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誰のためのデザインなのか?今という時代に合うプロダクトを生み出すために問われること

2021.01.02

2020年4月に発足した一般社団法人LIVING TECH協会。「人々の暮らしを、テクノロジーで豊かにする。」の実現を目指して住宅関連事業者やメーカー、流通・小売りに携わる企業が集い、ユーザーに心地良いスマートホームを段階的に進めていこうとしています。

2020年10月29日にはカンファレンス「LIVING TECH Conference 2020」を開催。全13セッションの中から、セッション3の内容を3回にわたって紹介します。

登壇者:左より町田玲子(株式会社小学館 DIME編集室 @DIME編集長)、内永太洋さん(アクセンチュア株式会社 インタラクティブ本部 最高戦略責任者 / シリアルアントレプレナー)、石川俊祐さん(KESIKI Inc. Partner, Design Innovation 多摩美術大学クリエイティブリーダーシッププログラム 特任准教授 / プログラムディレクター)、川村秀憲さん(北海道大学 大学院情報科学研究科 情報理工学専攻複合情報工学講座 調和系工学研究室 教授)

※Session 3 中編※「Withコロナ時代に求められる暮らしに溶け込むサービスデザインとは?」

暮らしに溶け込むサービスデザインとは?【前編】新しいチャンスやアイデアが生まれてくる時代へ

コロナ禍、企業が変革の時期を迎えて

町田(モデレーター):新型コロナ禍は企業が変わるチャンスともいわれていますが、なかなかそこには大きな壁があるようです。企業が変わるためにはどんなところが課題なのでしょうか?

内永:ガバナンスとかストラクチャーの弊害があると思いますけど、その代わりやるといったらやるという、早く動ける利点もあります。

ある企業と事業創造の話をしていて「今まで失敗したことはありますか?」と質問されたのですが、僕は「今まで失敗したことがないです」と答えました(笑)。理由は、実際には失敗しているように見えるかもしれないけど、失敗したと認めないとか、100年かけて見たら実は失敗してないといえるかもしれないとか。後はピボット(※1)するので、どこからどこまでが失敗かなんてわかりません。

※1 ピボット:企業経営の方向転換や路線変更のこと

ただそれは大きい企業では難しいんです。ターム切られるし、予算切られるし。僕がトラディショナルな企業にいた時だったら、新事業を今の自分のように作り出すかというと、作らないですね。作るとやっぱり怒られちゃうかなって。

さっきのピボットの話ではないですが、最初の計画と違うといわれたら、「ちょっと変えたんです」と気軽にいえるのかどうか。難しいですよ。ただ、難しいですよという議論だけ話しても前向きではないので、例えばガバナンスをうまく使って別会社にして、その代わり株式を何年かで買い取らせるオプションを持って、1回独立させるとか。

PL(※2)もCF(※3)を見て自分でやってみるってビークルを別に作る。子会社にすると結局今あるガバナンスから逃げられないので、戻れるような退路は用意しておく。

※2 PL:損益計算書

※3 CF:キャッシュフロー

方法としてはできると思いますね。トラディショナルな会社だけど、できる方法でフレームワークを作るのがブレイクスルーじゃないですか。

我々の年代が若い人にできること

石川:そうですね。僕の会社はKESIKIといって、新しい景色を作るという意味です。大企業が突然違った意思決定のプロセスで、ワークフローやチーム体制でやるのはすごく難しい。自分たちが評価しきれない良し悪しで判断できないもの含め、才能あふれる人に出て来て欲しいならカルチャーや物事の決め方など、彼らが走りやすい環境を作ってあげないといけないですよね。

もしかしたら出島を作ったり、出島が社内なのか社外なのか含めて作ってあげる。最終的にはそのカルチャーを軸にして、何らかの方法でアメーバ式にもう一回会社の中に戻してあげる。それをうまく形化した後に浸透させていかないと、結局出島だけはいい人が集まるし、みんな行きたいし。そこの形がいいよねという成功事例を早めに作って、徐々に浸透させていくのが大事だろうと思います。

変わるのには時間かかるけれど、そういった1か所のツボのようなところから始めていかないと。それがどうやったら浸透できるかをやるべきです。

川村:知り合いの一橋大学の先生が話していたことです。アメリカは新しいものを取り入れてくることがすごく上手。ところが日本は企業が新しいことをやるのに出島のように外側に機能を作ってそこで試し、それがいけるとなったら中に戻そうとする。そうなったときに内側のこれまでの価値観からすると、新しいものが出てきたときにどうしてもそれを受け入れられない方向に力学が働くと。

アメリカはどうするかというと、それが良さそうになったらそっちにどんどん栄養を与えて、古い所の栄養を断って枯らす。内側に入れると反発はあるけれど、外側で育てることをやる。例えばシリコンバレーのベンチャー。アメリカの大企業もシリコンバレーに来ていいベンチャーがないか探します。それを集めてやらせてみて失敗してもいいけど、うまくいくのであればそこで育てる、という発想の違いがあるといっていました。

内永:先生と一緒にイスラエルに行ったことがありますけど、そこでPoC(※4)とかやらせる日本企業がいても失敗するんです。彼らは企業の中でやりたいと思っていないから。おっしゃる通り栄養をいいと思ったところに与えていくのは変化に必要なことかもしれません。

※4 PoC(Proof of Concept):新たなアイデアやコンセプトの実現可能性やそれによって得られる効果などについて検証すること。

今という時代に合うデザインを生み出すために

町田:今のお話は企業の枠や考え方だと思いますが、コロナ禍においては新しいプロダクトを生んでいく、自分たちで作っていくときに、個人個人がどういう風にそのプロダクトを作るために考え方を変えるか、どんな風に思えば今に合う新しいデザインが生まれてくるのでしょう?

