■連載/阿部純子のトレンド探検隊
「YEBISU BREWERY TOKYO」で35年ぶりに恵比寿でのビール醸造を再開
ヱビスビールは、ヱビス誕生の地・恵比寿で再びビール醸造を開始し、ヱビスブランドの拠点としてリアル体験施設を拡充、ファン獲得やコミュニティの発展に取り組むブランド戦略を発表した。
1890年に現在の渋谷区恵比寿に誕生した日本麦酒醸造会社(現サッポロビール)は、今日のヱビスビールのルーツである「恵比寿ビール」の製造・販売を開始。1988年に工場の移転に伴い、約100年におよぶビール製造の歴史に幕を下ろした。
「ヱビスビールは1988年に恵比寿工場を閉鎖し、1994年に恵比寿ガーデンプレイスとして開業しましたが、社内ではお客様との接点として一番わかりやすいビール醸造を再開したいという声が多くありました。恵比寿は生誕の地であり、共に発展してきた大切な場所で、これからも街と共に発展していきたい、この想いから35年ぶりに恵比寿の街でのビール醸造を再開することになりました。来年開業の『YEBISU BREWERY TOKYO』で東京生まれのビールブランドとして国内外のお客様にお伝えしていきたいと思っています」(サッポロビール 代表取締役社長 野瀬裕之氏)
10月末でヱビスビール記念館は休館し改装工事を開始。ヱビスビール発祥の地である恵比寿に、醸造施設を伴うヱビスのブランド体験拠点「YEBISU BREWERY TOKYO」として、2023 年末に開業予定。
同施設は「ミュージアムエリア」「ブリュワリーエリア」「タップルームエリア」で構成され、 ルーツ・現在・未来にかけるヱビスの物語に触れながら、新しいビールの楽しみ方が発見できる体験を提供する。
ブリュワリーの醸造能力は130キロリットルを予定、醸造設備を見学者が見えるような形にする。タップルームエリアは150席ほど用意され、ここで作ったここでしか飲めないヱビスビールの複数種類を提供する。
恵比寿駅の駅ナカ、恵比寿ガーデンプレイスにヱビスビアスタンドがオープン
「YEBISU BREWERY TOKYO」のオープンを見据え、街の名になり、駅の名になった「恵比寿」で恵比寿とヱビスが楽しめるビアスタンドが相次いでオープン、恵比寿の街全体でブランド体験を展開する。
○「TAPS BY YEBISU」
9月16日にオープンしたJR恵比寿駅東口構内の「TAPS BY YEBISU」は、JR東日本クロスステーションと共創した駅ナカ施設で、生活動線上でヱビスビールを感じることができる。
ヱビスビールをはじめ「琥珀ヱビス プレミアムアンバー」ほか数種のヱビスブランド商品を用意。季節限定のラインナップや、5種類のヱビスから組み合わせを選ぶビアブレンドなど多彩なビールの楽しみ方を体験できる。
フードメニューは“TAP&GO”をコンセプトに、好みに合わせてセレクトできる、短時間滞在の駅ナカならではの小皿料理や、オリジナル和香ソーセージ、フリット、煮込み料理など、ヱビスビールとのペアリングが楽しめるラインナップ。また、恵比寿の街の飲食店と定期的にコラボレーションを行い“恵比寿の街の逸品”として「特製ポテトサラダ」を提供する。
○「YEBISU BAR STAND 恵比寿ガーデンプレイス店」
恵比寿では初のYEBISU BARとなる「YEBISU BAR STAND恵比寿ガーデンプレイス店」が9月13日にオープン。スタンド席もあり、一人飲みや待ち合わせにも使える。
内装は1988年まで恵比寿にあったヱビスビールの工場をイメージし、赤レンガのカウンターやビール醸造に用いる銅製の釜をモチーフにしたカッパー色の照明、インテリアを施している。
樽生ヱビスは全ラインアップを揃え、5種類のレギュラーラインナップからミニグラスで2杯選べる飲み比べ「TASTING OF YEBISU」や、ランチ限定「ヱビスビールで煮込んだカレー」、「伊良(いよし)コーラ」と「ヱビス プレミアムブラック」を使用したビヤカクテル「翡翠ブラック~KAWASEMI BLACK~」など恵比寿ガーデンプレイス店限定メニューも。
デジタルプラットフォーム「YEBISU BEER TOWN」本格始動
「最近の若年層には、企業やブランドのビジョンに共感すると購入意欲が高まるという傾向が出ています。『サッポロ 黒ラベル』も若年層の購入意向が高まっており、ブランドビジョンがうまく浸透し始めていると感じています。ヱビスビールについてもブランドならではのビジョンや新しい価値を提案することで、お客様の期待を超えるブランドにしていきたいと考えています。
