海苔弁といえば、お弁当の定番中の定番!ところが近年、その海苔弁専門店が続々オープンしている。価格もリーズナブルだった従来の商品とはかなり異なり、1000円オーバーのものも多数登場している。なぜこれほどまでに、海苔弁が盛り上がっているのか、取材した。
海苔弁ブームの仕掛け人!?「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」
まず紹介するのは「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」。現在の高級海苔弁ブームの礎をつくった存在だといっても過言ではないだろう。初展開は、2017年春にGINZA SIXへの出店だそう。海苔弁山登り代表の我妻義一氏に話を聞いた。
GINZA SIX内の店舗
「実は、最初は10年前JALの機内食企画から始まったんです。親会社だった『Soup Stock Tokyo』を運営するスマイルズとJALの共同開発で生まれた海苔弁の名を受け継いでいます。
コンセプトは、山登りをしてひと休みしたときに、絶景を見ながら楽しむお弁当。細かいことですが、ブランドロゴの『山』は、真ん中の縦棒が少し短く、“気軽にハイキングできる程度の山”を表現しています」と我妻氏。実は新橋の店舗では「山頂では手で持って食べるだろう」というコンセプトから、テーブルがないというこだわりもあるそうだ。
新橋店のイートインコーナー。
そもそも海苔弁だった理由は?
「やはり『お弁当=海苔弁』だよね、という共通認識があったんです。そして、ちまたにあふれているステレオタイプの海苔弁ではなく、丁寧につくったお母さんの手作り弁当を目指そう、ということになりました。つめたい状態でも美味しい“追憶のお弁当”です」(我妻氏)。
海苔は青のりの混ざった“青混ぜ”の一番摘みで柔らかい有明産、米も試食を繰り返して厳選された宮城県石巻産ササニシキ。一方、磯辺揚げに使うちくわは、大衆魚を使用しているスーパーで4本100円程度のもの。これは、より魚の香りがして揚げ物に向いているという理由でセレクトしたという。
「高い食材ばかり使わなくても、手間暇をかけてつくることで、十分に美味しい温もりを感じられるお弁当になると考えています」(我妻氏)。
現在、銀座、築地に加え、東京駅、品川駅、新橋駅などで店舗を展開。特に東京駅では、一番売れている弁当だとか。メニューは常時12~15種ラインナップされ、鮭の塩焼きがメインの「海」、鶏の照り焼きがメインの「山」、野菜のおかずがメインの「山」、そしてお客さまのリクエストで誕生した、鮭も鶏も楽しめる「大漁」などが主なメニューだ。
実際、大漁を購入した筆者。手に持った瞬間、「これ、本当にお弁当?」という重量感。食べ進めてみると、おかずのボリュームがすごい!一食では食べきれず、残りのおかずはおつまみとして楽しんだ。よくある駅弁のように途中で飽きることもなく、食感や甘み・塩味の違いなどでいつまでもわくわくするような印象を受けた。正直、1600円という値段にはちょっと驚いたが、これほど楽しめるなら、大いに納得。
海苔弁 大漁
海苔弁 海
メニュー開発は自社全体で行い、特に担当を決めているわけではないという。大事なのは提案者の強い思いで、「それをお客様にきちんと語れるか」を基準に決定しているという。以前には、北海道の帯広出身者が提案した豚丼をヒントに、北海道産の豚を使ったメニューが実現した例もあるとか。
今後の展望を我妻氏に聞いた。
「出店するエリアは“江戸”にこだわっていますね。東京のちょっと良いお土産の立ち位置も目指しているからです。将来的には、名前の由来になった山麓でも出店してみたいですね。また、デリカテッセンや定食屋なども企画段階ではありますが、進んでいます」。
今後の展開が楽しみだ。
ファッション業界からの参入で注目!「ごっつ食べなはれ」
一方、他業界からの進出として注目されているのが「ごっつ食べなはれ」。多数のブランドを持つ総合ファッションメーカーであるベイクルーズが展開する海苔弁専門店だ。