内永:結局、企業も人も生命体なのであまり変わらないと思います。やはり既存の延長線上で考えるのではなく、より本質的でダイナミックに考える必要があると。

例えば、テレビのリモコン。あんなにボタンがいっぱいあって、果たしてどれだけ使うのか? それは機能を増やすことがバリューだと思ってしまっているから。そうではなくて本質的に何が必要なのか? 僕はボタンが増えたり、機能が増えるのはペインだと思っています。

家に帰った時。ライトのスイッチで照明が変えられて、空気の状態も変えられる。でも100個位のスイッチがある家に帰るのは嫌ですよね。めちゃくちゃ疲れるじゃないですか。

一番求めているのは、機能の多さでなくて、自分に最適な空間がテクノロジーによって得られること。快適でいたいってことに本当に寄り添ってサービスとかプロダクトをゼロベースで考えることが大事です。言葉にすると簡単ですけど、いっぱいのボタンを作っている人も実際にはいるわけなので、そう簡単にはいかないでしょうけれど。

石川:メーカーでそういうデザインしたことあります。

内永:すみません。でも使わないじゃないですか(笑)

便利さと不便さが対立的に存在している

石川:誰のためのデザイン? 使う人やそこにいる人を想像してものを作っているのか? というシンプルな話があります。ボタンがたくさんあるのは、誰のためにデザインしているのか? 人じゃないかもしれない、他社と見比べてみんながボタン付いているからとか、うちはそれと同じじゃなくていいのかとか。機能的に増えたことをボタンが付いていることで象徴しているとか。

誰かのためにデザインしているのに、使う人が不在であったり。その先にいる人の生活がこの物体が置かれることで、どう今までと違って豊かになるのか? 便利さみたいなものと不便さみたいなものが対立的に存在していますが、この状況下でみなさん気づき始めているのは、不便だけど実は豊かだとか。効率化は欧米的な考え方と思いますが、でもアメリカでもそんな考えを放り出して、効率化だけでなく豊かさを生み出そうというベンチャーも増えています。

意外と、日本の方が効率化していくとか進化しているかとか、明確に3つあげるみたいな世界があるので、それが誰にとっての価値なのかというと対ユーザーでない場合がある。そもそも何をデザインするかではなく、何のためにデザインするのか? 本当に、こんなにボタンを必要なのか? そんな議論をよくします。

内永:ありますね。企業で会議して、サービスを作る中ですごく詰めていって、これ使いますかね? 「使わないです」みたいな(笑)。それこそAIはどうなのですか?

自分のモノは自分で、原点に帰ったモノづくりへ

川村:テクノロジーの話ですが、大学では理論や技術を研究するのがメインです。僕が共同研究を行なったり自分たちでスタートアップを作るのは、大学で先生や学生さんの研究発表をずっと見てきて、技術や着眼点が面白いものがすごくいっぱいあったからです。ただし、ほぼ99.9%は学会発表をしてお蔵入りとなっています。

特に、IT情報技術やAIは世の中を変えるための技術であって、自然科学とは違うわけです。いわゆるエンジニアリング、工学なので世の中を豊かにするための技術のはずなのに、そうやってお蔵入りすることが多いのはなぜなのか?と思っていました。

ある時先生に「それ作って、その先どうするのですか?」と伺ったら、これがいいものであれば世の中の誰かが見つけてくれて、誰かが形にしてくれると答えたのですね。大学の研究は基礎研究なので、そういう価値観でいいところもあると思いますが、その先のそれを使ってもらうことを考えたいのです。

ユーザー目線からそれでどうなるかを考えないといけないわけです。僕自身はデザインのセンスはありませんが、必ずテクノロジーとデザインが一緒になって初めて使えるものになると考えます。

例えば、スティーブ・ジョブズがiPhoneを作ったときに、デザインや見た目、手触りとかにこだわって無茶をいった話があります。あれは毎日自分が使うものだから、少しでも使いやすいものを作りたい。毎日触りたくなるものを作りたいから徹底的にこだわったというわけです。先ほどリモコンの話が出ましたが、そこのリモコンのフタを開けて毎日触るのか? と。作る人と使う人が分離している状況は、何となく20世紀的な考え方です。

昔のことを考えると、おばあちゃんが自分の服を作ったり、手作りでおじいちゃんが釣竿作ったり。自分で使うものを自分で作るという、気に入ったものを工夫していくことは、昔は当たり前でした。それが大量生産になって分離してきた。

ここからテクノロジーは大量生産ではなく、個々人に対してカスタマイズしたり、みんなに対して違うものを作っていく事ができるようになってきたら、一旦原点に帰って自分の使うものを自分で作ると言う発想でモノ作りを考えていかないと。テクノロジーとデザインが融合していく形での物の考え方が重要だと思いますね。

後編へ続く。

supported by リノベる

取材・文/堀田成敏(nh+)

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