デジタルプラットフォーム『YEBISU BEER TOWN」』では、新コミュニケーション、新リアル体験接点、新商品が一体となった顧客接点戦略を推進。独自競争軸『幸せ時間を広げる先駆者』を際立たせるアクションの強化で、ブランドビジョンや想いに共感してブランドとつながっていたいと思ってもらえる、熱狂的なヱビスファンを増やしていくプラットフォームです」(サッポロビール 常務執行役員 マーケティング本部長 佐藤康氏)
ヱビスをきっかけに自由に語り合える会員制参加型コミュニティサイト「YEBISU BEER TOWN (ヱビスビアタウン)」は2月にプレオープン、9月から本格始動。コミュニティ機能「ヱビスご縁横丁」を実装し、会員同士の交流や会員とヱビスブランドとの双方向のコミュニケーションが図れる場所へと進化。ファンの中から選ばれた「実行委員会」と共創する。
「ヱビスご縁横丁」では3つのコミュニティスペースを用意。「みんなの“縁”会場」は、ファン同士でつながり語り合える場所。ファン代表の実行委員を立て、メンバーがグルメや趣味など自由にテーマを設定し語り合える場になっている。
「ヱビス担当語りBAR」はヱビスファンとヱビスブランド担当者が交流できる場。ヱビスファンの声を聞きながらブランドを共創すべく、商品をはじめ、さまざまなテーマをお題に担当者がつぶやき、会員からの質問にも回答する。
「YEBISU BEER TOWN」提携の飲食店エリア「絶品横丁」は、ヱビスが飲める飲食店に出合える場所。ヱビスビールを提供している全国の飲食店からのおすすめ情報や、日々のつぶやきなど、お店に行きたくなる情報を拡充していく。
コミュニティスペース内では、投稿に「いいね」でリアクションすることや、コメントを返信することも可能。「YEBISU BEER TOWN」を起点に、日々を彩るさまざまな人やもの、情報との“縁”が結ばれ、ヱビスを楽しむ時間がもっと彩り豊かになる場所を目指す。
「ひとつのブランドですべてのお客様に満足頂くのは難しいですが、個々のブランド商品を好きになると、とことんそのブランドを知りたいという志向の変化が生まれています。ブランドのナンバー1のファンになっていただくための仕組みづくりをサッポロビールは10年かけて行ってきました。ヱビスブランドも同じようにルーツや物語、体験で多くのファンを獲得していきたいと考えています」(野瀬社長)
【AJの読み】JR恵比寿の駅ナカで「第三の男」のメロディを聞きながらヱビスビールを飲む!?
ヱビスビールといえば、日本のプレミアムビールの元祖ともいえる、ちょっと贅沢をしたいときに飲むビールというイメージ。10月からビール類をはじめ多くの酒類が値上げされるが、高価格帯のプレミアムビールにとっては逆風になるのではないかといった質問も発表会では多く出た。
「2008年の値上げの際も買い控えが懸念されましたが、結果的に前年比30%増の売り上げになりました。ただ、今回はビール以外でも様々なものが値上げしており、ビール各社とも同じく値上げが続くので、同じぐらいの数字になるかはまだ不透明で、3~5%ほどはマーケットに影響が出てくるのではないかとみています。ヱビスビールが最盛期を迎える12月は店頭の仕掛けや販促策を打つことでさまざまな展開をして需要喚起していきたいと考えています」(野瀬社長)
「高価格帯のプレミアムビールは、価値を認めたものにはお金を払うというお客様の傾向から見ると、中長期的にはビジネスチャンスがあると思っていますが、社会情勢、世界情勢が不安定な中で、短期的には生活の中でものを選ぶ際に優先順位がプレミアムビールは下がっていると捉えています。
12月のようにイベントがある時期にはお金を払っても良いものが欲しいという土壌は残っているので、我々もしっかりとコミュニケーションしていき手に取っていただく施策を打っていきます」(サッポロビール マーケティング本部 ビール&RTD事業部長 武内亮人氏)
昨今のクラフトビール人気のように、好きなものにはお金を払ってもいいという人が一定数は必ずいる。こうした固定ファンを獲得するために、ヱビスビール発祥の地である恵比寿でブランド強化を図っていく試みは、エリアやルーツに根差した体験施設を活用してきたサッポロ・ヱビスの強みと言えるだろう。
JR恵比寿駅の発着メロディは「第三の男」。これは1994年の恵比寿ガーデンプレイスが開業した年からテレビCMで使われ始めたテーマ曲で、ヱビスの曲として定着している。駅ナカのヱビスビアスタンドで「第三の男」を聞きながらヱビスビールを飲む。街ぐるみの取り組みは確かにファンを増やしそうだ。
文/阿部純子