日本の伝統色のひとつに「緑青」という色があります。くすんだ緑色である緑青は、色を示す言葉だけでなく、他の意味でも使われることがあります。緑青にはどのような意味があるのでしょうか。緑青の意味や特徴について解説していきます。
緑青とは?
緑青は「ろくしょう」と読みます。緑や青は、難しい漢字とはいえませんが、緑の「ろく」や青の「しょう」という読み方はあまり馴染みがないかもしれません。緑青はどのようなものなのか解説していきます。
緑青は銅が酸化したもの
緑青とは、金属の「銅」に発生するサビの一種です。銅は鉄と同じように、酸化することでサビが発生します。銅のサビは鉄サビのような赤色ではなく、緑青色のようにくすんだ緑色です。
銅が使われているキッチンツールやアクセサリーの多くは、黒味がかったツヤのある赤色をしていますが、いつまでもその状態が続くわけではありません。時間の経過により緑青に覆われてしまうのです。
緑青は、銅を含んだ合金でも発生します。たとえば、5円硬貨や水道の蛇口、トランペットなどの金管楽器に使用される、真鍮(しんちゅう)や黄銅(おうどう)と呼ばれる金属には、銅が含まれています。
また、10円硬貨に使われている青銅と呼ばれる金属にも銅が含まれるため、いずれも酸化すると緑青が発生します。
緑青が発生する原因
緑青が発生する原因は、酸素や二酸化炭素、水分が作用することによる、銅の酸化です。
屋外であれば、銅が雨水や湿気にさらされることで酸化が進みます。室内であっても水道水が付着したまま放置した場合や、手で触れることで汗がついた場合には酸化します。緑青の発生には特別な原因があるわけではなく、日常生活の中で自然的に発生する確率が高いといえるでしょう。
また、銅が酸化すると、いきなり緑青が発生するわけではありません。赤褐色だったものが徐々に黒褐色に変化していき、そのあとに緑青が発生します。
人体への影響はない
水道管の水量を調整するためのバルブや水が出てくる蛇口など、人間が口にする飲み水の通り道には、銅を含む黄銅が使われています。これらに発生した緑青は仮に体内に入っても影響はないとされます。
一般社団法人日本銅センターによれば、かつて有毒とされていた緑青は、1981年から厚生省(当時)による実験の結果、毒性は低いと結論付けられています。
緑青の落とし方
緑青は人体にとって安全性の高い物質です。しかし、緑青が発生した銅製品の見栄えが気になるため、落としたいというケースもあります。銅に発生した緑青はどのように落とせばよいのか確認しておきましょう。
まずはこすってみる
銅製品に発生した緑青は、まずはこすってみて落ちるか確認してみましょう。緑青は金属の表面に薄い膜となって形成されています。鉄に発生する赤サビのように金属の内部まで浸食することはありません。
そのため、発生してから日の浅い緑青であれば、歯ブラシやメラミンスポンジでこするだけで落とせる可能性があります。緑青をこする際は、衣類などにつかないように注意しましょう。こすったときに緑青を含んだ水分が衣類についてしまうと、色が移るおそれがあります。
重曹や酢も緑青に効果的
緑青は、水回りの掃除などで使われる「重曹」でも落とせます。重曹の粒子には穏やかな研磨作用もあり、金属の表面を磨くことで緑青を取り除けるためです。
緑青を重曹で落とす方法は次のとおりです。
- 重曹ペーストを作成する
- 緑青が発生している場所に重曹ペーストを塗る
- 歯ブラシなどでこする
重曹ペーストは、水と重曹を1:2ほどの割合で混ぜて作ります。水の割合が多いと緑青の部分に塗ってもとどまらずに流れてしまうため、ゆるくなりすぎないように調整が必要です。
また、重曹は掃除用を使用してください。食品用よりも粒子が荒いため、研磨剤としての効果が高くなります。掃除用の重曹は安全性が高くないため、アクセサリーやキッチンツールなど、肌につけるものや飲食に関係する製品の緑青を取るなら酢やレモン汁がおすすめです。
