VTuberが登場し始めた2017年以降、その市場は右肩上がりだ。顔を出していないのに、素性が謎なのに――そこに彼ら彼女らの人気を紐解くヒントが詰まっている。今後さらに注目を集めるであろう「Vの秘密」を、エンタメ研究のプロが分析する。
22年4月に『ニコニコ超会議』内で開催された、VTuberの音楽&トークライブフェス『VTuber Fes Japan 2022』。2日間で総勢120名以上のVTuberが出演、幕張メッセに集った観客が熱狂した。
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話題沸騰VTuberの魅力を探る!
続々とVTuberが誕生し、「VTuber元年」と呼ばれた2017年。当時の市場規模は約219億円で、22年には580億円程度までの増加が見込まれていた(※)。
しかし、その予想を大きく上回る勢いで業界は成長を続けている。22年6月に「にじさんじ」を運営する大手事務所・ANYCOLORが東証グロース市場に上場するやいなや、時価総額は2000億円超を記録。9月15日の決算発表後には約2822億円に到達した。同年5月末にデビューし、わずか3週間でチャンネル登録者数100万人を記録した壱百満天原サロメ(詳細は下参照)をはじめ、多くのVTuberたちの活躍が市場を牽引しているのだ。
その影響は海外にも及んでおり、中国では2025年までに「首都の北京だけで73億ドル(約1兆560億円)の収益に達する」という予測も出ているという。
どうしてこんなに人気なのか。「一言では語れない」と、エンタメ市場に詳しいニッセイ基礎研究所研究員の廣瀨涼さんはこう話す。
「大手事務所に所属しアイドルのように活動している人もいれば、個人で少数のファンに深く愛されている人もいます。あくまで『VTuber』とは活動フォーマットのひとつです。彼らの人気を紐解くには、どのようなフィールドで活動しているかを細分化して見ていく必要があります」
では、VTuberの人気が高い理由を、現時点におけるおおまかな3つのトレンドから見ていこう。
① 外見をとことん「好き」に 振り切ることができる
SimejiがZ世代を対象に行なった好きなVTuberのアンケート調査で、ホロライブ所属の湊あくあが1位となった。
「Z世代にフィットするビジュアルだったことが要因として大きいでしょう」(廣瀨さん)
廣瀨さんは、VTuberの外見が持つ特徴を“個性のブリコラージュ(組み合わせ)”と表現する。
「巻き髪や紫の髪色など“刺さる”要素を組み合わせて外見が構成されています。これは嗜好性だけにとどまらず、例えばご当地VTuberの場合、嗜好性に加えて名産品や地域性を反映させたデザインにするなど、生身の人間にはできない応用性があるのも強みです」
② タレントに引けを取らない配信で鍛えたトーク力
テレビ朝日で放送されている、VTuberが出演するバラエティー番組『ガリベンガーV』の放送枠が深夜から土曜夕方へと昇格した。タレントに引けを取らないトーク力を携えた「トーク系VTuber」が活躍の場を広げている。
「VTuberのトーク配信はラジオ番組と似ているため、距離感の近い喋りに長けています。VTuber同士やタレントなどとのコラボ配信も多く、多人数でのトーク力も鍛えられています」(廣瀨さん)
③ 〝仮面〟の向こう側には 〝プロ〟が紛れている
専門知識を解説するVTuberの数も増えてきている。
「諸般の事情で容姿を晒せない人でも、VTuberという外見を使うことで、自由に表現できるようになった。VTuberというコンテンツは、実は配信者側にとってのメリットも大きいのです」(廣瀨さん)
VTuberたちが個性豊かなことは現代における〝多様性”のひとつの正解だと廣瀨さんは表現する。
「配信する側はVTuberというフォーマットのおかげで自由に自己表現できる。視聴者たちは、自身の趣味嗜好に刺さるVTuberを、同じ趣味の仲間たちとコメント欄などでコミュニケーションを取りながら一体となって推す。そうして強い結び付きを持ちながら広がったコミュニティーが市場を押し上げているのでしょう」
「その結果ですね。体内を見ていただくことにしましたわ」
壱百満天原(ひゃくまんてんばら)サロメ
(初配信 2022年5月/チャンネル登録者数 162万人)
VTuber史上最速のデビューからわずか17日足らずでYouTubeチャンネル登録者数100万人を突破、単独配信の同時接続者数は歴代最多の12万人超! 数々の記録を塗り替えた新人VTuberをご存じだろうか? 業界内外で〝天才〟と絶賛される理由を分析した。
にじさんじに縁のあるゲームキャスター 田中一朗さんが語る壱百満天原サロメの楽しみ方
複雑なキャラクター性を輝かせる卓越したワードセンスと圧倒的なわかりやすさ
上品な口調の中に時折粗暴な言葉が入り交じる〝本物のお嬢様に憧れる一般女性〟。配信時間は1時間程度、ゲームのあらすじをイラストで伝えるなど、いつ見始めても楽しめる丁寧な配信スタイルも大きな魅力です。
[サロメ伝説①]初登場の自己紹介が「胃カメラ」
デビュー配信では自分の〝内面〟を知ってほしいという理由で「住民票」や「胃カメラ写真」を公開。強烈な個性を見せつけTwitterのトレンド入りを果たした。
[サロメ伝説②]初コラボは先輩・黛灰のジョーク企画
初コラボ相手は、サロメが所属する事務所名をもじった「ぎじさんじ」という架空のVTuber。「初コラボが実在しない相手でいいの!?」と話題を呼んだ。
今こそ旬!VTuberニュース3選
日本だけじゃない! アメリカ、インドネシアでも超人気
日本国内のVTuberが海外でも旋風を起こしている。英語圏グループ「NIJISANJI EN」の第1四半期売上高は1年前の約60倍。カバー運営の「ホロライブEnglish」も人気。
政府も注目!VTuberが持つ教育への可能性
学術系VTuberユニット「まなぶい」が株式会社うちゅうと動画教材を共同作成。2022年3月に経済産業省のデジタルコンテンツ『STEAMライブラリー』に公開された。
VTuberが活躍するゲームが続々登場
ホロライブ所属の湊あくあが主演の恋愛アドベンチャーゲーム『あくありうむ。』が2022年10月27日に発売予定。メタバースプラットフォーム『ホロアース』も現在開発中だ。
※サイバーエージェントの子会社であるCAヤングラボが推計した資料(2018年1月30日公開)より。
チャンネル登録者数は9月末時点。
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※接続するUSBポートが2A未満の出力だと作動しない場合があります。
※保温中、および使用後しばらくは、本体中心部が大変熱くなりますので、やけどにご注意いただき、絶対に触らないようにしてください。また、使用後は必ず、USBケーブルをポートから抜くようにしてください。
取材・文/桑元康平(本文、ニュース)、渡辺和博(壱百満天原サロメ)