目指すのはサステナブル・キャピタリズムの確立
「従来の経済システムは、競争原理の下に富を謳歌する勝者と、搾取される敗者や環境破壊を生み出してきました。が、経済・文化の発展と環境保全を矛盾させることなく、循環させた社会を構築すれば、経済格差、人権問題、環境破壊といった社会の歪みを解決できると考えています」
その実現のために、長坂氏は手も口も動かし続ける。その第1目標が〝スラム撲滅〟なのだ。
「ガーナに集まっている先進国のゴミは、マイナスの度合いが高い。そのゴミをアートにするとプラスのエネルギーが加わり、作品が売れるほど、ゴミが削減され、さらにはスラムの環境を改善する事業に投資できるサイクルが生まれるのです」
誰も成し遂げていない、と言っても過言ではない壮大な目標だ。が、彼は本気だ。そこで冒頭で長坂氏が言い放った「僕が稀代の詐欺師かどうか、10年後に結果がわかる」という言葉の真意を聞いた。
「ガーナにサステナブルな社会を──というアート活動を始めた時、周囲の人に慈善事業でも始めるの? とか、それこそ詐欺じゃないか? と疑われることが多くありました。時代が追いついた今、ようやく僕のアート活動が花を咲かせ始めました。僕の作品に興味を持っていただく方は、アートに魅力を感じた人、環境保全に関心がある人、さらには投資目的の人が多いようです。興味のベクトルは何でもいい。その消費活動のすべてが、スラム撲滅につながっているのですから。今では、多くの企業や経営者が、サステナブルをキーワードに掲げて、環境や雇用、ジェンダー格差などの社会問題に向き合っています。100年後、200年後かもしれませんが、そうした問題をすべて解消した新世界を確立できるはず。その実現を信じて僕は作品をつくり続けます」
「100年後、200年後かもしれないけれど、
差別のない新世界が訪れることを信じています」
アトリエにガーナから輸送したゴミを保管。その中から長坂氏が作品に合ったものを選ぶ。
長坂氏が取り組んできたアート活動による成果
「MAGO ART AND STUDY」を創設
2018年、スラム初の私立学校を設立。今後50年、長坂氏が死ぬまで無料を保証している。
スラム初の文化施設を設立
2019年、アグボグブロシー5回目の訪問の際、「MAGO E-Waste Museum」を設立。
オリーブを栽培する新しい村をつくる
ガーナに広大な土地を購入し、雇用とフェアトレードができるオリーブ農園を造成を目指す。
貧困に苦しむ若者をアーティストに!
ガーナの若者が描くアートを長坂氏が売り、売り上げを渡す仕組み「Superstars」を稼働。
文化と雇用、社会貢献を生む施設
2021年、リサイクル工場に画廊を併設した「MAGO GALLERY Agbogbloshie」を設立。
上野の森美術館で個展を開催中!長坂真護展 Still A “BLACK” STAR
期間:11月6日(日)まで開催中
開館時間:10:00~17:00
入場料:一般1400円、
高・大・専門学校生1000円、小・中学生600円
学生時代、長坂氏が「井上雄彦 最後のマンガ展」で訪れた思い出の美術館での個展が実現。テーマ別に長坂氏の作品を展示するとともに、彼のアート活動を鑑賞できる。アートはもちろん、SDGsに関心のある人に訪れてほしい。
代表的なアートワークを厳選!『NAGASAKA MAGO ALL SELECTION ─長坂真護作品集─ 』絶賛発売中
著/長坂真護 小学館 2200円
「ガーナ」を題材にした作品に加え、平和の象徴をイメージした「Moon」、コロナ禍を機に創作した「新世界」など、様々な作品を楽しめる。インタビューも掲載しており、彼が考えるサステナブル・キャピタリズムとは何か? を知ることができる。
計181点もの作品を一冊に集約!
上野に展示する作品も掲載
『NAGASAKA MAGO ALL SELECTION』
著/長坂真護
取材・文/寺田剛治 撮影/中筋 純、清水タケシ、Tokio Kuniyoshi、Naoki Fukuda