子どものいる夫婦が離婚をする場合、どちらか一方を親権者と定める必要があります。
法制審議会では共同親権の導入が議論されていますが、現在のところ導入には至っていません。
参考:なぜまとまらない?元夫婦の「共同親権」導入に関する中間試案公表は先送りに|@DIME
離婚後の親権者は協議で決定するのが原則ですが、まとまらなければ家庭裁判所の判断を求めることになります。家庭裁判所は、どのように離婚後の親権者を決定するのでしょうか?
今回は、離婚後の親権者の決め方・考慮要素・親権獲得のポイントなどをまとめました。
1. 離婚後の親権者はどのように決まるのか?
離婚後の親権者は、原則として協議で決定します。
もし協議が調わなければ、審判手続きや離婚訴訟を通じて裁判所が決定します。
1-1. 原則として協議で決める
夫婦が協議離婚をする場合、協議によってどちらか一方を親権者と定めなければなりません(民法819条1項)。
財産分与・慰謝料・婚姻費用など、他の離婚条件と併せて、親権についても話し合うことになります。
なお、子どもに関する事項としては、親権と併せて、養育費の支払いと面会交流の方法について取り決めるのが一般的です。
1-2. 協議が調わない場合、審判・訴訟で決める
親権に関する協議がまとまらない場合、当事者は家庭裁判所に対して、親権者決定の審判を請求できます(民法819条5項)。
また、夫婦の一方によって離婚訴訟が提起され、離婚を認める判決を言い渡す場合には、裁判所が併せて離婚後の親権者を決定します(同条2項)。
親権に関する審判・訴訟では、裁判所は子の利益の観点を最重視して、どちらの親が親権者にふさわしいかを判断することになります。
2. 親権者決定の際に重視される4つの原則
裁判所が離婚後の親権者を決定する際には、実務上、以下の4つの原則が重視されていると考えられます。
・母性優先の原則
・継続性の原則
・兄弟姉妹不分離の原則
・子どもの意思尊重の原則
2-1. 母性優先の原則
「母性優先の原則」とは、特に乳幼児の時期には母親による監護の重要性が高いとして、母親に対して優先的に親権を与えるという考え方です。
2020年度の司法統計によれば、1万8,035件の離婚調停・審判事件のうち、母親が親権者と定められたケースが1万6,908件(93.8%)を占めています。
参考:令和2年度司法統計 第23表 「離婚」の調停成立又は調停に代わる審判事件のうち「子の親権者の定め」をすべき件数―親権者別―全家庭裁判所|裁判所
ただし、男女同権・男女共同参画の考え方が浸透した現代では、裁判例において母性優先の原則が明言されることはほとんどなくなりました。
現実には上記のとおり、親権争いでは全体的に、母親有利の状況が存在します。
しかし、それは単に「母親だから」ではなく、母親が育児の大きな割合を担う全体傾向が反映されているものと思われます。
2-2. 継続性の原則
「継続性の原則」とは、子どもを主に監護してきた側に親権を認めるという考え方です。子どもの養育環境の激変を防ぎ、子どもの精神や人格形成に悪影響を与えないようにする目的があります。
日本では伝統的に、特に幼少期において、父親よりも母親の方が子どもと長い時間を過ごす傾向にあります。その場合、継続性の原則の観点から、母親の方が親権争いにおいて有利です。
2-3. 兄弟姉妹不分離の原則
「兄弟姉妹不分離の原則」とは、人格形成の観点からは、兄弟姉妹を一緒に育てることが望ましいとする考え方です。
子どもが複数いる場合、裁判所は親権を一方の親に集中させる傾向にあります。
2-4. 子どもの意思尊重の原則
「子どもの意思尊重の原則」とは、子どもがある程度以上の年齢に達している場合には、子どもの意思を尊重して親権者を決定すべきという考え方です。
15歳以上の子どもについては、家庭裁判所が親権者決定の審判をする場合、子どもの陳述を聴くことが義務付けられています(家事事件手続法152条2項)。
実務上は、子どもがもう少し下の年齢(12歳前後)であっても、親権者の決定に当たって子どもの意思が尊重される傾向にあります。
3. 離婚後の親権を獲得するためのポイントは?
離婚後に親権を獲得したい場合には、「長期間にわたって、配偶者よりも多くの育児を行った」と証明することが重要なポイントです。
突然育児にかける時間を増やしてもダメで、幼少期から子どもと継続的に関わってきたことが求められます。
その一方で、子どもがある程度以上の年齢であれば、親権者の決定に当たって子どもの意思が尊重される傾向にあります。
今後の生活や将来のことについて、子どもと十分にコミュニケーションをとれば、子どもの信頼を得て親権争いを有利に進められるかもしれません。
ただし最終的には、子どもの利益を最優先に考えて親権者を決めるべきです。
養育費の支払いや面会交流の方法も含めて、どのような形が望ましいかにつき、できる限り夫婦間で話し合いを重ねてください。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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