SDGsの目標達成を目指している企業は、全社的にSDGsに取り組むことで「従業員のモチベーションの向上」の効果を得ているケースが多いようだ。一体、なぜSDGsによってモチベーションが上がるのか、その背景やより効果を上げる方法を探ってみた。
SDGsコンサルティングを行っている専門家に、従業員のモチベーションを上げる方法を聞いた。リーダーや経営者は必見だ。
SDGsへの取り組みによる効果「企業イメージの向上」がトップ
帝国データバンクが行った「SDGsに関する企業の意識調査(2022年)」では、「SDGsに積極的」な企業は2021年6月の前回調査より12.5ポイント増の52.2%と、半数以上に上った。
そして現在、SDGsの各目標に力を入れている企業にSDGsへの取り組みによる効果を尋ねたところ、「企業イメージの向上」が37.2%でトップとなった。
また「従業員のモチベーションの向上」が31.4%となっていた。その理由として、「取り組む過程でいろいろな企業、団体とかかわることが多く社員のモチベーションがだいぶ上がった。自社の取り組みに対して自信が持てるようになった」という声があがっていた。
SDGs施策による従業員のモチベーション向上事例
企業内でSDGs目標達成のための取り組みを事業として行うケースは増えているだろう。SDGs施策を行うことにより、どのように従業員のモチベーションが上がるのだろうか。実際の事例を見ていこう。
今回は、株式会社ネクストプレナーズで企業向けにSDGsコンサルタントとして活動する大濱健太氏に話を聞いた。
【取材協力】
大濱健太氏
株式会社ネクストプレナーズ/SDGsコンサルタント
企業のSDGs導入が、単なるラベリングに終わらないよう、手厚い支援を心がけている。経営・人事のコンサルティングノウハウを活用し、社内浸透を目的としたSDGs研修の実施、SDGs活動の目標設定サポート、経営陣向けの報告資料チェックなど、推進担当者のタスクを整理してフォロー。サステナビリティ経営によって、従業員の意識が変わっていく現場を、日々目の当たりにしている。
SDGsコンサルティングサービス
「私がご支援させていただいた中で、最も印象に残っている事例は、『トップダウンとボトムアップのバランス型』の企業です。
この企業では、翌年度のプロジェクト推進候補者を各部署の若手従業員より1名ずつ選抜し、月に一度、SDGsについて学びながら、具体的な活動案を策定する機会を設けました。経営陣やマネージャークラスは、活動に対するアドバイスや承認、経営理念との整合性を図る箇所に注力していただきました。
その結果、若手従業員からは、サプライチェーン全体を俯瞰した発想や他社を巻き込む活動案が出たほか、経営陣から直接フィードバックをいただくことにより、日々の業務では得られない気づきを得られたようで、熱意を持った状態で翌年度のプロジェクト推進者として活躍していました」
若いからこそ浮かぶ自由な発想は、SDGs活動を推進するうえで貴重である。上層部がうまくサポートしたかいもあって、モチベーション向上にもつながったようだ。
SDGsを起点として従業員のモチベーションを上げる施策のアイデア
SDGsを起点として、意図的に従業員のモチベーションを上げるには、どんなアイデアがあるだろうか。大濱氏によれば、従業員のモチベーション向上施策として、次の3つが有効だという。
1.全社横断プロジェクトとしてのSDGs活動
「他部署との意見交換は、機会がないとなかなかできないものです。SDGs活動推進という目的で、あえてそういった場を作り、例えば『SDGs達成に貢献する新商品・サービス開発プロジェクト』を立ち上げ、調達、企画、販売など自社のバリューチェーン全体からSDGs達成を考えてみるのも良いでしょう」
2.経営陣へのSDGs活動案プレゼンテーション
「通常、従業員が経営陣に直接提案をする機会はあまりないと思います。自分が考えたアイデアを経営陣に提案し、直接フィードバック、承認を得るという体験をすることで、その後の活動へのモチベーションが生まれます」
3.SDGs推進担当者の交代
「企業内のSDGs推進体制は、企業規模にもよりますが、SDGsやサステナビリティ推進室を設置し、そこに各部署の推進担当者の活動や情報を集積するのが一般的です。基本的に1年単位で活動の目標設定や見直しを行いますので、その都度、推進担当者を交代することによって責任感が生まれ、目標達成への原動力となり、社内全体のモチベーションが維持できます。推進担当者を経験することで、社内に正しい知識を備える人材が増えていくことにもなりますので、それも狙いの一つです」
SDGsの取り組みによって従業員のモチベーションを上げるポイント
従業員のモチベーションを上げるには、どんなポイントを押さえて行うと効果的だろうか。大濱氏は次のように述べる。
「モチベーション向上のポイントは『共感』と『当事者意識』だと考えます。
人は納得していないことについて取り組む際にはスピード感が不足しますし、自分に関係ないと思うことについては行動しないこともあるからです」
●世代や部署、立場などによって異なるトピックを伝え共感を促す
「SDGsへの共感は、世界情勢や自分の生活への、変化・危機感の共感と言えます。これらに当事者意識を持ってもらうには、世代や部署、立場などによって異なるトピックを用意すると良いでしょう。SDGsは『経済』『環境』『社会』という3つの側面による切り分けが可能ですので、それぞれの方に合ったテーマの事例やニュースを伝えていくと効果的です」
●経営方針・コアコンピタンスへの共感を促す
「自社の経営方針・コアコンピタンスへの共感も重要です。それはつまり自社の存在意義に対する共感です。改めて現在の事業がどのように社会課題を解決しているのか、ディスカッションすることをおすすめします。それと同時に、各事業がどの程度の環境負荷をかけているかの測定は必須です。資源を適正利用し、社会課題を解決しているという当事者意識が芽生えます」
●ステークホルダーとの共感を促す
「従業員同士を含むステークホルダーとの共感も必要です。企業のSDGs活動は、従業員やステークホルダーを巻き込みながら、少しずつ活動の渦を大きくしていくイメージで進めていきます。従業員やステークホルダーとの対話は、事業の延長線上のような上下関係にはとらわれず、オープンアンドフェアとなるよう、気を付けていただきたいです。企業の枠を超えた活動に携わることで、社会の一員としての当事者意識を持てるようになります」
いくつかの企業が経験しているように、SDGs推進によって従業員のモチベーションが向上する効果は十分、期待できるようだ。意識的かつポイントを押さえて実施することで、生産性向上や従業員満足度向上、定着率向上などにつながるのではないだろうか。
【調査出典】
帝国データバンク「SDGsに関する企業の意識調査(2022年)」
取材・文/石原亜香利