2050年までに、地球温暖化の原因である温室効果ガス(二酸化炭素)の排出量を、実質ゼロにする「カーボンオフセット」(脱炭素化)という取り組みが、世界規模で取り組まれている。
国連で気候変動を評価する機関「気候変動政府間パネル」(IPCC)は、温室効果ガスを大幅に削減しなければ、21世紀中に地球の気温は2度ほど上昇すると発表している。これにより豪雨や猛暑日が増え、海面上昇による高潮発生など自然災害の発生リスクが高まるという。
「カーボンオフセット」の実現にはテクノロジーの力が必要不可欠で、脱炭素に関わるテクノロジー系企業や、その企業が持つ温室効果ガス削減関連のソリューションを総じて「気候テック」または「クライメートテック(Climate Tech)」という。
実際に社会で活動する気候テック系企業への投資動向や、そのビジネスの実例をまとめた。
“脱炭素”への価値観や、各国政府の投資が気候テックを後押し
クライメートテックの歴史的背景には、1970年代に起きた環境汚染への対策に向けた投資や、2000年代に「クリーンテック」という、太陽光やバイオ燃料など環境に配慮したエネルギーへの投資が流行ったことがある。
今回は3度目ともいうべき、環境に目を向けた投資ブームが起きている。地球温暖化防止への取り組みやその投資を行なうと各国政府が宣言し、また社会全体の価値観が、「持続可能な社会の実現しよう」として、地球環境の維持に向いていることもあって、投資マネーが集まっている。
脱炭素に対する国の投資の例を以下に挙げる。
・米国:2021年に発足したバイデン政権が、今後4年間で約2兆ドル(約280兆円)の投資を表明
・日本:「グリーンイノベーション基金」という2兆円規模の基金を立ち上げ
・EU(欧州連合):今後10年で官民合わせて1兆ユーロ(約140兆円)の投資を表明
2022年上半期のスタートアップ企業への投資額は約3.5兆円
気候テックの企業動向などの調査データを提供するグローバル企業「HolonIQ」社の調査(上掲図)によれば、2022年上期には268億米ドル(約3.5兆円)規模でスタートアップ企業への投資が行なわれている。
引用元:HolonIQ
また、主にスタートアップ企業への経営支援を行なう「デロイトトーマツベンチャーサポート」社の調査結果では、気候テックへのベンチャーキャピタル投資は、2011年には17億米ドルだった投資が2022年には207億米ドルと、9年で10倍以上の投資額へとなっていることもわかる。(下掲図)
気候テックへの投資動向(2011年~2021年第三四半期)
引用元:デロイト トーマツ ベンチャーサポート
投資額はおおむね右肩上がりで増えてきている。ベンチャーキャピタル以外でも例えば、大手EコマースのAmazonが2020年に「Climate Pledge Fund」(気候変動対策に関する誓約のための基金)を設立するなど、気候テックへの投資が加速している。
クライメートテックは大きく分けると3グループ
大局的には脱炭素や地球温暖化防止に寄与する事業が「気候テック」として分類される。大手コンサルティングファームの「プライスウォーターハウスクーパース」(PwC)が発表しているレポートによれば、気候テックは以下の3グループに分けられる。
1.温室効果ガスの排出を直接的に削減あるいは解消するもの
2.気候変動の影響への適応を推進するもの
3.気候への理解を深めるためのもの
具体的な事業の例で考えてみよう。下掲図は、国内の気候テック企業である「アスエネ」社が2022年6月30日に発表した、気候テック企業のカオスマップである。
気候テック企業のカオスマップ
引用元:アスエネ
これらの事業分類を先述したPwCのグループに当てはめてみれば、「1.温室効果ガスを直接削減する」のは、太陽光や次世代燃料といったエネルギーを生み出すインフラビジネスが、
「2.気候変動の影響への適応を推進するもの」は、再エネ電力やEVシェア、EV充電といった我々のくらしを支えるサービスが、「3.気候への理解を深めるためのもの」は、メディアやCO2見える化、需要予測といった情報やデータを得られるサービスに、それぞれ当てはめることができる。
投資やカオスマップというキーワードでは、ひとつのビジネスに特化したスタートアップ企業に目が行きがち。しかし、一見すると気候テックとは無関係そうな大企業、業種でいうと重工業系企業が、ビジネスモデル全体で、気候テックに取り組む事例もある。
例えば、三菱重工グループでは、CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)という取り組みで、気候テックに貢献している。
引用元:三菱重工
CCUSとは事業活動などで排出された温室効果ガス(二酸化炭素)を分離・回収し、再利用したり、貯蔵したりする技術である。温室効果ガスの排出総量を削減できる効果がある。
2050年のカーボンオフセット実現に向けた取り組みは、着実に遂行されているようだ。
文/久我吉史