環境に配慮した木造高層ビルが続々登場しているワケ
未来は木造の高層ビルが主流になるかもしれない。
今年7月、日本初の木造ハイブリットビル「KITOKI」が日本橋兜町に完成した。ぬくもりを感じられる木材を多用し、自然とのつながりを重視したバイオフィリック・デザイン。この試みにより都心の金融街に温かみのある空間が生まれたことが話題になっている。
近年、一般住宅のみならず木材を活用した中高層建築への関心が高まっていることをご存知だろうか?「木造」と「高層ビル」、一見不釣り合いなキーワードだが木材は二酸化炭素を吸収し炭素を固定化できることから脱炭素の観点で注目されている。
さらに建築物に木材を使うことで、製造過程で多量のCO2排出を伴うコンクリート・鉄の材料使用量を削減。解体後も再利用や燃料としてのカスケード利用が可能だ。
また先日、建築物における木材利用を促進するため「建築物木材利用促進協定」制度も創設された。
これは建築主と国、地方公共団体が協定を結び、木材利用に取り組む制度。脱炭素社会の実現に向け、各社が木造ビル普及にしのぎを削る時代が到来している。
「KITOKI」平和どぶろく兜町醸造所
国産木材を活用し、循環型社会に寄与する木造ビルや木造住宅。環境にやさしすぎるイマドキの建築はスゴいことになっている。いくつかの事例をここから紹介しよう。
自然素材の活用と人工素材のアップサイクル 淺沼組「GOOD CYCLE BUILDING」
「人間にも地球にも良い循環をつくる」を目指し、リニューアル事業ブランド『ReQuality』を掲げている総合建設会社・淺沼組。
独自の環境配慮型リニューアル技術を活かしたプロジェクト「GOOD CYCLE BUILDING」の第一弾として築30年を経過した自社ビル・淺沼組名古屋支店をリニューアルし今年9月に竣工。そのビフォーアフターがスゴかった。
以前の名古屋支店
リニューアル後がコチラ!
木造の威力満載のビルにリニューアル!正面外装には持続可能な森林管理を行なう奈良・吉野の杉を丸太のまま用いたり、近くの建設残土を壁土として再利用するなど、将来の転用可能性まで配慮された「土に還る」建築だ。
建設残土を用いた土壁や吉野杉などの自然素材を用いたエントランス
廃材を利用した家具も
今回のリニューアルは、新築として建てなおした場合に比べ建設時のCO2排出量を約85%削減。さらに建物居住者の健康・快適性を評価する米国の第三者認証である「WELL認証」を取得予定だという。
人間が生きる環境のみならず、その先の地球環境をも考えることで資源が循環し、過ごす人たちの巡りも良くなる。淺沼組はリニューアル事業ブランド『ReQuality』を掲げ、未来を美しくするよりよい循環を生み出すべく邁進している。
https://www.goodcycle.pro/building/
国産木材100%、釘を使わない工法…循環型のサーキュラー建築「SANU CABIN」
国産木材の活用、さらに再活用を可能にする「釘を使わない」工法、土壌への負荷を軽減する高床式建築など、旧来の建築を抜本的に改革し自然環境へ配慮した事業展開の実現を目指して作られたのがSANU CABINだ。
「人と自然の共生」を掲げる株式会社Sanuが手掛けるこの建物はサーキュラー建築。資源の価値を減らすことなく再生・再利用し続ける仕組みづくりを軸に据えた循環型の建築設計のことだ。
SANU CABINには優れた特長がある。
1.国産材を100%使った木造建築
コンクリート・鉄の材料使用量を80%削減。木材は持続可能な森づくりに取り組む東北・岩手県の釜石地方森林組合から樹齢50〜80年程度の間伐材を直接調達。
2.木を切らない開発と風を止めない高床式建築
地中に杭を打ち込む基礎杭工法を採用し、日本古来の高床式建築の様相となっている。コンクリートを大量に使用する一般的なべた基礎工法に比べて土壌への負荷が小さく、風や水の流れを止めない。
3.釘を使わない工法
SANU CABINは解体後までを想定してデザインされている。釘やビスの使用を最小化することで、ほぼすべての部品を分解できるように設計。部材の交換やメンテナンスを加えながら50年間の運用が可能な耐久性と建物を解体し別の場所に再建築できるサーキュラー建築を実現している。
世界初の木造軸組工法「5階建て純木造ビル」実物耐震実験敢行
今年9月、木造建築を手がけるアキュラホームグループが木造軸組工法の耐震構造による「5階建て純木造ビル耐震実験」を実施。純木造ビルの安全性、実用性を実証するため耐震実験が行なわれた。
これまで純木造ビルの安全性の実証データが存在しておらず、純木造ビルには普及の壁があった。そこで今回の実験では告示波(建築確認の基準となる地震波)と、それを上回る震度7クラスの地震波を計6回加振。その結果、構造体、外装材、サッシのガラス等も含めてほぼ無被害で、非常に高い耐震性が証明された。
日本の気候風土に適した木造軸組工法にこだわってきたアキュラホーム。これまでの研究開発や耐震実験により「普及型純木造ビル」のプロトタイプが実現。すでに「8階建て純木造ビル」新社屋の着工開始、また日本初の5階建て純木造モデルハウス(川崎展示場)は11月下旬に完成予定だ。
8階建て純木造ビル(埼玉県さいたま市西区)
https://www.aqura.co.jp/newsrelease/220922/
国産木材の積極的な活用による脱炭素化とサーキュラーエコノミー(循環経済)の実現に向け、建築業界は新たなステージに突き進んでいる。2020年の木材自給率は48年ぶりに40%台を回復。円安による輸入木材の高騰もあり、日本はさらにハイブリッド木造建築が広がっていくかもしれない。
文/太田ポーシャ