クラウンの「革新と挑戦」のDNAを受け継ぐ16代目となる新型クラウンは、周知の通り、クロスオーバー、スポーツ、セダン、エステートの4モデルが揃うことになった。まず今秋に発売されるのが、話題のクロスオーバーモデルである。2.5Lエンジン+モーターのHV、RS専用の2.4Lターボエンジン+モーターのデュアルブーストHVの2種類のパワーユニットがある中で、今回、公道での試乗が叶ったのは、前者のシステム最高出力234psのCROSSOVER G Advancedグレードだった。
X、G、RS、そしてRS、GにあるAdvanced、Gにあるレザーパッケージを含む全7グレードあるうちの中間グレードと言っていいのがCROSSOVER G Advanced。19、21インチが用意されるタイヤは19インチで、シートは上級ファブリック+一部合成皮革となる。ただし、新型クラウンの注目機能のひとつ、車速に応じて後輪の向きを最大4度切れるDRSは全グレードに標準装備となる。
新型クラウンCROSSOVER Gの運転席に乗り込めば、まずは最低地上高145mmというクロスオーバーモデルというよりセダンに近いサイドシル高、高めながらむしろ乗り込みやすいシート高によって、乗降性はほぼ従来のクラウンセダン感覚となり、よじ登るような感覚は一切なく、実にスムーズに乗り降りできる。運転席に着座すれば、トヨタのフラッグシップモデルに相応しいインテリアのデザイン、質感に満足しきりである。12.3インチのTFTカラーメーターと、同12.3インチのセンターディスプレーがほぼ横一列に並び、これまでのクラウンにない先進感を感じることができる。
走り出す前に、まず感動できたのが、これまでのクラウンにない視線の高さ、爽快感ある運転姿勢、および上級ファブリック+合成皮革シートのかけ心地だった。開発陣に聞けば、前席はシートバックの肩甲骨の当たり方、座面の安定性、座面とシートバックのつながりにこだわったそうで、なるほど、ごく自然に上半身をサポートしてくれるのだから心地よい。視線の高さについて説明すれば、先代より80mmも高い位置に座ることになる。
走り出せば、もちろん駆動はモーター。しかし、そんなことは2モーターのストロングHVモデルでは当たり前だが、そのスムーズさは一味違う。DRSを備えた足回りはフロントがストラット、リヤがマルチリンク式だが、トヨタとカヤバが共同開発した、レクサスESにも使われている高級高額なスイングバルブ式ショックアブソーバーを使っていることと、DRSの採用でショックアブソーバーをクラウンと名付けられたクルマに相応しいソフト方向にチューニングすることができるようになり、特に走り出しの5-10m、微低速域のダンパーの動きを抑えるチューニングが可能になったことで、実に滑らかで上質な乗り味が実現されているのである。
走り出してすぐに、駐車場から路上に下りる段差があったのだが、しっかり感ある乗り心地から一瞬、フワリとしたショックの見事な受け流しを体感した時は、「なるほど、ここはクラウンだね」と唸ってしまったほどだ。
一般道を流していても、高速走行を行っていても、あるいはカーブを勢いよく曲がっても、不思議なことに、駆動方式、後輪操舵のDRSの作動を感じにくいのも特徴的だ。つまりごく自然な、従来のFRクラウンからいきなり乗り換えても違和感がない運転感覚に躾けられているということである。運転席に乗り込んだ際に感心した前席のかけ心地は、走行シーンではさらに印象が良くなった。自然で上半身が包み込まれるような心地よいホールド感によって、カーブを曲がっても頭が動きにくいのである。これは長時間の運転での疲労低減にも直結するはずである。
パワーステアリングの操舵フィールもなかなかだ。クロスオーバーモデルだけに操舵感は比較的重めだが、センターではしっかり感が、切る方向では正確感、自在感ある操縦感覚が伝わり、さらに戻す方向のセルフアライニングトルクの自然さに好感が持てた。その絶妙なトルクカーブの図表が目に浮かぶようで、後に開発陣にその件を伝えると、「切り出しだけではなく、戻し方向の大事さに注力した」とのことだった。つまり、ステアリングを切る、戻す、どちらの方向もすっきり気持ちいいのである。
