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【深層心理の謎】嫌悪や恐怖を抱いた表情の人物につい注目してしまうのはなぜ?

2022.09.28

 漠然と前を向いて歩いていると、前から歩いてくる女性の顔の表情に目が向いた。眉間に皺を寄せ、嫌悪感に満ち満ちた表情の眼差しは路上の片隅に向けられていたのだが……。

動揺し嫌悪感に満ちた表情に目を奪われる

 雑踏の中で視線を感じることがある。そういう時、かなりの確率で自分を見ている人物をすぐに特定できるのは考えてみればけっこう不思議なことだ。人間には視線を感じる“超能力”が備わっているというのだろうか。

 池袋でちょっとした買い物を早めに済ませると正午過ぎになっていた。快晴の空の下、東口の駅前を歩く。戻って仕事をしなければならないが、ちょうどランチタイムの時間だ。どこかで食べてから帰ることにしたい。

※筆者撮影

 明治通りを目白方面に進む。土曜日で人出は多く、広いとはいえない歩道は歩行者で溢れている。周囲に気を配らなければならない。地下道を通るべきだったかとも思ったが、地下は地下で池袋駅は人が多い。

 歩いていると時折視線を感じ、視線の“発生源”に目を向けると当然だがその人物と目が合う。自分と同じくらいの年代の男性だった。自分が知り合いの誰かに似ていたのだろうか。

 まったく知らない人物と目が合うのは場合によっては気まずい感じにもなるし、ストレスを感じることもあるので、あえて“発生源”に目を向けないこともある。それでも見られているとすぐに勘付くのはやっぱり不思議なことかもしれない。

 通りを進む。「南池袋一丁目」交差点のコーナーには行列が絶えない人気ラーメン店がある。久しぶりにラーメンを食べる選択もあるが、今は並んでいる時間はない。こちら側の歩道ではこの先あまり飲食店がないので、交差点で通りの反対側に移ることにした。

※筆者撮影

 反対側の歩道に移り明治通りを進む。コンビニに続いて交番があり、その先に鯛焼きの店がある。鯛焼きを最後に食べたのはいったいどのくらい前のことだろうか。まったく思い出すことはできない。

 この辺まで来るとだいぶ人通りは少ない。それでも前方からこちらに向かって歩いてくる3、4人の人影を認めたのだが、その中の1人の女性の顔に目を奪われた。

 女性の顔はマスク越しにも明らかな嫌悪感を示していて、眉間に皺を寄せ前方の路上に視線を落としていた。何か変なものでも落ちているのだろうか。

 女性が一瞥した視線の先を辿ってみると、歩道の片隅に桃が落ちていた。落ちた衝撃で崩れたのであろう、グチャグチャになった果肉が散らばっていた。確かに予期せず目にすれば動揺してしまうビジュアルだ。食べれば美味しい桃だが、こうなってしまえば残念ながら“汚物”である。買い物帰りの誰かが落としていったものなのだろうか。

アイコンタクト状態が常に注意を喚起しているわけではない

 普通の表情に戻ったその女性とすれ違う。今の表情であれば、当然だが特に注目することもなかった。そもそも人の顔をジッと見つめるのは不躾なことだ。件の桃もあまり見ないようにして通り過ぎる。

 それにしても自分を見ている人物を素早く特定できたり、今の女性のように何か尋常ではないものを見て狼狽している人物に目が向いてしまうのはいったいどういうわけなのだろうか。こうした我々の認知のメカニズムが最新の研究で解きほぐされていて興味深い。


「視線が私たちの注意をどのように形成するかについて、顔の感情的な表情が影響を与えていることを示すことができました」

 これが具体的に意味することは次のとおりです。喜びを示す顔、アプローチを表す感情は、観察者を直接見たとき、つまりアイコンタクトがあるとき(アプローチの合図でもある)に注目を集めます。

 同じことが怒りの表情にも当てはまります。なぜなら心理的な観点からは、怒りはアプローチ指向の感情でもあるからです。

 嫌悪感や恐怖などの回避志向の感情では状況が異なります。このような場合、観察者の注意をより惹きつけるのは、そらされた視線(つまり回避的な視線)です。

※「University of Wurzburg」より引用


 ドイツのユリウス・マクシミリアン大学ヴュルツブルクをはじめとする国際的な研究チームが2022年9月に「Journal of Experimental Psychology」で発表した研究では、アイコンタクトをとっている人物の顔は必ずしもすべてのケースにおいて注目されるものではなく、また自分ではないほかの方向を見ている人物も場合によっては注目を集めることが報告されている。

