「特定支出控除」とは、会社員が業務に関係する経費を自己負担した際に所得税を安くできる仕組みです。「特定支出控除」を利用するための条件、「特定支出」に該当する経費の種類、実際にどれくらいの経費で所得税がいくら安くなるのかを解説します。
目次
特定支出控除とは?
特定支出控除とは会社員が業務に必要な経費を計上し、所得税を安くできる仕組みです。特定支出控除の概要と現実的に利用しやすい仕組みなのかを解説します。
特定支出控除を使えば所得税が安くなる
「特定支出控除」とは、簡単にいうと会社員(給与所得者)が身銭を切った仕事に関係ある一定の支出(特定支出)を「経費」として認め、その分の所得税が安くなる仕組みです。本来業務に関係がある支出は会社負担となりますが、何らかの事情で会社員自身が負担した場合に、支出が一定の金額以上になると特定支出控除が使えます。
あくまで業務に関係ある支出なので、確定申告時に特定支出控除を申請するためには、勤め先から業務に必要な支出であったことを認める「特定支出に関する証明書」を発行してもらう必要があります。
実際は特定支出控除が利用しにくい
特定支出控除は、特定支出が給与所得控除額の1/2を超えた場合に超えた金額分が対象となります。給与所得控除は給与所得者の収入から概算で経費を算出して控除しておくことで、例えば、給与所得500万円の給与所得控除額(2020年以降分)は144万円なので、その1/2で72万円です。従って、特定支出が100万円だったとすると、28万円(100万円-72万円)のみが特定支出控除の対象です。
このようにかなりの金額を自己負担してはじめて特定支出控除の対象になりますが、実際そこまで費用を使うことは多くありません。また、特定支出控除を確定申告する際には勤務先に「特定支出に関する証明書」を発行してもらう必要があり、内容や会社によっては認めてもらいにくい場合があります。
特定支出控除の対象となる具体的な経費について
特定支出控除の対象となる経費には、項目によって上限金額がないものと上限金額が65万円に設定されているものがあります。特定支出控除の対象となる9項目の支出を紹介します。
上限金額がない経費(1)
上限金額が決められていない経費の中から「通勤費」「職務上の旅費」「転居費」を説明します。
<通勤費>
交通機関などを使って通勤する際に、必要な費用を自分で支払っている場合に対象となります。しかし、一般的には会社から通勤費などの名目で支給されることがほとんどです。
<職務上の旅費>
出張・外出を含め、取引先などに出向くときの費用を自己負担した場合に対象となりますが、通勤費と同様に多くの会社では旅費交通費として会社から支給されます。
<転居費>
転勤のためにかかった費用を自分で支払った場合は特定支出控除の対象です。引っ越し費用や転居先への移動にかかった交通費などが該当します。
上限金額がない経費(2)
続いて「研修費」「資格取得費」「帰宅旅費」を説明します。
<研修費>
業務に必要なスキル習得のためのセミナーや研修に自己負担で参加した場合に対象となります。もちろん、セミナーや研修参加のためにかかった交通費も対象です。
<資格取得費>
業務に必要な資格取得に必要な費用を自分で支払った場合は特定支出控除の対象です。普通自動車運転免許・簿記・英語検定・弁護士・公認会計士・税理士などの資格が該当します。
<帰宅旅費>
単身赴任している人が家族の住む家に帰るために必要な交通費が対象となります。会社が費用を負担している場合には、もちろん対象にはなりません。
上限金額65万円の経費
以下の3項目を合計した支出額の65万円までが特定支出控除のための費用として認められます。
<図書費>
業務に関係する書籍・雑誌・新聞などを自己負担で購入した場合は特定支出控除の対象です。
<衣服費>
業務に必要な衣服を購入した場合は対象となります。スーツ・事務服・制服をはじめ、アパレル店の店員が仕事上で着用するために自社ブランドの商品を購入した際にも対象となります。
<交際費等>
一般的に交際費は会社が負担しますが、取引先などを個人的に接待したときの費用やお中元・お歳暮の購入費用などが特定支出控除の対象です。
特定支出控除は実際どれくらいお得になるのか?