緑青は酸性に弱いため、酢やレモン汁に含まれるクエン酸が緑青を取り除きます。ただし、酸性の物質は、銅を溶かしてしまうリスクがあります。銅が酸性の物質に長時間触れないように注意しましょう。
金属研磨剤で磨く
緑青の状態がひどく、上記の方法を試しても取れない場合には、金属研磨剤を利用しましょう。金属研磨剤には、細かい粒子が含まれており、乾いた布などに付けて磨くことで緑青を落とせます。
また、金属の表面を研磨するため、緑青だけでなく表面の黒ずみまで取り除けるため、全体的にくすんだ銅製品もきれいになります。
金属研磨剤は、ホームセンターなどで取り扱いがあります。いくつか種類がありますが、対象の金属が異なる場合があるので、購入前に確認しておきましょう。
緑青を発生させにくくする方法
緑青が発生する度に取り除くのは時間も手間もかかります。緑青を発生させない方法はあるのでしょうか。確認しておきましょう。
外気に触れにくい状態で保管する
緑青の発生は、空気に触れにくい状態にすることで抑えられます。
アクセサリーなどの小さな製品であれば、密閉性の高い容器や袋に乾燥材と一緒に入れて保管することで、空気に触れにくい状態になるため、緑青の発生を遅らせるのにも有効です。ただし、水分や手の油分、塩分が残った状態だと緑青が発生しやすいので、収納をする前にきちんと拭き取ってから保管しましょう。
定期的なメンテナンスを行う
銅製品は、日常的に使うだけで酸化が進み緑青が発生しやすくなります。そのため、緑青を防ぐには、銅製品を使い終わったら洗い、水分や塩分が残らない状態にしておくだけでなく、定期的に表面を磨くことが大切です。
緑青は銅の表面に徐々に生成されるため、ある日いきなり発生するわけではありません。定期的に金属の表面を磨いておくことで、緑青が発生する前段階で防げるため、発生を抑えられます。
塗装をする
銅製品は、表面に塗装をして外気に触れない状態にすることで緑青の発生を防げます。銅の表面に塗装による膜ができれば、酸素や水分を完全に遮断できるため、緑青が発生しません。銅製品に発生する黒ずみも防げるため、新品の輝きを維持できます。
ただし、塗装は経年劣化や落下などの衝撃、手で触り続けることで剥がれることがあります。塗装が剥げた部分が空気に触れることで緑青が発生することもあります。再度塗装するには、既存の塗装を一度剥がさなければいけません。
また、銅には微量金属作用があり、少量でも抗菌作用を発揮する特徴がありますが、塗装をすると効果がなくなってしまいます。
緑青の活用方法
緑青が発生すると、銅製品の外観が変わってしまいます。しかし、緑青を取らずにあえてそのままにしておくことで得られるメリットもあるのです。どのようなメリットがあるのか確認しておきましょう。
緑青で金属の腐食を防ぐ
緑青は、金属の表面を覆い空気を遮断する役目があります。金属内部には浸食しないため、緑青に覆われた部分は、それ以上腐食が進むことはありません。
実際に、自由の女神や鎌倉の大仏は銅でつくられており、長い年月をかけて緑青が全体に発生しています。その結果、腐食が防がれ長期間にわたって形状が保たれているのです。緑青は人体にとって毒性が低い物質でもあるため、銅製品などはあえて緑青をそのままにしておき、腐食を防ぐという方法もあります。
独特の風合いを楽しむ
緑青が発生した銅製品は独特の風合いがあります。ピカピカに光った状態もよいですが、経年劣化によって渋い色合いに変化していくのを楽しむのも魅力の一つです。緑青が形成される過程は製品ごとに異なるため、この世に二つとないデザインになります。
緑青は、表面を磨くことで比較的簡単に落とせるため、あえて緑青をそのままにしておくことも試してみましょう。
構成/編集部