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宇宙に移住する時に一般市民が直面する2つの心理的課題

2022.10.03

ガガーリンが人類初となる宇宙飛行を成功させ、そしてアームストロングらが月面への着陸を成功させ、さらには国際宇宙ステーションISSにおいて数多くの宇宙飛行士らが宇宙空間に長期に滞在を成功させた――我々人類は、宇宙空間において人体に対するさまざまな成功の上に、数多くの知見を蓄積してきた。

その成果は目覚ましいものがある。中でも宇宙における心理学(宇宙心理学)というものも重要な成果の一つとして挙げられるだろう。しかし、現状の宇宙心理学の対象は、選抜された精鋭の宇宙飛行士だ。

今後、そう遠くない将来において、移住へと向かう宇宙に対しては、これまで成果を挙げてきた”特殊”な宇宙心理学が一般の市民に適応できるのだろうか。一般市民向けの宇宙心理学というものはどこまで進んでいるのだろうか。

宇宙飛行士が作り上げてきた成果の一般市民への適応について

心理学とは、人の心と行動のメカニズムを科学的に解明する学問と定義できる。そのため、宇宙心理学とは、人が存在する場所が地球ではなく宇宙という空間を対象とした心理学と定義できるだろう。

しかし正直なところ、“宇宙心理学”という用語は、あまりアカデミックの領域で使われていない印象がある。数多くの論文などには、例えば、宇宙心理学という表現を使わず”宇宙における精神・心理的課題”という表記が使われている。

それらはさておき、京都大学名誉教授の木下冨雄氏は、日本心理学会の機関紙「心理学ワールド」(2014年10月号)の巻頭言で「宇宙心理学への誘い」というタイトルの寄稿をされている。その中で、次のようなことを述べられている。

<これまで宇宙飛行士しか行けなかった宇宙に、一般の市民が旅立つ可能性が出てきた。この傾向が加速されると、遠くない将来に「宇宙コミュニティ」とでもいうべき社会が成立するに違いない。そして社会が成立すれば,そこに新しい政治や経済や文化が必然的に発生する。

だがこのような市民が作る社会は、これまで宇宙飛行士が作ってきたプロ集団と相当違うだろう。そして市民たちが宇宙コミュニティの中で安全で快適な生活を営むには,宇宙空間と人間の特性を考慮した新しい社会的ルール、つまり宇宙ガバナンスのシステムを構築する必要があろう。>

上記の京都大学名誉教授の木下冨雄氏の文章は、心理学以外の人文・社会科学的なカテゴリーも含んでいるが、要はこれまでの宇宙飛行士が作り上げてきた実績や知見が、そのまま我々一般市民にも当てはまるのかどうか、ということが重要なのだということを意味していると感じる。

これまでに見出された宇宙での心理的課題とは?

宇宙飛行士の選抜・訓練に関する研究や宇宙ステーションなどの閉鎖空間における精神的課題に関する研究などを数多く手掛けられてきた久米稔博士によると、宇宙における心理的課題は大きく2つに大別できるという。

ひとつ目は、精神機能の低下だ。この精神機能の低下はさらにふたつに分類される。

a:神経疲労、不眠、頭痛などの神経の疲弊
b:反応時間の低下、集中力低下、記憶力低下、学習能力低下

などのことだ。

ふたつ目は、精神状態の悪化。さらに3つに細分できる。

d:不安、退屈、苛立ちなどの感情面の悪化
e:孤立感、縄狩り意識の強化、敵意などの社会面の悪化
f:モラルの低下、動機づけの低下・不安定などの動機づけ面での悪化

だという。これらの事項は、人間が長期間、孤立や閉鎖、拘束・無重力といった環境にさらされると、精神活動の低下と人格(個人的、社会的)的・動機づけ的側面にかかわるいわゆる精神状態といわれるものの悪化といった問題が出現するというのだ。

もう少し具体的に示すと、宇宙ステーションという地上にはない特殊なデザイン、閉鎖的な空間、地上からのコントロール、プライバシーの欠如、宇宙酔いや顔のむくみ、体力の低下、任務の遂行のプレッシャー、集団行動、決められスケジュール化された任務の遂行などさまざまな要因が上記の心理的な問題を出現させるというのだ。

宇宙の様々な要因が人の心理や精神に影響する宇宙心理学

一般市民向けの宇宙心理学実験の最前線

一般市民向けの宇宙心理学的な研究を挙げるとすれば、2018年2月20日、宇宙航空研究開発機構JAXAと資生堂は共同で、国際宇宙ステーション(ISS)を模した閉鎖環境でストレスに関する共同研究を実施している。公募で選ばれた8名の被験者がJAXAの閉鎖環境適応訓練設備に2週間滞在し、入室前と退室後にそれぞれデータを取得した。

その結果、閉鎖設備滞在の直後及び退出前日に、唾液中コルチゾールの日内変動リズムの乱れが見られ、表情の左右対称性などから表情のゆがみを評価した結果、閉鎖設備滞在中にゆがみ度が増したことがわかっている。この研究は、公募で宇宙飛行士以外を人選しているが、宇宙飛行士に対する研究の一環として行われているようだ。

宇宙における心理的課題について、研究対象が宇宙飛行士であるため、心理的な問題を出現させる背景も特殊な印象がある。例えば、一般市民が宇宙へと移住した際、全く見知らぬ人と集団行動をする可能性はあるだろうか。他にも決められたプレッシャーのかかる任務もないだろう。そしてプライバシーというものも確保されると考えられる。

では、無重力における顔のむくみや体力の低下などはどのように影響してくるのだろうか。詳細は不明だが、京都大学名誉教授の木下冨雄氏が述べたように、これまでの地球での生活とは違う、そして選抜された優秀な宇宙飛行士とは異なる、違った新しい社会的ルール、つまり宇宙ガバナンスのシステムが構築されるに違いない。

このように一般市民向けの宇宙心理学の実験というものは、強いては、一般市民を対象とした心理学以外の人文・社会科学的なカテゴリーの研究というものは、まだまだこれからの分野だろう。

惑星移住時代の到来

文/齊田興哉
2004年東北大学大学院工学研究科を修了(工学博士)。同年、宇宙航空研究開発機構JAXAに入社し、人工衛星の2機の開発プロジェクトに従事。2012年日本総合研究所に入社。官公庁、企業向けの宇宙ビジネスのコンサルティングに従事。新刊「ビジネスモデルの未来予報図51」を出版。各メディアの情報発信に力を入れている。

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