外観
「中食業界への進出の第一歩は、2016年3月に、表参道に一人鍋しゃぶしゃぶ専門店を出し、同時にテイクアウト事業もスタートしたことです。2020年5月に原宿に『おむすび ごっつ食べなはれ』、続いて9月に表参道に海苔弁専門店の『ごっつ食べなはれ』をオープンしました」と話してくれたのは、ベイクルーズ FLAVORWORKS執行役員の高橋秀典氏。
海苔弁専門店を展開するきっかけは、コロナ禍の中での中食事業の伸びしろを感じたこと、そして従来の店舗で培った信頼感に加え、お米をはじめとする生産者との出会いだったという。
「少子高齢化の時代感を考慮し、年代の上がっていく世代にとっての『日本の食の原点はどこか?』そして『日本の食の懐かしさとはいつか?』という視点で考えました。結果、昭和30〜40年代の食卓の中心となったメニューで、且つ現代でもなお好まれているものが必要とされているのではないか、となりました。懐かしさを1つのプレート(お弁当箱)で表現できるものは何か…と考えた際に、主食・副菜がバランスよく、仕切りなく配置された『海苔弁』を思いつき、現代のフィルターを通した『海苔弁』を販売すれば、多くのお客様に喜んでいただけるのではと考えました」(高橋氏)。
その言葉通り、メニュー内容も鮭、サバ、唐揚げ、生姜焼きなどの定番が中心だ。加えて、銀ダラの西京焼きや特大海老天などもラインナップ。
「家の食卓のみならず、オフィスや会合、ロケ弁などあらゆるシーンで食べていただけるよう展開しています」と高橋氏。
一番人気は「磯香る海苔弁 銀鮭の炙り焼き」。厚みのある銀鮭に加え、ちくわの磯部揚げやれんこんのきんぴらなどの定番副菜が並ぶ。日本人が想像する“ザ・弁当”の代表のような内容で、しみじみとした滋味を感じることができる。
磯香る海苔弁 銀鮭の炙り焼き 940円
10月末までは、芸人でありながら料理研究家としても名を馳せるロバート馬場氏とのコラボレーションのメニューも展開。表参道の店舗ではイートインスペースもあり、街の喧騒を忘れるような静かな空間で、その味を楽しむことができる。
今後は、様々なニーズに合わせたメニュー展開を考案中で、ベイクルーズで展開している他の飲食コンテンツの弁当化も検討しているそうだ。
レストラン「sio」がこだわり抜いた「おいしい江戸弁 のり重」
最後に紹介するのは、代々木上原にある一つ星レストラン「sio」が手掛ける「江戸弁のり重」。sioで提供している朝食を、たくさんの人に届けたいというところから始まったそう。
「sioのフィルターを通してゼロベースから考え抜きました。海苔はカットしてお米に忍ばせているので“のり重”としました」とは、シェフの中村俊也氏。
江戸弁 のり重 1950円
キャッチーで重厚感のあるパッケージが、社内外から大好評だという。
こちらがパッケージ。
材料にも、レストラン発ならではのこだわりがちらほらとみられる。米は新潟県産の北魚沼新之助で、これに海苔を挟み、すり胡麻を散りばめている。そしてメインの銀鮭は、皮目を扇風機を使って乾燥させた後、針で穴を空け、500g程度の大きいサイズのままフライパンで皮目のみ焼き切り、一人前に切り分けた後に低温のオーブンで火入れする徹底ぶり。竹輪の磯辺揚げ、鳥の蜜焼き、卵焼きなどの副菜にも手をかけ、仕上げているそう。
残念ながら、こちらのお弁当は定番ではなく不定期販売で、店舗での受け取りのみ。詳しくはお店のSNSで発信しているというから、ぜひチェックを。
海苔弁の新たなる側面に、さらなる期待!
従来のお弁当店の海苔弁は、メニューの中で一番安価で、時間やお金がないときにも買えるという、決してポジティブなイメージではなかった。今回の取材を通して、各社のこだわりに触れるにつれ、新たなイメージが確立された気がする。ぜひ一度、手に取っていただけると、その進化に驚きと喜びを感じるに違いない。
取材・文/増本紀子(alto)