってもらいたかったよね。
石野氏:赤のカラーバリエも作っていますしね。「田中プロ」(前KDDI社長で現会長 田中孝司氏)時代の赤を。
石川氏:やっぱり4年空けるのはダメよね。
法林氏:HTCもだいぶ変わった。多くの開発メンバーはGoogleのPixelチームに移っちゃったんでしょ。
石川氏:auのHTCユーザーが2年経って買い換えようかなと思った時に、HTCの端末がなかったらほかのメーカーに行ってしまう。そこからまた立ち上げ直すって辛いよなぁ。
石野氏:HTCのグローバルモデルにも、日本に持ってこられるような端末があまりなかった。まぁ、HTC日本としては、ちょっと辛いところだったんだろうなと。
法林氏:タイミングもあったよね。ちょうどVRがソリューションとして法人とかに使われるようになって、結構引き合いが多かったから、そっちで商売になっていた。リスクの大きいスマホをやらなくても、とりあえず食べて行けるかなっていうので、そちらに舵を切った。かつ端末部門も売ってしまったので、仕方がないってことですよね。
石川氏:そうですねぇ、ブレましたねぇ。もったいないなぁ。
法林氏:問題は法人向けのソリューションを含め、VR関連で儲かったんだろうけど、それって自分1人で勝っていける世界でしたっけと。気がつけば各社競争が激しいわけじゃないですか。
石野氏:HTC Desire 22 proは普通にまとまっていて……
法林氏:HTCらしいデザインになっている。
石野氏:若干、デザインが往年のHTCよりもグレードダウンしている感じが……大雑把な感じがしました。
房野氏:MVNOは扱う予定でしたっけ?
石野氏:(2022年9月末時点で)まだ発表されていない。
法林氏: VRの入門的なポジションを取るっていうのは確かにあるけど、みんな、そこまでVRをしたいのかなぁ。僕はちょっと疑問に思っている。
石川氏:うーん……
石野氏:HTC Desire22 proはコンテンツ保護されているNetflixとかAmazonプライムの映像をグラスに出力できるのはいいと思います。ハイエンド端末だと当たり前ですけど、あの価格帯のスマホでちゃんと対応しているものはほぼない。
石川氏:うーん……ただもったいないなと。やっぱり4年空くのはね。
石野氏:そうなんですよね。
石川氏:あの価格帯も難しい。
法林氏:一番難しいところだよね。HTCが戻ってきたことは良かったけれど、商売になるかどうかは別の話。この4年間で劇的に市場が変わったところもある。当然、電気通信事業法も変わっているし、スマホの利用法も変わっちゃってるので。
石野氏:4年って、シャオミやOPPOが日本に参入する前ですからね。
法林氏:言い方は悪いけど、あの時期にファーウェイが勢力を拡大したことによって、HTCは手を引かざるを得なかった感じになった。そのファーウェイが国内のスマートフォン市場で事実上、展開できなくなっているからこそ、今がチャンスなんですけど、今のシャオミとOPPOのすごい勢いからすると、ちょっと難しいなと……
石野氏:グローバルメーカーって難しいですよね。グローバルの事業と日本の事情を両並びでいろいろ考えないといけないので。
石川氏:なぜ日本メーカーが生き残っているかというと、日本の市場があったのと、オリジナルの部材があることが大きい。中国メーカーは数で生き残っている。その点、HTCは自分たちのコア技術を持っていない。まぁ、難しかったなぁと。
法林氏:ともかく戻ってきたことは歓迎なので、ぜひ頑張ってほしい。日本のユーザーとしては、いろんなモデルを出していただけるといいなと思うところだね。
OPPO初のタブレットはアップルを意識しすぎ?
房野氏:では、今勢いのあるOPPOの「A77」と「OPPO Pad Air」について。
法林氏:A77は「4Gなの!?」みたいな(笑) nano SIM×2、microSD×1のトリプルスロットなんだよね。法人向けとかにしたいのかなって感じがした。
石野氏:そうか……でも、毎年出している端末の最新版という感じですよね。今回の注目はタブレットなんですよ。iPhone 14のレビューに忙しい時期に当たったので、なかなかチェックができず……まぁ、お手頃タブレットって感じなんですよ。
法林氏:シャオミのタブレットも、メーカーが満足しているかどうかはわからないけれど、普通に売られているので、ああいう市場はあるんじゃないですか。
房野氏:動画とウェブサイトを見るぐらいだったら十分ですよね。
法林氏:タブレットは圧倒的にiPadが強いのは間違いない。ただ、値段がそれなりに高いので、そこはやっぱり壁。子供に持たせるとなると、基本的にApple IDをファミリーアカウントで作って管理する方式。それよりは……これは皆さんそれぞれの主義主張次第だけど、Androidって「このアプリしか起動できません」みたいなキッズモードなどがあって、シンプルでわかりやすい。子どもに持たせるとか、お勉強端末として1つ持たせられるかなと。
石野氏:子どもに持たせるんだったら、もうちょっと安い方がいいかな。3万円台はちょっと高め。
法林氏:子供の年齢にもよるね。小学校に上がっていたら、それくらい出してもいいかなっていう世界ですよね。
石野氏:そうですね、小学校高学年ぐらいだったらって感じかなぁ。
法林氏:学校によっては、GIGAスクールで使っている端末を持って帰ってはダメっていうところもある。だからタブレットは市場がある。親のスマホを持たせるよりずっと健全だと思う。
石野氏:OPPO Pad Airは、メーカー直販で3万7800円という価格で考えると、ディスプレイやスピーカーが良い感じです。コンテンツビューアとして優秀です。この値段で、2Kディスプレイでクアッドスピーカーなので、コスパが高いですね。
