数々の個性的な列車が走るJR九州。「D&S列車」と呼ばれている全11種類の観光列車は、全国的にも人気が高く、九州に訪れるならぜひとも乗りたい列車たちだ。今回はそんなD&S列車の中でもひと際存在感を放つ、金色の列車をご紹介します!
3つの“極上”を味わう幻の列車
その列車というのは博多~由布院間を主に月・金・土休日に運行されている、「或る列車」。金色に輝くゴージャスな列車の車内では、九州の食材に徹底的にこだわり抜かれたこの列車でしか味わえないフルコースが楽しめる。
2015年に誕生した「或る列車」は、デビュー当時は「スイーツのコース料理」が味わえる列車として話題になった。極上の食・時・おもてなしと3つの“極上”をメインテーマに運行されるD&S列車だ。
2両編成の車内は、ロマンチックな色とクラシカルな形・素材が特徴の明るい2人席と4人席が並ぶ1号車と、落ち着いた色とウォールナットの組子に囲まれた1人用・2人用コンパートメントが並ぶ2号車があり、それぞれ大きく趣きの異なる車内になっている。
ほかのD&S列車に比べて、ワンランク上に感じるゴージャスな内装はJR九州のフラッグシップトレインである、あの「ななつ星in九州」を彷彿とさせる。
広々とした開放感がある1号車 客室乗務員も6名乗務し、楽しい旅をアテンドしてくれる
2021年秋から運行ルートを博多~由布院間に一新し、風光明媚な久大本線を走行しつつ、博多発着にすることで新幹線や航空機利用も便利になり、他地域からのアクセス性が向上。併せて、提供される料理もスイーツのコースから、前菜・お魚料理・お肉料理・スイーツ・ミニスイーツという風にフルコースへとリニューアル。これまで以上にこの列車でしか体験することのできない“極上”の旅が堪能できるようになった。
世界的評価を持つ成澤由浩シェフがスペシャルコースを監修!
さて、そんな「或る列車」のフルコースを監修するのは東京 南青山Restaurant”NARISAWA”のオーナーシェフである、成澤由浩氏。「或る列車」の運行開始当初からメニュー監修を担当し、自身も公私問わず足しげく九州に通いつめる。
「列車の中だからといって、機内食や既存の列車内で出されている飲食メニューではなく、あくまでも南青山のお店で提供しているクオリティのものをご用意したいと考えています。使用する食材は私自身が生産者さまのところに行って、ご提供のお願いや育てる上でのご苦労を伺ったりしたものばかりです。九州の食材は本当に魅力的なものが多く、知り合いのシェフに食材を紹介することもあります。『或る列車』はまさに走るレストランです。九州を走る列車から、九州の車窓を眺め、口にする食材がどのような風土の元で作られているのか、そんなことも感じていただければと思っています」と成澤シェフは語る。
「或る列車」、実乗レポート!
では実際に「或る列車」の旅はどんなものなのか、旅の様子を少しご紹介しよう。
まず、「或る列車」は完全予約制の列車なので、希望する乗車日の5日前までに公式サイトから予約が必要。JR九州の旅行の窓口でも予約できるが10日前までの予約となるので、Webサイト経由がベターだ。運行日は月・金・土休日が中心だが不定期なので、こちらも公式サイトでチェックしよう。
「或る列車」は博多発10時58分頃発、由布院14時07分頃着の午前便と由布院15時頃発、博多18時07分頃着の午後便があり、どちらもコースメニューは同じものが提供される。人気の高い「或る列車」だけに予約は早めに行いたいが、平日となる月曜日と金曜日の午後便は比較的予約が取りやすいので狙い目だ。
列車のコンセプト上、10歳未満の子どもは乗車できない。車内メニューは季節に合わせた特別コースと九州産にこだわった各種アルコール、ソフトドリンクがフリーで楽しめる。料金は2万9000円より(大人2名利用 1名あたり)。
金色に輝く「或る列車」がホームに登場すると圧倒的なオーラを放ち、旅への期待感は最高潮を迎えたかのごとく。レッドカーペットが敷かれ、客室乗務員によるレセプションを受けていざ車内へ。
