会社から実質的にリストラされる形で退職する場合、「会社都合退職」と「自己都合退職」のどちらに当たるかを気にする方がいらっしゃいます。
「転職活動に響きそうだから、自己都合退職にしてもらおうか……」と考える方もいらっしゃるようです。
しかし、結論としては会社都合退職の方が有利なので、会社から「自己都合退職にしてあげる」などと言われても応じる必要はありません。
今回は、会社都合退職と自己都合退職の違いや、労働者にとってどちらが有利なのかについてまとめました。
1. 「会社都合退職」とは?
「会社都合退職」は、法律上の用語ではありませんが、会社の都合または会社の責に帰すべき事由による退職を意味するのが一般的です。
これに対して、専ら労働者の都合で退職することは、一般に「自己都合退職」と呼ばれています。
「会社都合退職か自己都合退職か」の区別は、雇用保険や転職活動との関係で意識されることの多いポイントです。
2. 雇用保険の受給については、会社都合退職が有利
雇用保険との関係で会社都合退職に当たるのは、退職した労働者が「特定受給資格者」または「特定理由離職者」のいずれかに該当する場合です。
参考:特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要|ハローワークインターネットサービス
<特定受給資格者の例>
・会社の倒産や事業所の廃止に伴い退職した者
・事業所の移転により、通勤が困難となったため退職した者
・会社に解雇された者
・伝えられていた労働条件が実態と異なっていたために退職した者
・賃金未払いを理由に退職した者
・賃金の大幅な減少を理由に退職した者
・過度な長時間労働を理由に退職した者
・会社の労働基準法違反を理由に退職した者
・3年以上雇用された後で雇い止めに遭った者
・ハラスメント被害を受けて退職した者
・退職勧奨に応じて退職した者
<特定理由離職者の例>
・雇用期間3年未満で雇い止めに遭った者
・正当な理由のある自己都合により退職した者(疾病、妊娠、出産、育児、身内の介護、通勤困難など)
特定受給資格者・特定理由離職者は、雇用保険の基本手当の受給に関して、以下の優遇を受けられます。
2-1. 受給開始日が早くなる
特定受給資格者・特定理由離職者は申込みから7日間を経過すると雇用保険の基本手当を受給できます。
一方、上記以外の退職者は、申込みから7日間+3か月間が経過しなければ、雇用保険の基本手当を受給できません。
このように、特定受給資格者・特定理由離職者に該当すると、雇用保険の基本手当を早期に受け取ることができます。
2-2. 受給期間が長くなる
雇用保険の基本手当の受給期間は、ほとんどのケースにおいて、特定受給資格者・特定理由離職者の方がそれ以外の退職者よりも長くなっています。
<特定受給資格者・特定理由離職者>
|
被保険者期間1年未満 |
1年以上5年未満 |
5年以上10年未満 |
10年以上20年未満 |
20年以上 |
30歳未満 |
90日 |
90日 |
120日 |
180日 |
- |
30歳以上35歳未満 |
90日 |
120日 |
180日 |
210日 |
240日 |
35歳以上45歳未満 |
90日 |
150日 |
180日 |
240日 |
270日 |
45歳以上60歳未満 |
90日 |
180日 |
240日 |
270日 |
330日 |
60歳以上65歳未満 |
90日 |
150日 |
180日 |
210日 |
240日 |
<それ以外の退職者>
|
被保険者期間1年未満 |
1年以上10年未満 |
10年以上20年未満 |
20年以上 |
全年齢 |
- |
90日 |
120日 |
150日 |
会社都合退職の場合、仮に転職活動がなかなかうまくいかなくても、長期間にわたって雇用保険の基本手当を受給できる安心感があります。
3. 会社都合退職は転職に不利?
会社都合退職をすると、その後の転職に不利と言われることがあります。
「会社とトラブルを起こす人」
「能力が不足している人」
などの印象を与える点が懸念されているようです。
しかし法的な視点からは、適切に対応すれば、会社都合退職が転職活動に悪影響を及ぼすことはありません。
3-1. 退職理由を伝える義務はない
転職活動をする際、前職の退職理由を応募先に伝える義務はありません。
採用面接では退職理由を聞かれるかもしれませんが、
「さらなるキャリアアップを目指したい」
「より自分に合った仕事がしたい」
など、前向きな理由を伝えておけばよいでしょう。
3-2. 事前の同意のないリファレンスチェックは違法
中途採用を行う企業が、応募者の前職の会社に対して、働きぶりなどに関する照会を行うことを「リファレンスチェック」といいます。
リファレンスチェックにより、前職の退職理由が応募先に判明してしまうのではないかと心配する方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、リファレンスチェックへの回答は「個人データの第三者提供」に当たり、原則として本人の事前同意を得なければ違法となります(個人情報保護法27条1項)。
そのため日本では、中途採用におけるリファレンスチェックはほとんど実施されていないのが実情です。
3-3. 退職証明書の提出を求められても問題ない
転職活動の応募先企業からは、前職の退職証明書の提出を求められることがあります。
退職証明書に退職理由が書いてあると、会社都合退職の事実が応募先企業に知れることとなります。
しかし労働者は、前職の会社が発行する退職証明書において、退職理由を記載しないよう求めることができます。会社が退職証明書を発行する場合、労働者が請求しない事項を記入してはならないからです(労働基準法22条3項)。
もし会社都合退職の旨が記載された退職証明書が発行された場合は、その部分の記載を削除した退職証明書の再発行を求めればよいでしょう。
4. 結論|会社都合退職は労働者に有利、デメリットはない
結論として、労働者の立場では、会社都合退職は雇用保険の受給について有利である反面、転職活動への悪影響は懸念されず、その他のデメリットも特にありません。
したがって、会社から「自己都合退職にしてあげる」などと言われても応じずに、堂々と会社都合退職をすればよいでしょう。
なお、解雇や雇い止めなどは違法・無効となるケースもあるので、不当に会社を追い出されたと感じている方は、弁護士へご相談ください。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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