法林氏:Amazonの「Fire HDタブレット」みたいなものもある。あの辺りの市場は、僕らが意識してないだけで、ちゃんとあるんですよ。
石野氏:コンテンツビューアとしては優秀なんですが、iPadを意識したこの名前が……
法林氏:説明会で質問した記者もいたね。
石野氏:iPad Proっぽいデザインも。
石川氏:リスペクトしすぎだよね。
石野氏:インスパイアされすぎ(笑)。影響を受けやすい。ファーウェイはその価値観から完全に脱却したんですけどね。成長過程でだんだんと。
法林氏:脱却するまでに少し時間がかかるんだよな。
AQUOS sense7に高評価
石川氏:シャープのAQUOS sense7は、なんとなく良くなってきているなと思いました。背面をカメラが1つのように見せて、「AQUOS R7」の流れを汲むようになった。シャープのAQUOSっぽさを醸し出している感じがする。ライカと付き合ったことによって、デザイナーがやる気になったみたいな感じがする(笑)
石野氏:そうですね。ライカに恥じないデザインにしよう、みたいな。
法林氏:今回はコンセプトとしてR7の流れをちゃんと受けていて良かった。
石野氏:ブレていないし、AQUOS感が全体で出ている。結局、ユーザーがミッドレンジを選ぶ時って、ハイエンドのイメージに憧れて選んでいる。ハイエンドは高いから、似ているミッドレンジを買う。そこでデザインが全く違うと、「これ全然違うじゃん、やっぱり安いモデルはデザインが違うのかよ」ってなっちゃうので、今回のsense7はメーカーの戦略としては正しいと思いました。
石川氏:ハイエンドが難しくなっている部分もある。1インチのイメージセンサーを載せる飛び道具としてブランドは成立するけど、普通のハイエンドスマホにユーザーが20万円近いお金を出そうという感じは、もうない。そうなると結局、1インチの飛び道具か、手の届くsenseか、みたいになる。ハイエンドをどうしようってメーカーは悩んでいると思います。
石野氏:sense7は、ハイエンドといえばハイエンドですよね。
石川氏:カメラもあんなに進化して。
石野氏:1/1.55インチだから、「Xperia 1 IV」よりセンサーサイズが大きいんですよね。実際、「1/1.7インチのXperiaって……」みたいに、SNSでも同じような反応をしてる人がいた。
石野氏:sense7は、過去のsenseの中で一番、おっ! と思ったな。
法林氏:1つだけ言っておくと、別体型の指紋センサーは要注意。認証は簡単なんだけど、ケースを着けると、めちゃくちゃ押しにくい。
石野氏:電源キーと一体化しなかったことだけは惜しいなぁ。
法林氏:ところで、基本的に僕はソフトバンク独占販売の「AQUOS sense7 plus」の方に興味がある。
房野氏:sense7 plusは、カメラ機能はsense7と同じですが、ディスプレイが6.4インチと大きくて……
法林氏:240Hz駆動。あれは超楽しい。サンプル画像がだいぶ特徴の出やすい映像だったけど。動きの激しい映像でちょっともたつく感があるのは、どこの会社の端末でもそうなので、このクラスの端末で、この表示性能が実現できたことは、動画時代を見据えた意味でも面白いと思います。
石野氏:いくらになるかな。あまり変わらないって言ってましたけど。
法林氏:ソフトバンクだからね。19万8000円だったらどうしよう(笑)
Googleの新製品が発表! 第一印象は?
「Google Pixel 7/7 Pro」「Pixel Watch」が日本で発表された当日、法林氏、石川氏、石野氏に発表会や新製品の第一印象をうかがいました。
石川氏:日本の発表会では、サプライズゲストでピチャイCEOが登壇。さらにカメラ部分を丁寧に説明するなど、節々にアップル・iPhoneを意識したプレゼンテーションになっていた感がある。グーグルとしては日本市場で圧倒的に強いiPhoneの牙城を崩したいのだろう。ただ、KDDIとソフトバンクが扱うものの、相変わらずNTTドコモが扱わないのが残念かと。
法林氏:グローバルの発表イベントは去年の「Pixel 6/6 Pro」のときほど、わかりやすかったとは思わないが、Googleとして、ユーザーに提案したいことは明確になっていて、より多くの人に使ってもらいたい感がしっかり出ている。もちろん価格も。やはり、一般消費者が買う商品として、このくらいの価格が自然(Pixel 7は8万2500円から。Pixel 7 Proは12万4300円から。Pixel Watchは3万9800円から)。実物を見てちょっと驚いたのは、Pixel Watchが意外にコンパクトなこと。女性にも持ってもらえそうなサイズ感だが、Android専用というのが日本では壁かも?
石野氏:Tensorとそのうえで動くAIは、やっぱりすごいなという印象。文字起こしができるボイスレコーダーもインパクトが大きかったが、今回の顔認証にAIを使ったり、写真のブレを後から補正できたりする機能も面白い応用例だと思う。また、ズームがとにかくすごい。7 Proの30倍があんなに実用的になるとは想像していなかった。「やるな、Google」という感じ。日本でいきなり実質0円を仕掛けてきたことからも力の入れ具合が伝わってくる。あとはドコモ。ここを攻略できれば、日本でもっとPixelが広がる気がする。
……続く!
次回は、Googleの新製品について詳しく会議する予定です。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。
石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。
構成/中馬幹弘
文/房野麻子
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