■連載/Londonトレンド通信
映画の原作は英作家/脚本家ロアルド・ダールの児童文学『マチルダは小さな大天才』
第66回ロンドン映画祭が、10月5日に開幕した。開幕映画となったのはマシュー・ウォーチャス監督『マチルダ・ザ・ミュージカル』。Netflixで配信予定の映画で、この開幕上映がワールドプレミアとなる。
映画の原作は『マチルダは小さな大天才』として日本語訳版も出ている、英作家/脚本家ロアルド・ダールの児童文学だ。
ダールの児童文学は、ブラックなユーモアと、個性的な登場人物で、子どもだけでなく大人も楽しめる。各国で出版され、複数回映画化された『チョコレート工場の秘密』のような人気作も多い。ダールは脚本家としても、『007は二度死ぬ』(1967)や『チキ・チキ・バン・バン』(1968)のような世界的ヒット作を手掛けている。
今回の作品も、過去にも映画化、またミュージカル化されている。ミュージカル化された中では、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(以下RSC)版が人気、評価とも高い。今回の映画化は、ウォーチャス監督、脚本のデニス・ケリー、作詞作曲のティム・ミンチンと、そのRSCミュージカルと同じメンバーだ。
最初の映画化『マチルダ』(1996)は、喜劇俳優として知られるダニー・デヴィートが監督、マチルダの父親役で出演もし、原作をほぼ忠実になぞった筋立てだった。
今回の映画では、現代の映像技術を駆使したダイナミックなシーンを増やす筋立てにしてあるが、主要キャラクターや大筋は同じコメディファンタジーだ。
主人公のマチルダは、大天才のうえに超能力を発揮するようにもなる少女。テレビと映画で子役経験があるアリーシャ・ウィアーが演じている。
マチルダの能力を解さず、邪険にする俗物の両親は、芸達者のスティーヴン・グレアムとアンドレア・ライズボローが演じている。
インチキ商売で稼ぎ、ケバケバしく装った夫婦は、マチルダを精神的に虐待している。だが、賢いマチルダは、ちゃっかり仕返しもする。
力で学校を支配する筋骨たくましい校長を名女優エマ・トンプソンが演じる
学校に通い始めるマチルダだが、そこの校長は元ハンマー投げのオリンピック選手だ。力で学校を支配する筋骨たくましいトランチブル校長が、名女優エマ・トンプソンで驚く。
制服姿の子どもたちが学校のホールのテーブルを囲むシーンや、マチルダの粗末な部屋、学校で発揮する超能力がパワフルに描かれるあたり、ハリーポッターを思わせる。
だが、同じ学校でも、こちらは子ども嫌いのトランチブル校長によって、刑務所のような作りになっている。
子どもに与えられる罰則など、まるで軍隊の訓練だ。
マチルダの良き理解者となるハニー先生を、ラシャーナ・リンチが演じているのが今を感じさせる。主要キャストが白人で占められると、「白すぎる」と批判される多様性の時代だ。学校の生徒に人種が入り混じっているのも、そういう配慮だろう。
ハニー先生の過去は原作でも大事な部分だが、今回の映画ではさらにカラフルでスペクタクルのある物語にしてある。
ベースは一緒でも味付けを変えてあるので、原作を読んでいる人、前の映画を観ている人でも、また新たに楽しめる。
前の映画は、今回に比べると画面は地味だが、両親のマチルダへの徹底したネグレクトや、下品さが強調されていた分、もっと毒が強かった。
今回は、たくさんの赤ちゃんがいるキャンディーカラーの産院から始まり、終盤では子どもたちの歌声が響き、明るさが印象付けられる。そのあたりも、今の時代に好まれる形にしてあるようだ。
イギリスでは11月25日から劇場公開、その後、日本を含む各国でNetflixから配信予定。
文/山口ゆかり ロンドン在住フリーランスライター。日本語が読める英在住者のための映画情報サイトを運営。
http://eigauk.com