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交通事故の運行供用者責任に要注意!他人にクルマを貸すことが危険である理由

2022.09.26

友人や親族などに頼まれて車を貸すことは、リスクの高い行為です。もし貸した車で交通事故を起こされた場合、ご自身も「運行供用者責任」を負う可能性があります。

運行供用者責任に基づく損害賠償は、数百万円から数千万円に及ぶケースもあります。親しい人から頼まれたとしても、安易に車を貸すことは控えましょう。

今回は、他人に貸した車が交通事故を起こした場合に、車の所有者が負う運行供用者責任についてまとめました。

1. 運行供用者責任とは?

運行供用者責任とは、自己のために自動車を運行の用に供する者が、その自動車が起こした交通事故について負う損害賠償責任をいいます(自動車損害賠償保障法3条)。

運行供用者は運転者と連帯して、被害者に生じた損害を賠償しなければなりません。

1-1. 運行供用者責任の発生要件

運行供用者責任が発生するのは、以下の①~③の要件をすべて満たした場合です。

①加害車両の運行供用者に該当すること

運行供用者とは、「自動車の使用についての支配権を有し、かつ、その使用により享受する利益が自己に帰属する者」です(最高裁昭和43年9月24日判決)。

(例)
・自動車の所有者(他人に車を貸していた人、社用車である場合の会社など)
・自動車の登録上の所有者(名義を貸していた人)

②加害車両の運行によって、他人の生命または身体を害したこと

運行供用者責任は、人身事故についてのみ発生します。被害者に生じた損害が物損だけの場合、運行供用者責任は発生しません。

③以下のすべてを証明できなかったこと

1つでも証明に失敗すれば、運行供用者責任を免れることができません。

・自己および運転者が、加害車両の運行に関し注意を怠らなかったこと
・被害者または運転者以外の第三者に故意または過失があったこと
・自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかったこと

1-2. 運行供用者責任は、事実上の「無過失責任」

上記の要件によれば、運行供用者は自身に過失がないとしても、運行供用者責任を免れることは困難といえます。それ以外に、

・運転者に過失がなかったこと
・第三者による故意・過失の行為が介在したこと
・自動車に構造上の欠陥または機能障害がなかったこと

をすべて証明しなければ、運行供用者責任を免れないからです。

運転者自身が負う不法行為責任は、故意または過失の存在が発生要件とされています(民法709条)。

これに対して、運行供用者責任は事実上の無過失責任であり、運行供用者は損害賠償責任を負う可能性がきわめて高いことに注意が必要です。

1-3. 運転者に車を貸していた人は「運行供用者」に当たる

交通事故を起こした車両を運転者に貸していた人は、特段の事情がない限りは運行供用者に該当すると解されています。自動車の所有者は、その運行による危険を防止すべき立場にあることから、交通事故の責任を負うべきとの価値判断があるためです。

(なお、最高裁平成20年9月19日判決では、又貸しのケースでも所有者の運行供用者責任を認めています。)

前述のとおり、運行供用者責任は事実上の無過失責任であり、運行供用者は非常に高い確率で、被害者に対する損害賠償責任を負います。そのため、安易に他人に車を貸すことは控えるべきです。

2. 運行供用者責任に基づく損害賠償は、どの程度の金額になるのか?

運行供用者の損害賠償責任は、以下に挙げるように、幅広い損害項目について認められます。

・治療費
・装具、器具購入費
・付添費用
・介護費用
・入院雑費
・休業損害
・入通院慰謝料
・後遺障害慰謝料
・死亡慰謝料
・逸失利益
・葬儀費用
など

特に高額になりやすいのは、介護費用・後遺障害慰謝料・死亡慰謝料・逸失利益です。被害者に後遺症が残った場合や、被害者が死亡してしまった場合には、非常に高額の損害賠償が認められる可能性が高いでしょう。

①介護費用

交通事故の後遺症により、常時または随時介護が必要となった場合に、損害賠償の対象となります。平均余命に当たる数十年間の介護費用が損害となるため、数千万円~数億円に上る可能性があります。

②後遺障害慰謝料

交通事故の後遺症が残った場合に、被害者の精神的損害を補填するものとして、損害賠償の対象となります。認定される後遺障害等級に応じて、110万円~2,800万円程度が認められます。

③逸失利益

後遺症による労働能力の喪失または死亡により、将来にわたって失われた収入が損害賠償の対象となります。平均的な就労可能期間(67歳まで)に対応する逸失利益が損害となり、被害者の年収や年齢によっては数千万円~数億円に上る可能性があります。

自動車の所有者(=運行供用者)が任意保険に加入していなかった場合、数千万円~数億円の損害賠償を支払うことはほぼ不可能でしょう。

そのうえ、運行供用者責任に基づく損害賠償債務は、自己破産をしても免責されない可能性があります(破産法253条1項3号)。

他人に車を貸すことには、一生かけて損害賠償を支払うリスクを負う面があるので、特別の事情がない限りは避けることをお勧めいたします。

取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
https://abeyura.com/
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