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【深層心理の謎】せっかちな人が「ToDoリスト」を増やしたくない理由

2022.10.18

 納期が特に設定されていないというのは、いつまでかかっても大丈夫という意味ではない。たいていの場合“出来る限り早く”という意味なのだ――。

江古田を歩きながら“せっかち”な人について考える

 即断即決し“即実行”する人が身近にいる。用件や仕事にすぐさま取りかかり、さっさと終わらせてしまうそのバイタリティには感服するばかりだ。

 ある意味では“せっかち”な人ともいえるのだが、決してうっかりしたミスを連発しているとか、早とちりして理解が浅いといったことはないように見える。もちろん人によりけりなのだろうが、少なくともその人物に関する限り、“せっかち”であることがマイナスなイメージとは結びついてはいない。

※筆者撮影

 西武池袋線・江古田駅界隈に来ていた。夜7時を過ぎている。戻ってからまだ少し作業が残っているので「ちょっと一杯」というわけにもいかないのだが、何か食べてから帰るとしよう。南口の駅前を東長崎方向に進む。逆方向には某ハンバーガーチェーン店があるが、今はハンバーガーという気分ではない。ハンバーグなら食べてみたい気もするのだが…。

 今日の昼に、ある人物から久しぶりに仕事を振られ、当然ではあるがその仕事に早く手を着けなければならない状況にある。特に締切日は伝えられていないのだが、だからといっていつまでも先延ばしにしていいわけがない。それどころか、この人物が締切日を伝えないことの意味は“出来る限り早く”なのである。この後部屋に戻ったらその案件に少しばかり手を着けてみたい。

 英語で“出来る限り早く”は「ASAP」というが、これは「as soon as possible」の略だ。無理に日本語にすれば「なるべく早く」の略で“なるはや”ということになるだろうか。仕事を振って来た人物は暗に“なるはや”と言っているのだ。

 駅前の通りを進む。進行方向には線路沿いにカフェがあり、その向かいにはけっこう大きなパチンコ店がある。パチンコ店の右側にも路地が伸びていて、その向かいには中華料理屋や焼肉屋、居酒屋などが並んでいるのだが、ひとまず線路沿いを進むことにする。

 自分が知っているその“せっかち”な人物なら、今の自分のようにどこかで何か食べようと街歩きなどせずに、さっさと部屋に戻って仕事に着手するだろう。あるいはカフェに入ってノートパソコンを開くのかもしれない。

 程度の問題こそあれ、何かにつけて早く手を着けておくに越したことはない。終わりはどうなるにせよ、スタートダッシュに成功すれば心に余裕も生まれてくる。物事を“前倒し”で進めておけばアドバンテージが増えこそすれ、不都合なことは何もないように思える。

 しかしその一方で一般的に“せっかち”な人は早とちりをしてミスをしたり、意味のない努力をして“空回り”しているようなネガティブな印象もあるかもしれない。

“せっかち”な人は「ToDoリスト」を増やしたくない!?

 さらに通りを進む。今まで気づいてこなかったが、線路沿いの踏切の手前のスペースはささやかな公園になっているようで、腰掛けられるベンチが設置されている。

※筆者撮影

 左折して踏切を渡れば某大学の芸術学部に通じているが、踏切は渡らずに道なりに進み右に曲がる。“なるはや”の案件を抱えている身であるだけに、はやくどこかに入って食べて帰ろう。

“なるはや”と言われなくても“即実行”に移る人は、労力を厭わずに意欲的でバイタリティ溢れる人物ということになるのだろうか。意外なことに最近の研究では、何かにつけて“なるはや”で着手する人は労力を厭わないというよりも、実は案外よく考えて早く気持ちを楽にしたいことが示されていて興味深い。“なるはや”で突っ走る人は決して思慮が浅いままでスタートダッシュを切っているわけではないというのだ。


 認知科学的説明によると、認知機能のリソースを他のことに向けることができるように、自分の頭の中でやることのリストを短くしたいという願望があります。

 これらの仮説を区別するための新しいタスクを発明しました。参加者は、試行ごとに常に2回応答するという要件の下で「はい/いいえ」の決定を下しました。

 参加者は2番目の回答よりも1番目の回答に時間がかかり、2番目の回答の正確性が強調された場合でも、考えを変えることはめったにないことがわかりました。

 この結果は、最初の応答時間が2番目の応答時間よりも短く、1番目の応答の精度が2番目の応答の精度よりも低いと予測した行動の説明に反するものでした。

 代わりにデータは、参加者が意思決定のすべてまたはほとんどを前もって行ったことを明確に示しました。二重応答反応時間タスクは、意思決定のダイナミクスを研究するための新しいツールを提供します。