開放的な1号車はまさにレストランの雰囲気で、プライベート感があるコンパートメントが並ぶ2号車はより「とっておきの旅」にふさわしい佇まい。なお、どちらの席も料金は変わらない。
出発時刻になり、ホームではたくさんのお見送りが。JR九州のD&S列車はこうしたお見送りや列車へ手を振ってくれる沿線の人々の姿を多く見かける。ぜひ、恥ずかしがらずに車内から手を振り返して応えよう。
ほかのお客さんやJR九州の駅員さん、社員さんがみんなで見送りしてくれる
出発後、しばらくするとウェルカムドリンクがサーブされる。こちらは宮崎「都農ワイン」のスパークリングワインと佐賀「田島柑橘園」の完熟みかんジュースから選べる。
また、乗車中のドリンクはフリードリンクで、ワイン、焼酎、日本酒、完熟みかんジュース、紅茶、緑茶、そして水までもが全て九州産。珈琲はさすがに豆こそ九州産ではないが、成澤シェフも「絶品」と話す福岡「ハニー珈琲」による、「NARISAWAオリジナルブレンド」が用意されている。
さわやかなスパークリングワインを楽しんでいるといよいよ、成澤シェフ監修のフルコースの始まりだ。メニューは四季に応じて年4回変更され、今は秋メニューが楽しめる。
今回の前菜である“伊勢海老と茄子、秋のカクテル”は彩りも鮮やかで、長崎県産の伊勢海老と九州産の野菜たちの歯ごたえが楽しい。車内での調理はスペースも有限で、火や煙を出すことができないため、仕込みは毎朝、長崎県に設置されているキッチンで行われる。しかし、仕上げと盛り付けは車内で行われ、その作業は繊細そのもの。1号車の「BAR ARU」ではその様子を眺められるので、ぜひご自身で確かめてほしい。
続いてのお魚料理は“甘鯛とキノコ、蕪のカプチーノ仕立て”。車内で作られたふわふわの「カプチーノ」が美しい。
「或る列車」の車内パンフレットにはその日の食材や器を作った生産者の顔写真と思いがつづられているのも大きな特徴。ぜひ、こちらも読みながら旅を楽しみたい。
1号車「BAR ARU」で仕上げられていく料理たち。限られたスペースの中で美しい品々が完成する
そしてこの日のお肉料理は“牛すね肉のポ・ト・フ”だ。かわいらしく切り抜かれた野菜に、食べ応えのある鹿児島県産黒毛和牛すね肉。そして、それらを一つにまとめ上げる宮崎県産「黒岩土鶏」のスープ。少しずつ涼しくなっていく秋にふさわしい温かい一品だ。
アルコールも含めて「或る列車」はフリードリンク。料理に合わせてぜひ九州産のワインなども楽しもう
ジューシーな林檎とアイスクリームの温度差が楽しいメインスイーツ
コースの終盤に出されるのは「或る列車」の「伝統」ともいえる孤高のスイーツたち。メインスイーツは“温かい林檎と見えないパイ生地”、そして見た目にもかわいらしいミニスイーツは、“PB&J ピーナッツバター&ジェリー”、“ヘベス”、“イチジクのスパイシー赤ワイン”でコースを締めくくる。
「或る列車」で体験するとっておきの列車旅
「或る列車」には6名の客室乗務員が乗務し、その全員がJR九州の様々なD&S列車に乗務した経験を持つプロフェッショナルたちだ。揺れる車内、時間厳守の列車運行に沿ったコース進行など、「或る列車」ならではの苦労も多いが、それを微塵にも感じさせない、スマートかつ温かな接客は、JR九州の「とっておき」のひとつだ。
まさに車内サービスのプロフェッショナルである、JR九州の客室乗務員たち
長崎県早岐にある、駅に併設されたキッチンでは運行日ごとにていねいな仕込みが行われている(写真提供・JR九州)
途中の停車駅では地元の方々のおもてなしがあることも!(写真は午前便の田主丸駅)
成澤シェフは「『或る列車』発足時から、全てに徹底的にこだわってきましたが、その情熱を今日まで緩めることなく、JR九州さんと『或る列車』を運行させ続けることができた。ここまでこだわり続けるのは小さなレストランでも難しい」と語る。
列車で出される食事、そしてドリンクまでもが九州産にこだわり抜かれた「或る列車」の旅は、単においしいだけではない、深い感動をあなたに与えてくれるはずだ。
取材・文/村上悠太
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