 研究チームは以前の研究で、ニュートラルな表情の人物はアイコンタクトをとった状態で最も早く特定できることを報告している。たとえば同一人物の4枚の顔写真のうち、1枚が“カメラ目線”で他の3枚ではそれぞれ別の方向を見ているのだが、顔の上に表示された文字の変化に“カメラ目線”の写真でいち早く気づけることが実験で確認されたのである。つまりアイコンタクトをとっている人物の顔にはより注意が注がれているということになる。

 研究チームは今回、先の研究結果をさらに深めるものとして、人物の表情を普通のニュートラルな表情に加えて、喜び、嫌悪感などといったバリエーションでそれぞれ“カメラ目線”とほかの方向を向いている写真を用意し、実験参加者が写真の顔の上の文字の変化に気づく時間を測定したのである。

 合計102人が参加した実験で明らかになったことは、アイコンタクトの状態では喜びの表情が、中立的な表情に続いて文字の変化に気づくのが早くなっていたことだ。それに続いて怒りの表情の反応速度が早かった。

 逆に視線が外れている状態では、嫌悪を感じている表情の反応速度が早くなったのである。必ずしもアイコンタクトの状態が常に注意を喚起しているわけではなく、その人物の表情によりけりであることになる。

 自分を見ている人物をすぐに見つけられるのは超能力でもなんでもなく、また何かを見て嫌悪や恐怖を抱いている人物に注目してしまうのも、我々の認知機能に備わっている“標準装備”ということになる。おそらくこうしたことは生存戦略を有利にするために我々が進化人類学的に獲得してきた能力なのだろう。

焼肉ランチで4種類の肉を味わう

 明治通りを進む。あの桃はすでに背後の存在なのでこの先はあの女性のような人を見るはずもない。

 というよりもそろそろどこかの店に入ろう。あまりゆっくりもしていられない。

 餃子系居酒屋がランチ営業をやっているようだ。その先にはラーメン店もある。2つの店の間にある2階にあがる階段の前には焼肉ランチの写真付きの展示物があった。久しぶりに昼から肉を食べてみてもいいだろう。2階にあがってみることにする。

 雑居ビルの2階にあることもあってか、入口は気さくな感じの外観で喫茶店であったとしてもおかしくない雰囲気だ。窓には「和牛卸問屋直営店」と記されている。

 ドアを開けて店内に入る。入口から受ける印象よりも店内は広い。カウンター席もあるが店の奥の4人掛けの席に案内された。テーブルの上にはガスコンロが置いてある。お店の人にさっそくランチメニューの「ロース&ハラミ&セセリ」のセットを注文し「カルビ」を追加した。

 先客は1人客と2人連れが1組だ。土曜日ということもあるのかスーツ姿の人はいないが、土日関係のない業種の人々も利用していそうだ。

※筆者撮影

 肉がやってきた。さっそく焼いていこう。

 焼肉は七輪で焼いたほうが美味しくなりそうな気はするが、ガスコンロの鉄板で焼くのも嫌いではない。面積があまりないので、一度に焼き過ぎることもなくて、七輪より落ち着いて食べられそうな気もする。

 焼きあがったハラミをタレにつけて口に運ぶ。美味しくて何もいうことはない。少し咀嚼して肉だけを味わってからご飯で追いかける。焼きあがったばかりの肉とご飯を同時に食べるのが焼肉ランチの醍醐味だ。

 路上に落ちてグチャグチャになってしまった路傍の桃を目撃してしまったわけだが、考えてみれば焼肉、特にタレに漬け込んだ焼肉のビジュアルはそのままでもけっこうグロテスクではある。焼肉とはそういうものだと目が慣れているともいえるのだが、実のところ見た目はかなり不気味だ。

 また昨今、肉の生食が一部で再び問題になっているが、生で提供される肉料理は刺身や寿司と同様に概して美しいビジュアルであるように思う。ひと昔前のレバ刺しなども見た目のよさもあって食べられていた側面があったのではないだろうか。それがもし焼く前の味噌ホルモンのようなビジュアルだったなら生で食べる危険性さえ感じるかもしれない。まさにさっきの路上の桃を見た女性のような目つきと表情になってしまう。

※筆者撮影

 見た目は悪い焼肉だが、この先もし2人で焼肉を食べるようなことがあった際には、美味しさのあまり思わず出た喜びの表情でお互いに目を合わせたいものである。

文/仲田しんじ

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