※「APA PsycNet」より引用


 カリフォルニア大学リバーサイド校の研究チームが2022年6月に「Journal of Experimental Psychology: General」で発表した研究では、“なるはや”な行動をする人々は敢えて負担を抱え込む意欲的かつ衝動的な人のように見えるが、実は一刻も早く心理的負担を減らしたいと望んでいる傾向があることが報告されている。その証拠に、人々は最初の意思決定にはそれなりに時間をかけるが、再考する機会において最初の意思決定を覆すことはめったにないというのである。

 同大学の学生が参加した実験では、提示された一連の数字を含むタスクについて「はい/いいえ」の決定を下すように求められた。次に考えが変わった場合に備えて、その後同じタスクにおいて再び「はい/いいえ」の決定を行う機会が与えられた。

 収集したデータを分析した結果、最初の意思決定の反応時間が再考時の反応時間よりも長いことが判明した。つまり人は考える前に行動するのではなく、行動する前に考えていたのである。即実行に移す“せっかち”な人であっても、実は判断にはそれなりに時間をかけているのだ。そしてその判断を一度決めてしまえば、再び検討したとしても揺らぐことはあまりないというのである。

“せっかち”な人が即行動に出るのは、意欲的であるというよりもむしろ懸案事項に対していち早く態度を決めて心理的負担を減らしたいと望んでいるからであるということだ。“せっかち”な人はこの先やらなければならない「ToDoリスト」を増やしたくないが故に、何事も前倒しで進めていることになる。

カウンターだけのステーキ店で肉を貪る

 通りを道なりに進むと道が分岐するポイントにやってきた。左に進んでもいくつが飲食店が見えるが、直進したほうが色々と店がありそうだ。直進することにする。

※筆者撮影

 道が分岐するコーナーには昭和を感じさせる“キャバレー”風の酒場がある。子供心に夜の街に昔はこうした店がわりとあったことは憶えていて、その意味では懐かしい。しかしそうしたキャバレーやグランドキャバレーには行ったことがないし、また今はそもそもキャバレーという業態そのものが減っていると思うので、一生関わることもないのだろう。

 いわゆるキャバクラやクラブにはかつて仕事関係の人々と共に何度か行くこともあったが、仕事に関係していなければまず訪れることはない場所だ。キャバクラなどは1人で来ているお客も少なくないが、個人的には正直いったい何が楽しいのかはまったく理解することができない。そう言うとなんだかつまらない人間だと思われてしまいそうだが…。

 通りを進むとバーやイタリア料理店に続き、ステーキ店がある。ハンバーグがなんとなく食べたい気分もしていたのだが、ステーキでもいい。しかもステーキなら短時間で食事が済ませられるだろう。入ってみよう。

 店内は入口から奥に長いレイアウトで、カウンターのみである。1人でも入りやすいというか、そもそも5人の先客のうち3人は1人客だった。

 お店の人に奥の方の空いている席に促されて着席する。両隣でどちらも30歳前後の男性客がステーキ肉と格闘している。

 メニューを見るとハンバーグもあるのだが、ここはやはりステーキだ。このお店の定番のステーキを300gにサラダを注文する。ソースはオリジナルソースにして通常は唐揚げの付け合わせをブロッコリーに変更してもらう。1杯だけならいいかと思いハイボールもお願いした。

 ハイボールとサラダに続き、すぐにステーキがやってきた。肉の鉄板は燃え盛る固形燃料のコンロに乗っていて、お店の人から現状ではレア状態なのでお好みに焼いて食べるようにとの説明を受ける。火元を塞ぐフタ状の器具もあって途中で火を消すこともできる。

※筆者撮影

 さっそくいただこう。肉をまずは大まかに3分割くらいにカットして、断面を鉄板に当てる。その後にさらに細かく切って火を通すとちょうどミディアムレアくらいになって美味しくいただけそうだ。

 カットした肉をひと口頬張る。何もいうことはない。肉を食べているということだ。もう少ししたら火を消してしまってもよいのだろう。

 肉をカットしながら口に運ぶ。空腹だったこともあり、どんどん食べ進めてしまう。ひょっとするとやや“せっかち”になっているかもしれない。今の自分は空腹を満たし食事を早く終えるという“使命感”に追われているのだろうか。

 ナイフとフォークの手を停めて、火元にフタをして火を遮った。そしてハイボールをひと口飲んでいったん落ち着く。何も慌てることはないのだ。今夜はやや長い夜になる。“なるはや”で貪るようなことはせず、ゆっくりと味わって食べてから部屋に戻ることにしようか。

文/仲田しんじ

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