乗り心地はフラットライドが基本と言えるが、うねり路面、段差などを超える際は、高速域でもフワッといなす、あえて適度な上下動を許す足回りのチューニングが、なるほどクラウンらしさということだろうか(おそらくあえて!?)。
そして加速の伸びやかさ自体はゴキゲンだ。合わせてジェントルに速い。ただし、低速域では室内の全体的な静かさから、アクセルオンでは直4エンジンのノイズが目立ち気味で、高速域になればエンジンノイズのボリウム感は相対的に下がるものの(ロードノイズなどもあるため)、回して快音!!と表現できるサウンドではないのが惜しまれる。もっとも、一部のトヨタ直4エンジンにありがちな、鼻づまり感ある音ではないから救われるのだが・・・。車格、スタイリングの先進感、電動車というキーワードからすれば、ここについてはもう一歩、頑張ってほしいところである。エンジンの存在を感じさせない方法と、聴かせるサウンドにするふたつの方法があると思える。
ドライブモードはエコ、ノーマル、スポーツが選べ、ノーマルでも十二分に速い。嬉しいのはエンジン回転を制御するスポーツにセットしても、一般道を含め走りにくさがないこと。クルマ(制御)によってはスポーツモードにするとアクセルレスポンスが鋭すぎて、山道はともかく、一般道では走りにくくなってしまうこともあるのだが、それがないのがいい。で、エコモードはと言えば、後席に大切な人を乗せているような際に使うと加減速が穏やかになり、効果的。それでも加速に歯がゆさを覚えることは、ない。
ここまではスタイリング、インテリア(前席)の良さ、装備、先進運転支援機能の充実度もあって、なかなかの好印象。大黒埠頭のパーキングにバックで駐車した際も、全幅1840mm、19インチタイヤ+4WDにして、DRSによる最小回転半径5.4m(21インチでも同じ)がもたらす取り回し性の良さ(高めの視界を含む)、駐車の容易性が確認できた。
が、残念だったのは、設計基準と聞く19インチタイヤ装着車の場合、舗装の粒が大きく粗い特定の路面でステアリングに微振動が伝わり続ける点だ。今回の横浜みなとみらい周辺の一般道、首都高の試乗コースは筆者にとってほぼホームコースと言える路面だが、自身のクルマを含め、同じコースでそこまでのステアリング振動を感じたことはない。開発陣にその件を伝えると、様々なコース、路面が揃うトヨタのテストコースでは確認できなかった要改良点とのことだった。ちなみにその点については、21インチタイヤだと感じにくいそうだ(実際に筆者は確認していないが)。
CROSSOVER G Advancedレザーパッケージは21インチタイヤ
また、そろそろ老眼気味の筆者だと、メーターの文字、センターディスプレーのナビゲーションの文字、ドライブモードの表示などが小さすぎるようにも感じられた。「液晶画面についてはできればパソコンなどと同様に、文字のサイズを調整できるようにしてほしい」と進言しておいた。
今回、試乗したクラウンCROSSOVER G Advancedの価格は510万円。同じG Advancedグレードでも570万円になるレザーパッケージを選択するとタイヤは自動的によりスタイリッシュな超大径21インチになる。が、21インチタイヤになるとスタッドレスタイヤの選択が限られ(ディーラーでこれから用意するという)、またタイヤチェーンも布チェーンのみの対応になるそうだ。ただ、その上で、レザーパッケージを選択する意味はある。というのは、レザーシートのみ、パンチングされた表皮ゆえに前席ベンチレーションシート仕様になる点だ。とくに真夏、シートベンチレーションは乗り込んですぐにエアコンの風を吸い込んでくれることで、背中や腰回りを涼しくしてくれて、汗をかきにくくなる。汗をかきにくいということは、シャツなどのトップスやボトムスのシワ低減になるという事実を、筆者は実体験している。これは今のところ、ファブリックシートにはない機能だから、暑がりの人はレザーパッケージを選ぶ価値は大いにあると思える(タイヤが21インチになり、例の特定の路面で発生するステアリング振動低減の件を含め)。
文/青山尚暉
写真/トヨタ・青山尚暉