特定支出控除を活用することで会社員の所得税を減らせます。実際にどれくらい所得税を減らせるか具体的な金額を用いて解説します。
特定支出控除額を実際に計算してみる
「給与金額500万円」を例に特定支出控除額を実際に計算します。特定支出控除額は「特定支出のうち、給与所得控除額の1/2を超えた金額分」です。給与金額500万円の場合、給与所得控除額は144万円なので、その1/2の72万円となります。
<特定支出が100万円の場合>
特定支出控除額は28万円(100万円-72万円=28万円)です。
<特定支出が50万円の場合>
50万円-72万円=-22万円となり、特定支出が給与所得控除額の1/2を超えていません。従って、特定支出控除の対象とならず、特定支出控除額は0円です。
そもそも所得税はどう計算する?
特定支出控除を活用することで最終的には所得税を減らせます。実際にどれくらい減らせるのかを把握するために、まずは所得税の計算方法を解説します。
所得税額は以下の式で必要な金額を順番に求めることにより計算可能です。
- 給与金額:会社から支給された金額
- 給与所得金額:(給与金額)-(給与所得控除額)-(特定支出控除額)
※「給与所得控除額」は「給与所得金額」を所定の式に当てはめることで決まります。
- 課税所得金額:(給与所得金額)-(各種控除額(生命保険料控除、配偶者控除など))
- 所得税額:(課税所得金額)×(税率)-(控除額)
※「税率」「控除額」は「課税所得金額」を所定の式に当てはめることで決まります。
「給与金額:500万円」を例に実際に所得税額を求めます。なお、この例では「特定支出控除額:0円」「各種控除額:100万円」としました。
- 給与所得控除額=500万円×20%+44万円=144万円
- 給与所得金額=500万円-144万円-0円=356万円
- 課税所得金額=356万円-100万円=256万円
- 所得税額=256万円×10%-9万7,500円=15万8,500円
実際にどれくらい税金を減らせるのか?
では、特定支出控除を活用することでどれくらい所得税を減らせるかを、具体的な数値を用いて計算します。
「給与金額:500万円」「特定支出額:100万円」「各種控除額:100万円」の場合の所得税額は以下の式によって求められます。
- 給与所得控除額=500万円×20%+44万円=144万円
- 特定支出控除額=100万円-144万円×1/2=28万円
- 給与所得金額=500万円-144万円-28万円=328万円
- 課税所得金額=328万円-100万円=228万円
- 所得税額=228万円×10%-9万7,500円=13万500円
特定支出なしの場合の所得税額は上述の通り15万8,500円なので、差額は2万8,000円です。つまり、特定支出額として100万円を自己負担した際、経費として減らせる所得税額は2万8,000円となります。
特定支出控除申告の注意点と実際の流れ
特定支出控除を利用して所得税を減らすためには確定申告が必要です。確定申告のために必要な書類の説明と、実際に特定支出控除を申告するまでの流れを解説します。
会社に準備してもらう書類がある
会社員が特定支出控除の仕組みを利用するには、勤務先に「特定支出に関する証明書」を発行してもらうため、「特定支出に関する証明の依頼書」を提出します。これは、特定支出として計上予定の費用が実際に業務に関係する費用であることを会社が証明する書類です。内容に間違いがなければ、会社が証明欄に記入・捺印し証明書として使えるようになります。
「特定支出に関する証明の依頼書」は国税庁ホームページからダウンロードが可能です。特定支出の種類ごとに用紙が分かれているので、項目を間違えないよう注意しましょう。
特定支出控除申告までの流れ
特定支出控除を活用して所得税を減らすためには、確定申告をしなければなりません。申告には「特定支出に関する証明書」の他に「源泉徴収票(勤務先から発行される)」や特定支出額を証明する「レシート・領収書」の準備が必要です。
必要な書類がそろったら、確定申告の手続きを進めます。必要事項を記入した上で、必要書類を添付し「税務署へ持参」「郵送」「インターネット(e-Tax)」で申告書類を提出すれば必要な手続きは完了です。
構成/編集部
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