裁判所の「強制執行」とは、法律上の債務(義務)を強制的に履行させるための手続きです。
多くの場合、強制執行は債務者の財産を差し押さえるという形をとります。これは「直接強制」と呼ばれますが、直接強制に馴染まない債務については、別の方法による強制執行がなされます。
「間接強制」は、直接強制に代わる強制執行手続きの一つです。夫婦や元夫婦の間でトラブルが起こった際には、たまに間接強制が問題となります。
今回は「間接強制」について、申し立てることができるケース、金額、支払わなかった場合の処理、申立手続きなどをまとめました。
1. 間接強制とは
「間接強制」とは、裁判所によって行われる強制執行の一種です。
民事紛争に関する強制執行には、以下の3種類があります。
①直接強制
債務者の財産を差し押さえた後に換価・処分等を行い、債権の弁済に充当する手続きです。
②代替執行
作為義務(何かをする義務)または不作為義務(何かをしない義務)を、債務者の費用負担で、裁判所が代わりに実現する手続きです。
③間接強制
不履行となっている債務が履行されるまでの間、債務者に間接強制金の支払いを命じる手続きです。
間接強制が行われると、債務を履行するまで間接強制金が発生し続けるため、債務者に心理的なプレッシャーを与える効果が期待できます。
2. 間接強制を申し立てることができるケース
強制執行は、直接強制または代替執行の方法により行うのが原則です。したがって、間接強制を申し立てることができるのは、一定の場合に限られています。
具体的には、以下のいずれかに該当する場合に限り、間接強制を申し立てることができます。
2-1. 扶養義務等に係る金銭債権が未払いの場合
以下のいずれかの義務に係る金銭債権が不履行になっている場合は、裁判所に間接強制を申し立てることができます(民事執行法167条の15第1項)。
①夫婦間の協力・扶助義務
②婚姻費用の分担義務
③子の監護に関する義務
④扶養義務
上記のうち特に問題になりやすいのは、離婚時や離婚後に発生する、婚姻費用や養育費の請求権です。これらの請求権について強制執行を申し立てる場合、直接強制・間接強制のどちらも選択できます。
ただし、債務者が支払能力を欠いている場合や、弁済によって債務者の生活が著しく窮迫する場合には、間接強制を申し立てることができません(同項但し書き)。
2-2. 代替執行できない作為義務・不作為義務が不履行の場合
金銭の支払いを除く作為義務(何かをする義務)や、不作為義務(何かをしない義務)についての強制執行は、代替執行の方法により行うのが原則です。
しかし、性質上代替執行ができない作為義務・不作為義務については、間接強制を申し立てることができます(民事執行法172条2項)。
(例)
・離婚した後、子どもとの面会交流のルールを取り決めたにもかかわらず、親権者がそのルールに従わずに面会交流を拒否している場合
・離婚した後、非親権者が親権者に無断で子どもを連れ去り、そのまま一緒に住んでいる場合など
こちらのパターンの間接強制も、離婚が関係するケースで問題になりがちです。
3. 間接強制金の額はどのくらい?
間接強制金の額は、裁判所がケースバイケースで判断して決定します。
基本的な考え方は、
「どんどん膨らんでしまっては困る」
と債務者が考えるであろう金額を設定するということです。適切な金額を設定すれば、早期の債務履行が期待できます。
たとえば面会交流の妨害(拒否)であれば、間接強制金は月額3万円から10万円程度が標準的です。
一般に、債務者の収入が多ければ高額になり、少なければ少額になります。また、債務不履行が悪質であればあるほど、間接強制金は高額となる傾向にあります。
4. 間接強制金を支払わないとどうなる?
債務者が間接強制金を支払わない場合、不履行となった間接強制金の支払債務がどんどん増えていきます。
間接強制金の支払債務は単純な金銭債務ですので、直接強制の方法による強制執行を申し立てることが可能です。
具体的には、債務者の財産(預貯金・給与債権・不動産など)を特定して申立てを行い、裁判所による差押え・換価処分等を経て、間接強制金の支払いに充当されます。
5. 間接強制の申立手続き
間接強制を申し立てる場合、以下の流れで手続きが進行します。
①申立て
調停・審判・判決等をした家庭裁判所に対して、以下の書類等を提出して申立てを行います。
・申立書(原則1通)
・執行力のある債務名義の正本(調停調書、審判書、判決書など)
・債務名義の正本送達証明書
・収入印紙2,000円
・連絡用の郵便切手
なお、公正証書(執行証書)を用いて間接強制を申し立てることはできません。
②債務者に対する審尋
裁判所が債務者に対して、債務不履行の状況・事情などに関する質問を行います。審尋の方式は決まっていませんが、書面回答を求める方式で行われるケースが多いです。
③間接強制決定
申立てに理由があると裁判所が認めた場合は、間接強制決定が行われます。反対に理由がないと判断した場合には、決定で間接強制が棄却されます。
④執行抗告
間接強制に対する裁判に異議がある場合は、執行抗告が認められています。執行抗告の期間は、裁判(決定)の告知を受けた日から1週間です(民事執行法10条2項)。
参考:間接強制|裁判所
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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