昨今の飲酒スタイルの多様化にともない、お酒も多様化を遂げている。従来の製品や製法にはない、柔軟な発想で自由なお酒が次々と誕生する中、鹿児島が誇る本格焼酎の老舗蔵元と東京のクラフトコーラ製造所が異色のコラボを遂げた。「偶然から産まれた商品」だと語る『伊良コーラ酎』の秘密に迫った。
クラフトコーラ開発者が惚れ込んだ「まるで日本刀な焼酎」
異なる業種や業界が交わることで、新たな価値が生まれることがある。
『伊良コーラ酎』は、「焼酎」と「コーラ」という異色のコラボで作られた商品だ。共同開発したのは、鹿児島県で150年近くの歴史を誇る焼酎の蔵元「大山甚七商店」と、2018年7月に立ち上げた世界初のクラフトコーラ専門店「伊良(いよし)コーラ」。両社にはもともと接点はなかったと、大山甚七商店専務取締役の大山陽平さんが振り返る。
「2019年9月に開かれた展示会に出展した際、たまたま伊良コーラさんも出展されていて、代表のコーラ小林さんにお声がけしたのがきっかけです」
薩摩半島の最南端、鹿児島県指宿市宮ヶ浜に蔵を構える大山甚七商店は明治八年(1875年)創業。代表銘柄に『問わず語らず名も無き焼酎』『甚七』など。
大山甚七商店では当時、クラフトジンを商品化。伊良コーラとのコラボにあたり、“コーラ×ジン”と“コーラ×焼酎”の2タイプを提案したが、伊良コーラ代表のコーラ小林さんは“コーラ×焼酎”タイプで作るべきだと提言し、『伊良コーラ酎』開発へと至った。
「大山甚七商店さんのルーツはやっぱり芋焼酎。日本の蒸留酒である焼酎が持つ、日本刀のように洗練された世界が私は好きです。焼酎とコーラの意外性はきっと面白くなるし、何より自分自身が飲んでみたいと直感で思ったのが決め手でした」
東京都新宿区、下落合にある伊良コーラの総本店。漢方工房を営んでいた、コーラ小林さんの祖父のお店を改装して作った。21年4月には2号店となる渋谷店をオープン。
三度の改良を経て生み出した理想の味
『伊良コーラ酎』は大山甚七商店で製造された芋焼酎に『伊良コーラ』の原料を浸漬し、再蒸留して製造される。再蒸留し、アルコール度数を高めることで、原料由来のスパイシーな成分をより抽出できるのだ。2020年5月から2年にわたり計3回の改良を重ねたと大山さんは振り返る。
「1年目と2年目は、『伊良コーラ』に用いるスパイスやカラメルに、レモンとライムを加えたものを原料として使用していました。改良を重ね味は良くなりましたが、より『伊良コーラ』の味に近づけたいという課題も抱えていました」
『伊良コーラ酎』蒸留時に用いられる、ポットスチルとよばれる蒸留器。1回目は芋焼酎用の蒸留器を用いていたが、移り香などの懸念を考慮して、2回目以降ポットスチルへと変更した。
そこでコーラ小林さんが目をつけたのが、伊良コーラのRTD商品を製造時に生じる残渣だった。
「シロップを製造する際に使用したスパイス等を濾過したもの。フレーバーはしっかり残っているので、より『伊良コーラ』の味に近づけられるようになりました。しかも従来廃棄していたものを再利用しているので、環境への負荷も低減できます」
こうして現在の味にたどり着いた『伊良コーラ酎』。大山さんはイチオシの飲み方は、無糖の炭酸水で割る飲み方だ。
「水と混ぜても、スパイシーな香りを楽しめます。甘めの味わいが好きなら、トニックウォーターで割ると違った楽しみ方が味わえます 」
薬品ビンのような独特な見た目が特徴的な『伊良コーラ酎』。一般的には蒸留時にカットする初留部分をあえて多めに使用。レモンやライムをイメージする軽やかな香りが強く感じられる。
実際に飲んでみたが、芋焼酎の甘く華やかな香りのすぐ後に、『伊良コーラ』を想起させるスパイシーで重厚な香りが追いかけてくる。口の中に柑橘系の爽やかな香りが残るため、後味はスッキリとしている。大人数のパーティーなどで、楽しく飲むシチュエーションとの相性が良さそうだ。お湯で割って、少しだけジンジャーを足して寝る前のホットカクテルにしても美味しいだろう。コーラ小林さんのオススメは、食中酒としての飲み方だ。
「爽やかな味わいなので、香辛料の効いた肉料理など、味の濃いものによく合います。中でもハンバーガーは相性バツグンです!」
■商品情報
商品名:伊良コーラ酎003
アルコール分:45%
内容量:300ml
価格:3850円(税込み)
※20歳未満の飲酒は法律で禁止されています
取材・文/桑元康平(すいのこ)
1990年、鹿児島県生まれ。プロゲーマー。鹿児島大学大学院で焼酎製造学を専攻。卒業後、大手焼酎メーカー勤務などを経て、2019年5月から2022年8月まで、eスポーツのイベント運営等を行うウェルプレイド・ライゼストに所属。現在はフリーエージェントの「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズのプロ選手として活動中。代表作に『eスポーツ選手はなぜ勉強ができるのか』(小学館新書)。