縁側に蚊取り線香を焚いて浴衣姿で団扇を仰ぐ――。こんな夏のイメージもあるが、今年の夏はどうも蚊が少なかったように感じる。実際ウェザーニューズが8月に実施したアンケート調査では、「今夏の蚊、どうだった?」という問いに、74%の人が「いつもより蚊が少なかった」と回答したという。
夏になればふらりと現れ痒みをもたらす蚊。いったいどこに消えてしまったのか、害虫対策専門家の“蚊博士”こと、白井良和さんに話を聞いた。
蚊を見かけない理由は暑さ&水場の干上がり
虫よけスプレーや蚊取り線香、かゆみ止めといろいろな蚊の対策グッズはあるが、今年はあまり使わなかったなぁ……と感じている人もいるのではないだろうか。
「日本では蚊が約100種類いて、血を吸う蚊は約30種類です。その中でも特にメジャーな2種類が、東北以南で昼に刺してくるヤブカの“ヒトスジシマカ”と、夜寝ている間に刺してくるイエカの“アカイエカ”です。
蚊は高温になりすぎると不活発になり、吸血意欲がなくなります。“ヒトスジシマカ”の場合、活動が一番活発なのは気温25~30℃程度。35℃以上や15℃以下では鈍くなります。
アカイエカは22℃~27℃で活発になります。そして、30℃以上と約10℃以下の場合は鈍くなります」
今年の6月~8月までの夏の平均気温は、1898年の統計開始以来、2番目に暑い夏だった。人間と同じように蚊が熱中症になるというわけではないが、蚊にとって活動しやすい気温があり、猛暑となると蚊は涼しい場所で待機しているというわけだ。
さらに、猛暑による影響で蚊の孵化自体が行われないこともあるという。
「蚊の幼虫であるボウフラは生活の中での水の中で育ちます。生活の中の水というのは、植木鉢受け皿や廃タイヤ、ブロック塀の穴、屋外に置いているプラスティック容器などにたまった水です。この水たまりは雨が降らないとたまらないものも多く、また高温の日が続くと水が蒸発して干上がります。つまり、降水量が少なく高温が続くと、幼虫が育つ水たまりが少なくなり、成虫も少なくなることは考えられます」
10月以降はアカイエカに要注意!
今年あまり蚊を見なかったという人は、上記の条件に当てはまる地域だったために蚊が減ったように感じたのだ。逆に、当てはまらない地域では例年通り蚊と戦う夏となったはずだ。10月に入り、少しずつ肌寒い日が増えてくるはずだが蚊への対策は不要なのだろうか。
「“ヒトスジシマカ”は卵で越冬します。10月以降は孵化しなくなるため、成虫は生き残りだけになってくるので、今以上に増えることはありません。しかし、“アカイエカ”は成虫越冬で、10月ごろに多くなる可能性があります。冬だとしても“アカイエカ”が活動する温度になれば、当たり前ですが人を刺します。
これから長袖長ズボンなど肌を覆う服にはなっていくため、外出先では刺されにくくなっていきますが、人の出入りや窓の開閉の際に、家や車の中に蚊は入ってきます。蚊を入れないようすばやく出入りしたり、ドアや窓の開閉時間も短くするのがよいでしょう」
【教えてくれた人】白井良和さん
害虫防除技術研究所所長、有限会社モストップ取締役。蚊を研究して25年になる “蚊博士”。 害虫対策の専門家で蚊に限らず、ゴキブリ、ユスリカ、チョウバエ、コイガ、カメムシなどの害虫試験を行い、害虫対策商品の販売も行う。書籍の出版、テレビやラジオ等のメディア協力、YouTube動画配信、Web記事の監修等にも携わる。
取材・文/田村菜津季